作業員名簿や再下請負通知書など、建設業の安全書類は現場ごとに量が多く、作成と回収、確認に多くの時間がかかります。紙とExcelのやり取りを減らそうと、電子化を検討する会社が増えています。
この記事では、安全書類を電子化するときに確かめたい法令の要件と保存期間、電子化が求められる背景を整理します。進め方の5つの手順、ツールを選ぶときの判断の基準、電子化を急がなくてよいケースもまとめました。
建設業の安全書類とは
安全書類は、工事現場の施工体制や作業員、持ち込む機械などを元請会社が把握するために、下請会社が作成して提出する書類の総称です。表紙の色から「グリーンファイル」とも呼ばれます。法令で作成が義務づけられた書類と、労働災害を防ぐために元請会社が求める書類が混ざっているのが特徴です。
中心になるのが施工体制台帳です。建設業法は、特定建設業者が発注者から直接請け負った工事で、下請契約の請負代金の総額が政令で定める金額以上になるときに、施工体制台帳を作成して工事現場ごとに備え置くことを求めています(出典:e-Gov法令検索「建設業法」第24条の8)。
政令で定める金額は5,000万円で、建築一式工事の場合は8,000万円です(出典:e-Gov法令検索「建設業法施行令」第7条の4)。公共工事では、これとは別の扱いが定められている場合があるため、発注者の要領も確認してください。
国土交通省は、令和2年10月1日以降に契約する建設工事向けに、施工体制台帳、施工体系図、再下請負通知書、作業員名簿の作成例を公表しています。作成例以外の様式でも、法令上の記載事項を満たしていれば使えるとしています(出典:国土交通省「施工体制台帳、施工体系図等」)。
| 書類 | 主に作る会社 | 内容 |
|---|---|---|
| 施工体制台帳 | 元請会社 | 下請会社の名称、工事の内容、工期、技術者など |
| 施工体系図 | 元請会社 | 各下請会社の施工の分担関係を示す図 |
| 再下請負通知書 | 下請会社 | さらに下請に出した会社と工事の内容 |
| 作業員名簿 | 下請会社 | 現場に入る作業員の資格、保険の加入状況など |
| 持込機械等の使用届、火気使用届など | 下請会社 | 現場に持ち込む機械や火気の使い方 |
このほか、新規入場時の教育の記録や、工事車両の届など、元請会社ごとに求める書類が加わります。どの書類を提出させるかは元請会社の運用によって違うため、電子化の前に自社で扱っている書類を洗い出すことが出発点になります。
安全書類は電子化してよいのか:法令の確認
電子化を考えるときに最初に気になるのが、紙で備え置く必要があるのかという点です。施工体制台帳については、建設業法施行規則が電子的な記録での代用を認めています。

第一項各号に掲げる事項が電子計算機に備えられたファイル又は電磁的記録媒体に記録され、必要に応じ当該工事現場において電子計算機その他の機器を用いて明確に紙面又は出力装置の映像面に表示されるときは、当該記録をもつて法第二十四条の八第一項に規定する施工体制台帳への記載に代えることができる。
出典:e-Gov法令検索「建設業法施行規則」第14条の2第3項
ポイントは、「必要に応じ当該工事現場において」表示できることです。データをクラウドに置くだけでなく、現場でパソコンやタブレットを使って、すぐに画面に表示したり印刷したりできる状態にしておく必要があります。
台帳に添付する書類も、スキャナで読み取るなどの方法でファイルに記録し、現場で同じように表示できれば、その記録で添付書類に代えることができます(出典:e-Gov法令検索「建設業法施行規則」第14条の2第4項)。紙で受け取った資格証の写しなどを、スキャンして保管する方法が考えられます。
備え置く期間と保存期間
施工体制台帳を現場に備え置く期間は、原則として建設工事の目的物の引渡しまでです(出典:e-Gov法令検索「建設業法施行規則」第14条の7)。工事が終わったあとも、台帳の一部は営業所に備える帳簿に添付して保存します(出典:e-Gov法令検索「建設業法施行規則」第26条第2項)。
帳簿と添付書類の保存期間は、工事の目的物を引き渡したときから5年間です。発注者と締結した住宅を新築する工事の場合は10年間になります(出典:e-Gov法令検索「建設業法施行規則」第28条)。電子化するときは、工事が終わったあとも、この期間はデータを消さずに取り出せる状態にしておくことが前提になります。
法令で様式が決まっていない労務安全の書類は、元請会社の社内ルールや発注者の要領に従います。電子化してよいか、押印や署名をどう扱うかは、元請会社と発注者に確認してください。国土交通省は、建設業者以外の資材業者や警備業者などについて、施工体制台帳への記載の義務はなく、押印も不要としています(出典:国土交通省「施工体制台帳、施工体系図等」)。
安全書類の電子化が求められる背景
電子化が進む理由の一つは、建設業の働き方の変化です。建設業にも、令和6年4月から時間外労働の上限規制が適用されています。
建設業では、災害時における復旧及び復興の事業を除き、時間外労働の上限規制が原則どおりに適用されます。
出典:厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
現場の監督者は、日中は現場の管理に追われ、書類の確認や修正を夕方以降に行うことも少なくありません。書類の回収や転記、差し戻しの手間を減らすことは、労働時間を減らすための現実的な手段の一つです。
もう一つの流れが、建設キャリアアップシステム(CCUS)の普及です。国土交通省は、CCUSを次のように説明しています。
「建設キャリアアップシステム(CCUS)」は、建設技能者の資格や現場での就業履歴等を業界横断的に登録・蓄積し、技能・経験に応じた適切な処遇につなげようとする取組です。
出典:国土交通省「建設キャリアアップシステムの概要」
国土交通省は、施工体制台帳等はCCUSを用いて作成できるとし、民間のシステムの中にもCCUSに登録された情報を使って台帳を作れるものがあると案内しています(出典:国土交通省「施工体制台帳、施工体系図等」)。作業員の資格や保険の情報を一度登録すれば、現場ごとに書き直す手間を減らせる可能性があります。
作業員名簿は、施工体制台帳の一部として作成する形に見直されています。自治体の案内でも、作業員名簿の記載例にCCUSの事業者IDや技能者IDの書き方が加わり、未登録の場合は空欄とする扱いが示されています(出典:山口県土木建築部「施工体制に関する様式等の一部変更について(お知らせ)」(令和3年12月))。
電子化のメリットと注意点
電子化の効果は、元請会社と下請会社の両方に出ます。一方で、取引先が多い業界ならではの注意点もあります。
主なメリット
- 同じ情報を何度も書かずに済む:会社や作業員の情報を一度登録すれば、現場ごとの書類に使い回せる
- 提出と確認が早くなる:郵送や持参が不要になり、差し戻しもその場でできる
- 期限の管理がしやすい:資格や健康診断、保険の期限切れに気づきやすくなる
- 保管と検索が楽になる:工事が終わったあとも、必要な書類をすぐに探せる
注意したい点
- 下請会社が使えないと定着しない:元請会社だけが導入しても、協力会社が紙で出し続ければ二重管理になる
- 元請会社ごとにツールが違う:下請会社は、取引先ごとに別のツールへの入力を求められることがある
- 個人情報を多く扱う:作業員の生年月日、住所、健康診断の結果などを扱うため、閲覧できる人の範囲を決める必要がある
- 現場で表示できることが前提:通信の状態が悪い現場では、表示や印刷の方法を別に用意しておく
こうした注意点の多くは、導入前の準備で減らせます。特に、協力会社への説明の進め方と、個人情報を見られる人の範囲は、ツールを選ぶ前に社内で話し合っておくと、導入後の手戻りを防げます。
安全書類を電子化する5つの手順
電子化は、ツールを選ぶ前の準備で結果が大きく変わります。次の5つの手順で進めると、現場と協力会社の混乱を抑えられます。

手順1:扱っている書類を洗い出す
現場ごとにやり取りしている書類を一覧にし、法令で必要なもの、発注者が求めるもの、自社のルールで求めているものに分けます。長年の慣習で残っているだけの書類が見つかることもあります。
手順2:発注者と元請会社のルールを確認する
公共工事では、発注者が書類の提出方法や様式を指定していることがあります。下請会社の立場であれば、主な元請会社がどのツールや様式を使っているかも確認しておきます。
手順3:小さな現場で試す
いきなり全現場に広げず、協力会社の数が少ない現場で試します。入力に時間がかかる項目や、現場での表示に困る場面を先に見つけておくと、本格導入のときの説明がしやすくなります。
手順4:協力会社への説明と支援を用意する
協力会社には、入力の手順書や問い合わせの窓口を用意します。パソコンの操作に不慣れな会社には、最初の登録だけ一緒に行うなど、移行期間の支援を考えておきます。
手順5:保存と閲覧のルールを決める
誰がどの書類を見られるか、工事が終わったデータをいつまで保存するか、現場で表示できない場合にどうするかを決めて、社内の規程に書いておきます。
下請会社の立場で準備しておくこと
安全書類の電子化は元請会社が主導することが多いものの、書類を作る量が多いのは下請会社です。取引先の電子化に振り回されないために、自社の側で準備しておけることがあります。
会社と作業員の基本情報を一か所にまとめる
許可番号、社会保険の加入状況、作業員ごとの資格や健康診断の受診日など、どの元請会社にも出す情報を、自社で一つの表にまとめておきます。取引先ごとにツールが違っても、元になる情報が整っていれば入力の手間と誤りを減らせます。
資格証や修了証の写しをデータで保管する
技能講習の修了証や免許証の写しは、提出を求められる機会が多い書類です。スキャンしたファイルを作業員ごとに整理し、有効期限を一覧で確認できるようにしておくと、新しい現場に入るたびに探す手間が減ります。
CCUSへの登録状況を確認する
作業員名簿の記載例には、CCUSの事業者IDや技能者IDの欄があります(出典:山口県土木建築部「施工体制に関する様式等の一部変更について(お知らせ)」)。元請会社のツールがCCUSの情報を使う場合に備えて、自社と作業員の登録状況を確認しておくと、書類の作成がスムーズになります。
ツールを選ぶときの判断の基準
安全書類の電子化には、労務安全書類に特化したサービスのほか、現場の写真や図面、工程とまとめて管理するクラウドサービスもあります。どちらが合うかは、困りごとが書類だけなのか、現場の情報共有全体なのかで変わります。比べるときの確認点をまとめました。

- 国土交通省の作成例など、法令の記載事項を満たす様式に対応しているか
- CCUSの情報を取り込めるか、取り込む場合に別の手続きが必要か
- 協力会社が無料で使えるか、利用者の数で料金が変わるか
- スマートフォンやタブレットから、現場で表示・出力できるか
- 資格や保険の期限を知らせる仕組みがあるか
- 閲覧できる人の範囲を設定でき、操作の記録が残るか
- 工事が終わったあとも、保存期間の間データを取り出せるか
書類の電子化をきっかけに、現場の情報をまとめて管理したい場合は、建設業に特化した現場管理のクラウドサービスのように、写真・図面・工程をスマートフォンで共有できるサービスも選択肢になります。安全書類の作成にどこまで対応しているかは製品によって違うため、資料で確認してください。
費用の考え方
費用は、元請会社のアカウント数、現場の数、協力会社の利用料の有無、初期設定の支援の有無で大きく変わります。料金表だけで比べず、自社の現場数と協力会社の数を当てはめて、年間の費用の目安を出してから比べると判断しやすくなります。
あわせて、いま書類作成にかかっている時間も数えておきます。現場の監督者や事務の担当者が、1現場あたり何時間を書類に使っているかが分かると、導入の効果を説明しやすくなります。
電子化を急がなくてよいケース
施工体制台帳の作成が必要になる規模の工事が少なく、協力会社も数社に限られる場合は、Excelの様式と共有フォルダの運用を整えるだけで足りることもあります。また、主な元請会社が独自のツールを指定している下請会社は、自社で別のツールを入れる前に、元請会社の仕組みに合わせるほうが負担が少なくなります。
あわせて読みたい
ツナグバで、建設業の現場管理サービスを比べる
ツナグバは、法人向けサービスを無料で探し、複数のサービスの資料をまとめて請求できるサイトです。
ITツール・SaaSの分野では、工事現場の写真、図面、工程などをスマートフォンでまとめて共有・管理できる、建設業に特化したクラウドサービスを掲載しています。安全書類の電子化とあわせて、現場の情報共有を見直したい会社の選択肢になります。
現場の数、協力会社の数、いま紙で扱っている書類の種類をまとめたうえで、資料で詳細を確認してください。
こんな課題があれば
- 現場の写真を整理するのに、事務所に戻ってから時間がかかっている
- 図面や工程表の最新版がどれか分からず、古い資料で作業してしまうことがある
- 現場と事務所、協力会社との連絡が電話に頼っていて、伝え漏れが起きている
掲載サービスでできること
- 写真や図面を現場ごとにまとめられる:工事写真や図面、書類を現場ごとに整理して保存できます。必要な資料を探す時間を減らせます。
- スマートフォンで現場から共有できる:撮った写真や作業の状況を、現場からその場で共有できます。事務所にいる人も、現場の様子を確認しやすくなります。
- 工程や連絡を関係者で確認できる:工程の予定や連絡事項を、関係者が同じ場所で確認できます。協力会社がどこまで使えるかは製品によって違うため、資料で確認してください。
資料で確かめたいこと
- 協力会社など社外の人も使えるか、その場合の費用はどうなるか
- 写真や書類の保存容量と、超えたときの料金
- 電波の届きにくい現場でも使えるか
- いま使っている図面ソフトや書類の形式に対応しているか
- 料金が利用人数ごとか、現場ごとか、会社ごとか
よくある質問
施工体制台帳は、紙で現場に置かなくてもよいのですか?
建設業法施行規則では、記載事項がファイルなどに記録され、必要に応じて工事現場で画面に表示したり紙に出したりできれば、その記録で台帳への記載に代えられるとされています。現場で確実に表示できる環境を用意しておくことが前提です。
安全書類に押印は必要ですか?
法令で様式が決まっていない書類の押印は、元請会社や発注者のルールによります。電子化にあわせて押印を省くか、電子的な承認の記録に置き換えるかを、元請会社と発注者に確認してください。
工事が終わった安全書類は、いつまで保存すればよいですか?
帳簿に添付する施工体制台帳の一部は、目的物の引渡しから5年間、発注者と締結した住宅を新築する工事は10年間の保存が求められます。それ以外の書類は、社内の規程や元請会社のルールで期間を決めておきます。
協力会社がパソコンに不慣れな場合はどうすればよいですか?
スマートフォンから入力できるツールを選ぶ、最初の登録を一緒に行う、移行期間は紙での提出も受け付けて事務の担当者が入力する、といった方法があります。協力会社の負担が増えないかを、導入前に聞いておくと安心です。
参考資料
- e-Gov法令検索「建設業法」(第24条の8)
- e-Gov法令検索「建設業法施行令」(第7条の4)
- e-Gov法令検索「建設業法施行規則」(第14条の2、第14条の7、第26条、第28条)
- 国土交通省「施工体制台帳、施工体系図等」
- 国土交通省「作業員名簿(作成例)」
- 国土交通省「建設キャリアアップシステムの概要」
- 厚生労働省「建設業・ドライバー・医師等の時間外労働の上限規制」
- 山口県土木建築部「施工体制に関する様式等の一部変更について(お知らせ)」(令和3年12月)
