紙の稟議書は、回覧に時間がかかり、いまどこで止まっているのかが分かりにくいという悩みがつきものです。テレワークや外出が多い職場では、承認者の押印を待つだけで数日かかることもあります。

この記事では、稟議を電子化する進め方を、5つの手順、決裁規程と承認ルートの見直し、電子化の方法の選び方に分けて整理します。押印や電子帳簿保存法の考え方、権限とログの管理、電子化しなくてよいケースもまとめました。

稟議を電子化すると何が変わるか

稟議を電子化すると、申請、回覧、承認、保管の流れを画面の上で進められます。主な変化は次のとおりです。

  • 承認者が社外にいても、パソコンやスマートフォンで承認できる
  • 申請がいまどの段階にあるかを、申請者と承認者が確かめられる
  • 過去の稟議を、件名や金額、日付で探せる
  • 紙の印刷、回覧、ファイリング、保管の手間が減る

一方で、電子化すれば自動的に承認が速くなるわけではありません。承認者が多すぎる、決裁の基準があいまい、といった紙のときの課題は、そのまま電子化すると画面の上でも残ります。電子化は、稟議の流れそのものを見直すきっかけとして考えます。

「押印がないと正式な決裁にならないのでは」という不安を持つ方もいます。押印について、内閣府・法務省・経済産業省は、私法上、契約は当事者の意思の合致により成立するもので、書面の作成やその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていないと説明しています(出典:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日))。社内の稟議も、押印ではなく、誰がいつ承認したかを確かめられる仕組みで代えられます。

不要な押印を省略したり、『重要な文書だからハンコが必要』と考える場合であっても押印以外の手段で代替したりすることが有意義であると考えられる。

出典:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日)

この考え方は、契約書を念頭に置いたものですが、社内の決裁の手続きを見直すときにも参考になります。国も、書面や押印、対面を前提とした手続きの見直しと、電子署名の活用を進めています(出典:内閣府「書面規制、押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について」)。行政の手続きについて、内閣府の資料は次のように示しています。

各府省は、原則として全ての見直し対象手続について、規制改革推進会議が提示する基準に照らして順次、必要な検討を行い、法令、告示、通達等の改正を行うこととされています。

出典:内閣府「書面規制、押印、対面規制の見直し・電子署名の活用促進について」

行政の手続きでも押印の見直しが進められていることは、社内で「なぜ押印が必要なのか」を問い直すときの材料になります。

電子化の前に確かめたい法律とルール

稟議の電子化で確かめたいのは、押印の扱いと、稟議に添付する書類の保存の方法です。

稟議の電子化で確かめる書類として、稟議書そのもの、紙で受け取った見積書・契約書、メールなどで受け取った見積書・契約書、承認の記録の4つと、それぞれ確かめることを示した表

押印に代わる承認の記録

押印についてのQ&Aは、押印以外の手段の例として、電子署名や電子認証サービスの活用を挙げ、利用時のログインID・日時や認証結果などを記録・保存できるサービスも含むとしています(出典:内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日))。社内の稟議では、承認者、承認した日時、承認の内容が記録に残ることが、押印に代わる大切な役割になります。

添付する書類と電子帳簿保存法

稟議には、見積書や契約書などの書類を添付することがよくあります。これらの書類は、税法上の保存が必要な書類に当たる場合があります。電子帳簿保存法は、税務関係帳簿書類のデータ保存を可能とする法律です(出典:国税庁「電子帳簿保存制度特設サイト」)。

国税庁の概要では、電子帳簿等の保存、スキャナによる保存、電子取引の取引情報の保存について、それぞれ定めが説明されています(出典:国税庁「電子帳簿保存法の概要」)。電子取引の取引情報としては、取引に関して受領し、または交付する注文書、契約書、送り状、領収書、見積書などに通常記載される事項が挙げられています(出典:国税庁「電子帳簿保存法の概要」)。

メールやインターネットを介して受け取った見積書を稟議に添付する場合は、電子取引のデータとしての保存が必要になることがあります。国税庁は、所得税法・法人税法上の保存義務者に対して、特に電子取引について確認するよう案内しています(出典:国税庁「電子帳簿保存制度特設サイト」)。

書類確かめること
稟議書そのもの社内規程で定めた保存期間と、保存する場所
紙で受け取った見積書・契約書紙のまま保存するか、スキャナ保存の要件に合わせて保存するか
メールなどで受け取った見積書・契約書電子取引のデータとしての保存の方法
承認の記録承認者、日時、内容が後から確かめられるか

保存の要件は細かく定められています。国税庁は、電子計算機を使用して作成する帳簿書類関係、スキャナ保存関係、電子取引関係の一問一答を公表しており、Q&Aに例示のある各種規程等のサンプルも掲載しています(出典:国税庁「電子帳簿保存法一問一答(Q&A)」)。どの書類をどの方法で保存するかは、経理の担当者や税理士と確かめてから決めます。制度の全体は国税庁の電子帳簿保存法のページにまとめられています(出典:国税庁「電子帳簿保存法関係」)。

稟議の電子化の進め方5つの手順

稟議の電子化は、次の5つの手順で進めると、途中で止まりにくくなります。

稟議の電子化の進め方を、いまの流れを書き出す、決裁規程と承認ルートを見直す、電子化の方法を選ぶ、一部の稟議で試す、全社に広げて紙の運用をやめるの5つの手順で示した図

手順1:いまの稟議の流れを書き出す

稟議の種類、件数、申請者、承認者、平均してかかっている日数を書き出します。紙のどこで止まりやすいかも聞き取ります。種類ごとに承認者が違う会社では、一覧にすると見直すべき点が見えてきます。

手順2:決裁規程と承認ルートを見直す

電子化する前に、誰が何を決めるのかを整理します。承認者の数を減らせないか、金額によって承認ルートを分けられないかを検討します。見直しの考え方は、次の章で詳しく説明します。

手順3:電子化の方法を選ぶ

稟議の件数や承認ルートの複雑さに合わせて、表計算ソフトとメール、社内のグループウェア、ワークフローシステムなどの中から方法を選びます。選び方は後の章で整理します。

手順4:一部の稟議で試す

最初から全社で始めず、件数の多い稟議や、ある部署の稟議から試します。試した結果をもとに、申請画面の項目や承認ルートを直します。

手順5:全社に広げ、紙の運用をやめる

使い方の説明会を開き、申請者と承認者に操作を覚えてもらいます。紙と電子の運用を長く並べると、二重の手間になります。紙の受付をやめる日を決めて、社内に伝えます。

決裁規程と承認ルートの見直し方

電子化の効果は、承認ルートの設計で大きく変わります。紙のときの承認ルートをそのまま移すと、承認者が多く、時間がかかる状態が残ります。

見直すときは、稟議の種類ごとに、金額や影響の大きさで承認者を分ける考え方が使えます。

稟議の区分の例承認者の例見直しのポイント
少額で定型の支出所属長申請と承認を1段階にできないか
中程度の支出・契約所属長、部門長経理や法務の確認を並行して進められないか
高額の支出・重要な契約所属長、部門長、役員判断に必要な資料の項目を決めておく

金額の区切りや承認者は、会社の規模や業種で違います。上の表は区分の考え方の例です。決裁規程を変える場合は、社内で決められた手続きに従って改定します。

承認者が不在のときの代理承認や、差し戻しのルールも決めておきます。電子化すると、承認者が出張中でも承認できる一方で、通知を見落とすと止まってしまいます。承認が一定の日数止まったときに知らせる仕組みがあると安心です。

電子化の方法の選び方

稟議の電子化の方法は、主に次の4つがあります。

方法向いている会社注意点
表計算ソフトとメール稟議の件数が少なく、承認ルートが単純承認の記録や検索がしにくい
社内のグループウェアの機能すでにグループウェアを使っている承認ルートの複雑さに対応できるか
ワークフローシステム稟議の種類や件数が多い導入と設定の手間、月額の費用
既存のアプリをつなぐ自動化ツール承認後の転記や連絡が多い連携できるアプリの範囲

稟議が承認されたあとに、会計や購買のシステムへ同じ内容を入力し直したり、関係者に連絡したりする作業が多い会社もあります。このような手作業は、社内のアプリを連携させる自動化ツールで減らせる場合があります。ツナグバでは、手作業での転記や連絡を自動化する社内のアプリをつなぎ、業務を自動化するツールを掲載しています。

方法を比べるときは、次の点を確かめます。

稟議の電子化の方法を比べるときの確認点を、承認ルートの設定、承認の記録、検索、スマートフォンでの承認、ほかのシステムとの連携、電子帳簿保存法に沿った保存、費用の7項目で示したチェックリスト
  • 自社の承認ルート(金額による分岐、代理承認、差し戻し)を設定できるか
  • 承認者、日時、内容の記録が残り、後から確かめられるか
  • 稟議の件名、金額、日付で探せるか
  • スマートフォンから承認できるか
  • 会計や購買など、ほかのシステムと連携できるか
  • 添付した書類を、電子帳簿保存法に沿って保存できるか
  • 初期費用、月額費用、利用人数による料金の違い

費用は、利用する人数、承認ルートの複雑さ、ほかのシステムとの連携の有無で変わります。同じ条件で複数の方法の見積もりを取って比べます。

権限とログの管理

稟議には、取引の金額や取引先、人事に関わる情報など、社外に出してはいけない情報が含まれます。電子化したあとは、誰がどの稟議を見られるかの権限を設定します。

IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「内部不正による情報漏えい等」が7位に入っています(出典:IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」)。閲覧できる人を必要な範囲に絞り、操作の記録を残すことは、内部不正の抑止にもつながります。退職や異動のときに、権限を外す手順も決めておきます。

社内のセキュリティ対策を見直すときは、IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」も参考になります。2026年3月に第4.0版が公表されています(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」)。

電子化した後の定着と効果の確かめ方

電子化は、仕組みを入れたところで終わりではありません。使われ続け、承認が速くなっているかを確かめます。

効果を確かめるときは、申請から承認までにかかった日数、差し戻しの件数、紙で出された稟議の件数を、電子化の前後で比べます。承認が止まりやすい段階が分かれば、承認ルートや通知の設定を直せます。

申請画面の項目も、使いながら見直します。承認者が判断に迷う稟議には、情報が足りないことがよくあります。次のような項目を申請画面に入れておくと、差し戻しが減りやすくなります。

  • 稟議の目的と、承認を求める内容
  • 金額と、その内訳
  • 比べたほかの選択肢と、選んだ理由
  • 期待する効果と、考えられるリスク
  • いつまでに承認が必要か

申請者や承認者から、使いにくい点を定期的に聞き取ることも大切です。小さな不満を放っておくと、メールや口頭での承認に戻ってしまうことがあります。

電子化しなくてよいケース

稟議の電子化は、すべての会社に必要なわけではありません。

稟議の件数が月に数件程度で、承認者が同じ事務所にいて、紙の回覧で困っていない場合は、無理に仕組みを入れなくてもよいでしょう。まずは稟議書の書式をそろえ、表計算ソフトで一覧を管理するだけでも、検索や進み具合の確認はしやすくなります。

一方で、拠点が複数ある、承認者の外出が多い、稟議の件数が増えて回覧が止まりやすい、という会社では、電子化の効果を感じやすくなります。電子化を検討するときは、承認が止まっている日数など、いまの課題を数字で確かめておくと、導入の前後で比べられます。

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  • 複数のアプリやシステムをつなげる:社内で使っているアプリ同士を連携させ、情報を受け渡せます。どのアプリと連携できるかは製品によって違うため、資料で確認してください。
  • 転記や連絡を自動で行える:ある操作をきっかけに、決まった処理を自動で行う設定ができます。手作業の転記や、関係者への連絡の手間を減らせます。
  • 画面上で処理の流れを組み立てられる:プログラムを書かずに、画面上で処理の流れを設定できるものが一般的です。ただし設定には、業務の流れを整理しておくことが欠かせません。

資料で確かめたいことの例です。

  • いま使っているアプリやシステムと連携できるか
  • 料金が処理の回数や件数で変わるか、上限はあるか
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  • 給与明細を紙で配っていて、印刷と配布の手間がかかっている

主な特徴は次のとおりです。

  • 必要な機能を選んで導入できる:入退社の手続きや年末調整など、使う機能を選んで契約できます。使わない機能の費用を抑えやすくなります。
  • 手続きの書類をまとめて作成できる:社員の情報をもとに、手続きに必要な書類を作る機能が一般的です。同じ情報を何度も書き写す手間を減らせます。
  • 社員とのやり取りを画面上で行える:社員が自分の情報を入力したり、明細を確認したりできます。紙の回収や配布の手間を減らせます。

資料で確かめたいことの例です。

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よくある質問

稟議を電子化すると、押印は不要になりますか?

社内の稟議に押印が必要かどうかは、社内規程で決めています。押印についてのQ&Aでも、押印以外の手段で代替することが有意義であると考えられるとされています。電子化にあわせて規程を見直し、承認の記録で押印に代える方法が一般的です。

稟議書そのものも、電子帳簿保存法の対象になりますか?

稟議書の内容や、添付する書類によって考え方が変わります。見積書や契約書など、添付する取引の書類の保存方法を確かめることが大切です。判断に迷う場合は、国税庁の一問一答を確かめたうえで、税理士に相談してください。

電子化した後も、紙の稟議書を残すべきですか?

紙と電子を長く並べると、二重の手間になり、どちらが正しいか分からなくなることがあります。移行の期間を決め、紙の受付をやめる日を社内に伝えます。過去の紙の稟議書の扱いも、あわせて決めておきます。

小さな会社でも、ワークフローシステムは必要ですか?

稟議の件数が少なく、承認ルートが単純であれば、表計算ソフトや社内のグループウェアの機能で足りることもあります。件数や拠点が増えて、回覧が止まりやすくなってから検討しても遅くはありません。

参考資料