社員のパソコン操作やクラウドの使い方に差があり、教える側の負担が大きいと感じている会社は少なくありません。生成AIの利用が広がり、情報漏えいへの備えも求められるなかで、全社員に共通の基礎をそろえたいという声も増えています。

この記事では、社員向けのITリテラシー研修について、学ぶ範囲の決め方、対象者ごとの内容、具体的な手順、実施形態の選び方を整理します。効果の確かめ方や、費用と助成金の考え方、外部の研修を使わなくてよいケースもまとめました。

社員に求められるITリテラシーとは

ITリテラシーという言葉は、人によって指す範囲が違います。パソコンの基本操作を思い浮かべる人もいれば、データの活用や情報セキュリティまで含めて考える人もいます。研修を企画する前に、自社で何を指すのかをそろえておくことが大切です。

範囲を決めるときの手がかりになるのが、IPAが公表しているデジタルスキル標準です。デジタルスキル標準は、全てのビジネスパーソンが身につけるべきスキルの標準である「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材のための「DX推進スキル標準」の2つで構成されています(出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的」)。

全てのビジネスパーソンが身につけるべき能力・スキルの標準として、一人ひとりがDXに関するリテラシーを身につけることで、DXを自分事ととらえ、変革に向けて行動できるようになることをねらいとしています。

出典:IPA「DXリテラシー標準(DSS-L)概要」

ここで示されているのは、操作を覚えること自体ではなく、社員が自分の仕事を変える行動につなげることです。研修の目的も「ツールを使えるようになる」で止めず、「自分の業務で何を変えるか」まで決めておくと、内容を選びやすくなります。

DXリテラシー標準は、「Why」(DXの背景)、「What」(DXで活用されるデータ・技術)、「How」(データ・技術の利活用)、「マインド・スタンス」の4つで構成されています(出典:IPA「DXリテラシー標準(DSS-L)概要」)。2023年8月には生成AIに関する記載が追加され、2026年4月にはデジタルスキル標準のバージョン2.0が公表されました(出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「デジタルスキル標準(DSS)策定の背景・目的」)。社内の研修を考えるときは、この4つの区分に自社の業務を当てはめると、抜けている分野が見えやすくなります。

区分研修で扱う内容の例業務での場面
背景(Why)社会や顧客の変化、自社の業務がどう変わるか新しいツールを使う理由を理解する
データ・技術(What)クラウド、データ、生成AI、ネットワークの基礎社内システムの仕組みを理解する
利活用(How)表計算、共有ドライブ、チャット、生成AIの使い方、情報セキュリティ日々の資料作成や共有、問い合わせ対応
マインド・スタンス新しい方法を試す姿勢、学び続ける習慣業務の進め方を見直す

この表は、DXリテラシー標準の4つの区分をもとに、ツナグバ編集部が研修内容の例を整理したものです。すべてを一度に扱う必要はありません。自社の課題に近い区分から始めます。

社員向けITリテラシー研修が必要とされる理由

研修が求められる背景には、業務で使うツールの変化と、情報セキュリティのリスクの両方があります。

総務省の令和8年版情報通信白書によると、生成AIの活用方針について「わからない」と回答した企業を除いた集計で、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると回答した日本企業の割合は86.4%でした(出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況)。業務類型では「議事録・メール作成補助」での活用が約7割と最も高く、「営業・販売」が約6割、「社内ヘルプデスク」が約5割と続いています(出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況)。

生成AIのように新しいツールが日常の業務に入ってくると、使い方を個人の工夫に任せたままでは、社員の間の差が広がります。リスクへの備えについて、白書は次のようにまとめています。

日本では「全社的な指針やガイドラインを整備している」と回答した割合が41.1%と最も高かった。

出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」懸念されるリスク及びリスク対策のための取組状況

同じ調査では、日本で懸念されるリスクとして「社内情報の漏洩などのセキュリティリスクがある」と回答した割合が最も高くなっています(出典:総務省「令和8年版 情報通信白書」懸念されるリスク及びリスク対策のための取組状況)。ガイドラインを作っても、社員が内容を理解していなければ守られません。ルールを伝える場としても、研修が役に立ちます。

情報セキュリティの面では、IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編で、1位が「ランサム攻撃による被害」、3位が「AIの利用をめぐるサイバーリスク」、10位が「ビジネスメール詐欺」でした(出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」)。メールの添付ファイルや偽の請求など、社員一人ひとりの行動で防げる被害もあります。研修では、不審なメールや添付ファイルを開かないこと、生成AIに入力してよい情報、偽の請求や送金の依頼に気づく方法などを扱います。

IPAの情報セキュリティ10大脅威2026組織編から、1位ランサム攻撃による被害、3位AIの利用をめぐるサイバーリスク、10位ビジネスメール詐欺と、研修で扱う内容の例を示した表

対象者別に研修の内容を決める

全社員に同じ内容を行うより、対象者ごとに目的を分けたほうが、業務に結びつけやすくなります。主な対象者と内容の例は次のとおりです。

対象者主な目的内容の例
新入社員社内の道具を安全に使い始める社内システムの使い方、メールとチャットのマナー、パスワードの管理
全社員共通の基礎とルールをそろえる情報セキュリティの基本、生成AIの社内ルール、データの共有方法
管理職部下の業務を見直し、判断できるツール導入の判断、データを使った業務の見直し、情報漏えい時の対応
社内の推進役他の社員に教え、相談に乗れる操作の教え方、よくある質問への対応、研修資料の作り方

新入社員は、配属の前に社内のツールを一通り使えるようにすることが目的です。全社員向けは、情報セキュリティと生成AIの社内ルールなど、知らないと会社全体のリスクになる内容を優先します。

管理職は、自分で操作できることよりも、部下の業務をどう変えるかを判断できることが大切です。社内の推進役は、ほかの社員に教える立場になるため、知識に加えて教え方も学ぶ必要があります。

研修の進め方5つの手順

社員向けのITリテラシー研修は、次の5つの手順で進めると、目的と内容がずれにくくなります。

社員向けITリテラシー研修の進め方を、現状と課題を確かめる、目的と対象者を決める、内容と実施形態を選ぶ、実施して業務で試す、効果を確かめて見直すの5つの手順で示した図

手順1:現状と課題を確かめる

まず、社員がどこでつまずいているかを確かめます。情報システムの担当者への問い合わせ内容や、管理職への聞き取り、簡単なアンケートが手がかりになります。情報セキュリティについては、IPAの「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」のように、自社の対策状況を確かめる資料も公開されています(出典:IPA「5分でできる!情報セキュリティ自社診断」)。

手順2:目的と対象者を決める

「誰が」「どの業務で」「何をできるようになるか」を決めます。たとえば「営業部の全員が、共有ドライブで資料を管理できるようになる」のように、具体的な業務の言葉で書くと、内容を選びやすくなります。

手順3:内容と実施形態を選ぶ

目的に合わせて内容を選び、集合研修、オンライン研修、eラーニング、社内講師のどれで行うかを決めます。実施形態の選び方は次の章で整理します。

手順4:実施し、業務で試してもらう

研修では説明だけでなく、実際の業務に近い演習の時間を取ります。研修のあとに、学んだことを自分の業務で試す期間を設けると、定着しやすくなります。

手順5:効果を確かめ、内容を見直す

理解度テストやアンケートだけでなく、業務での変化を確かめます。問い合わせの件数や、ツールの利用状況などを研修の前後で比べると、次の研修で何を変えるべきかが分かります。

実施形態の選び方

研修の実施形態には、それぞれ向いている場面があります。主な違いは次のとおりです。

実施形態向いている場面注意点
集合研修(対面)操作を手元で教えたい、質問が多く出そう日程の調整と会場・機材の準備が必要
オンライン研修拠点が分かれている、移動時間を減らしたい操作のつまずきに気づきにくい
eラーニング人数が多い、受講の時期がばらばら受講の管理と、質問できる窓口が必要
社内講師による研修自社のツールや業務に合わせたい、継続して教えたい講師役の準備の負担、教える力の差

一度きりの研修で終わらせず、社内で教え続けられる体制をつくりたい場合は、社内講師を育てる方法があります。ツナグバでは、社内でデジタルツールの使い方を教えられる人材を育成する社内でデジタル講師を育てる研修を掲載しています。

人数が多い会社や、入社の時期がばらばらな会社では、eラーニングで基礎をそろえ、社内講師や集合研修で自社の業務に合わせた演習を行う組み合わせも考えられます。

研修の効果を確かめ、定着させる

ITリテラシー研修は、受講した直後よりも、その後の業務で使われているかが大切です。効果を確かめるときは、次の点を見ます。

ITリテラシー研修の効果を確かめる視点を、問い合わせの変化、ツールの利用、セキュリティのルール、生成AIの社内ルール、管理職の変化、研修で扱わなかった質問の6項目で示したチェックリスト
  • 研修の前後で、社内システムへの問い合わせの内容が変わったか
  • 共有ドライブやチャットなど、対象のツールの利用が広がったか
  • 情報セキュリティのルールについて、社員が説明できるか
  • 生成AIの社内ルールを守って使えているか
  • 管理職が、部下の業務の見直しについて話せるようになったか
  • 研修で扱わなかった質問が、どれだけ出ているか

定着させるには、研修の資料を社内で見られる場所に置き、困ったときに相談できる窓口を決めておくことが有効です。うまく使えた例を社内で共有すると、ほかの社員も業務での使い方を思い浮かべやすくなります。

情報セキュリティの研修は、一度で終わらせないことも大切です。IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」は2026年3月に第4.0版が公表され、従来の5か条に「バックアップを取ろう!」が加わり、情報セキュリティ6か条になりました(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版」公開のお知らせ)。指針や脅威は変わるため、研修の内容も定期的に見直します。

費用の考え方と助成金

外部の研修の費用は、人数、時間、形式、自社向けに内容を調整するかどうかで大きく変わります。比べるときは、同じ条件で複数の研修の見積もりを取ると違いが分かります。費用には、研修の料金だけでなく、受講する社員の時間や、社内で準備する担当者の時間も含めて考えます。

社員の訓練には、国の助成金を使える場合があります。厚生労働省の人材開発支援助成金には、「人材育成支援コース」「人への投資促進コース」「事業展開等リスキリング支援コース」などのコースがあります(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。

デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成

出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」(人への投資促進コース)

対象になる訓練の内容や時間、手続きの時期には条件があります。支給要領は改正されることがあり、2026年8月にも事業展開等リスキリング支援コースの変更点が公表されています(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。使う場合は、研修の計画を立てる段階で最新の要領を確かめ、管轄の労働局に相談してください。助成金を前提に研修の内容を決めるのではなく、自社に必要な研修かどうかを先に判断します。

外部の研修を使うかどうかの判断の基準

社員のITリテラシー研修は、すべてを外部に頼む必要はありません。自社で進めるか、外部のサービスを使うかは、次の基準で判断できます。

自社で進めやすいケース

社内に教えられる人がいて、対象が少人数の場合は、自社で進めやすくなります。扱う内容が自社のツールの使い方や社内ルールに限られている場合も、外部の研修より社内の説明のほうが早いことがあります。

外部のサービスを検討したいケース

教える人がいない、または情報システムの担当者に負担が集中している場合は、外部のサービスが選択肢になります。社員の人数が多く、受講の管理まで仕組みにしたい場合や、情報セキュリティや生成AIなど、専門的な内容を正しく伝えたい場合も同様です。

研修より先に見直したいこと

社内のルールやツールが決まっていないまま研修を行っても、何を教えるべきかがはっきりしません。使うツールが部署ごとにばらばらな場合は、研修より先にツールと運用のルールをそろえることを検討します。IPAも、中小企業の内部でセキュリティ対策を推進する人材の不足を背景に、ガイドラインに人材の確保・育成の実践ガイドブックを付録として加えています(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン第4.0版」公開のお知らせ)。研修と合わせて、社内で誰が推進するかも決めておきます。

あわせて読みたい

ツナグバで、ITリテラシー研修のサービスを比べる

ツナグバは、法人向けサービスを無料で探し、複数のサービスの資料をまとめて請求できるサイトです。

人材育成・研修の分野では、社内で教えられる人を育てる研修と、研修動画の配信や受講管理ができるeラーニングを掲載しています。社内に教える体制をつくりたい場合と、受講の仕組みを整えたい場合のどちらにも比べる材料になります。

研修の目的と対象者、受講する人数をまとめたうえで、資料で詳細を確認してください。

社内でデジタル講師を育てる研修

こんな課題に向いています。

  • 新しいツールを入れても、使い方が社内に広まらず定着しない
  • デジタルに詳しい社員に質問が集中し、本来の仕事が進まない
  • 外部の研修を受けても、自社の業務にどう生かすかが分からない

主な特徴は次のとおりです。

  • 社内で教える人を育てる研修:デジタルツールの使い方を、社内の同僚に教えられる人を育てる研修です。外部に頼り続けずに、社内で教え合う体制をつくる助けになります。
  • 教え方も学べる:ツールの使い方に加えて、相手に合わせた教え方も学ぶ内容が一般的です。研修の内容や時間は事業者によって違うため、資料で確認してください。
  • 自社の業務に合わせて進められる:自社で使っているツールや業務に合わせて内容を調整できる場合があります。調整できる範囲は、事前に確認してください。

資料で確かめたいことの例です。

  • 研修の対象ツールが、自社で使っているものと合っているか
  • 研修の形式(対面、オンライン)と、受講にかかる時間
  • 1人あたりの費用と、受講人数による違い

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多機能なeラーニングサービス

こんな課題に向いています。

  • 新人研修を毎回担当者が対面で行っていて、時間を取られている
  • 誰がどの研修を受けたか、管理できていない
  • 拠点や勤務時間が違う社員に、同じ研修を受けてもらうのが難しい

主な特徴は次のとおりです。

  • 研修動画を配信できる:研修の動画を配信し、社員が自分の都合のよい時間に受講できます。同じ内容を繰り返し説明する手間を減らせます。
  • 受講の状況を管理できる:誰がどの講座を受けたか、どこまで進んだかを確認できます。受講の促しや記録の管理に使えます。
  • 用意された講座と自社の研修を両方使える:ビジネスの基本などの講座が用意されていて、自社で作った研修も載せられます。講座の内容や数は製品によって違うため、資料で確認してください。

資料で確かめたいことの例です。

  • 利用人数ごとの料金と、講座の追加費用
  • 自社の研修動画や資料を載せられるか、その方法
  • スマートフォンで受講できるか

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ほかの分野のサービスも見る

よくある質問

ITリテラシー研修は、どのくらいの時間が必要ですか?

決まった時間はありません。対象者と目的によって変わります。基礎をそろえる研修は短い回に分け、回と回の間に業務で試す期間を置くと、内容を忘れにくくなります。

パソコンが苦手な社員が多い場合は、どこから始めればよいですか?

社内で毎日使うツールの基本から始めます。メール、チャット、共有ドライブなど、使えないと業務が止まる内容を優先し、演習の時間を多く取ります。質問しやすい雰囲気をつくることも大切です。

情報セキュリティの研修は、毎年行う必要がありますか?

法律で頻度が決まっているわけではありませんが、脅威や社内ルールは変わります。IPAの情報セキュリティ10大脅威のような資料を参考に、定期的に内容を見直して行うことをおすすめします。

生成AIの使い方も、ITリテラシー研修に含めるべきですか?

業務で生成AIを使う、または使う予定がある場合は含めることをおすすめします。使い方だけでなく、入力してよい情報や、出力を確かめる手順など、社内ルールとあわせて伝えます。

参考資料