問い合わせや資料請求はあるのに、営業が忙しくて折り返しが遅れる。展示会で集めた名刺が、そのまま机の中に残っている。こうした状態を変えるために、インサイドセールスの立ち上げを考える企業が増えています。

一方で、電話をかける担当者を置いただけでは、商談は増えません。営業との分担や引き継ぎの条件が決まっていないと、現場の負担が増えるだけになることもあります。

この記事では、インサイドセールスを立ち上げるときの手順を、範囲の決め方、体制、KPI、記録の仕組み、守るべきルールの順に整理します。

立ち上げる前に確認したいチェックリストと、立ち上げなくてもよいケースもまとめました。社内で検討するときの材料として使ってください。

インサイドセールスとは何か|立ち上げの前に役割を確かめる

インサイドセールスは、電話やメール、オンライン会議などを使い、顧客を訪問せずに進める営業活動のことです。

多くの企業では、問い合わせや資料請求をした見込み客に連絡し、関心の度合いや課題を確かめたうえで、商談につながりそうな相手を営業担当者に引き継ぐ役割を担います。

役割の分け方には、主に次の2つがあります。

  • 反響型:問い合わせ、資料請求、セミナー参加などの見込み客に連絡し、商談の機会をつくる
  • 新規開拓型:まだ接点のない企業に、電話やメールで連絡し、接点をつくる

立ち上げの段階では、どちらか一方から始める企業が多く見られます。反響型は相手に関心があるため、会話の中身を設計しやすいのが特徴です。新規開拓型は、対象の企業を選ぶ作業と、連絡のルールを整える作業が先に必要になります。

離れた場所から顧客と話し、情報を共有する前提は整いつつあります。総務省の調査では、常用雇用者100人以上の企業のうち、クラウドサービスを一部でも利用している企業は83.5%、全社的に利用している企業は60.0%でした(出典:総務省「令和7年通信利用動向調査の結果(概要)」)。

同じ調査で、テレワークを導入している企業は50.1%で、前年より2.8ポイント増えています(出典:総務省「令和7年通信利用動向調査の結果(概要)」)。

企業のクラウドサービス利用とテレワーク導入の割合を示す棒グラフ。一部でも利用83.5%、全社的に利用60.0%、テレワーク導入50.1%

ただし、この数字は100人以上の企業が対象です。従業員の少ない企業では、顧客情報がまだ担当者ごとの表計算ファイルやメールに分かれていることも少なくありません。立ち上げの前に、自社の情報がどこにあるかを確かめておく必要があります。

立ち上げる前に判断すること|向いている会社と向いていないケース

インサイドセールスは、どの会社にも必要な仕組みではありません。立ち上げる前に、自社の状況に合うかを判断してください。

状況立ち上げの優先度理由
問い合わせや資料請求が毎月一定数あり、折り返しが遅れている高い対応の早さと記録を整えるだけで、取りこぼしを減らせる余地がある
展示会やセミナーで集めた名刺を活用できていない高い連絡の順番とルールを決めれば、既存の接点を生かせる
営業担当者が訪問と事務作業に追われている中程度分担を決めれば、営業が商談に集中しやすくなる
見込み客の数がまだ少ない低い連絡する相手が少なく、専任の担当を置いても時間が余りやすい
商品の説明に専門の知識が必要で、営業が最初から対応したほうが早い低い引き継ぎを挟むことで、かえって時間がかかることがある

次のようなケースでは、インサイドセールスを専任で立ち上げなくてもよいことがあります。

  • 見込み客が少なく、営業担当者が自分で折り返しても対応が遅れていない
  • 顧客の数が限られ、担当者と顧客の関係がすでに固まっている
  • 商品やサービスの内容がまだ固まっておらず、営業の話す内容が毎回変わる

こうした場合は、専任の担当者を置く前に、問い合わせの記録と折り返しの期限を決めるだけでも効果を確かめられます。小さく試し、手が足りなくなってから人を増やすほうが無理がありません。

立ち上げの手順|範囲と引き継ぎのルールから決める

インサイドセールスの立ち上げで最初に決めるのは、人数やツールではなく、対応する範囲と営業への引き継ぎのルールです。次の4つの手順で進めます。

インサイドセールスを立ち上げる4つの手順として、範囲を決める、分担とルールを決める、記録の仕組みを整える、90日で見直すを示した図

手順1:対応するリードの範囲を決める

最初に、どの見込み客に連絡するかを決めます。問い合わせ、資料請求、セミナー参加、展示会の名刺など、種類ごとに優先度を付けます。

範囲を広げすぎると、少人数の担当者では対応が追いつきません。最初は問い合わせと資料請求など、関心の高い相手に絞るのが現実的です。

手順2:営業との分担とルールを決める

次に、インサイドセールスがどこまで担当し、どの条件で営業に引き継ぐかを決めます。決めておきたいのは次の4点です。

  • 営業に引き継ぐ条件:課題、検討時期、決裁の流れなど、どの情報がそろったら渡すか
  • 差し戻す条件:営業が「まだ早い」と判断したときに、どう戻し、理由をどう残すか
  • 初回対応の期限:問い合わせから何時間以内、何営業日以内に連絡するか
  • 例外の判断者:条件に当てはまらない相手を、誰が判断するか

この取り決めは、口頭ではなく文書にして、営業とインサイドセールスの双方が見られる場所に置きます。

手順3:記録の仕組みを整える

誰に、いつ、何を話したかを、一つの場所に残す仕組みを整えます。記録がないと、引き継ぎのたびに同じ質問を繰り返すことになり、改善の材料も残りません。

手順4:90日で見直す

最初の90日は、決めたルールが現場で回るかを試す期間と考えます。見る指標を絞り、営業からの差し戻しの理由を集めて、範囲と条件を直します。

最初の2週間でルールの初版と入力項目を決め、次の1か月ほどで数字と差し戻しの理由を集め、残りの期間で範囲と条件を見直すという流れが一つの目安です。

体制と人員の考え方|兼任から始めてもよい

体制は、最初から専任の部署をつくる必要はありません。営業担当者や事務担当者が、時間を区切って兼任する形から始める企業も多く見られます。

体制を考えるときは、次の点を確かめます。

  • 月に何件の見込み客に連絡する必要があるか
  • 1件あたりに、連絡と記録でどれくらいの時間がかかるか
  • 営業に引き継いだあと、誰が結果を記録するか
  • 担当者が不在のとき、誰が代わりに対応するか

連絡する件数と1件あたりの時間を掛け合わせれば、必要な時間の見当がつきます。その時間が兼任で確保できないときに、専任の担当者を置くか、外部の支援を使うかを検討します。

インサイドセールスは電話やオンライン会議で進めるため、在宅勤務と組み合わせやすい仕事です。在宅で進める場合は、労働時間の把握や連絡の取り方も決めておきます。

厚生労働省のテレワークのガイドラインでは、テレワークでは使用者が直接確認できないため、労働時間の把握に工夫が必要になるとしています(出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。同じガイドラインは、コミュニケーションについて次のように述べています。

円滑に業務を遂行する観点からは、働き方が変化する中でも、労働者や企業の状況に応じた適切なコミュニケーションを促進するための取組を行うことが望ましい。

出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」

インサイドセールスは、営業との情報のやり取りが仕事の中心です。在宅で進める場合こそ、引き継ぎの打ち合わせや、差し戻しの理由を話し合う場を定期的に設けておくと、ずれが小さいうちに直せます。

KPIの決め方|段階ごとに見る指標を絞る

KPIは、立ち上げの段階によって見るべきものが変わります。最初から多くの指標を追うと、記録と報告に時間を取られます。

段階主に見る指標確かめたいこと
最初の1か月初回対応までの時間、連絡できた割合決めた期限どおりに連絡できているか
2〜3か月目商談につながった件数、営業からの差し戻しの件数と理由引き継ぎの条件が合っているか
4か月目以降商談から受注までの割合、受注までの期間インサイドセールスが受注に役立っているか

最初は、架電件数のように行動の量を示す指標に偏りがちです。量は大切ですが、商談の質を確かめる指標と組み合わせないと、件数を増やすために中身の薄い連絡が増えることがあります。

指標の目標値は、業種や商品の単価、検討期間によって大きく変わります。他社の数字をそのまま当てはめるのではなく、最初の1〜2か月の実績を基準にして決めるほうが現実的です。

記録とツールの仕組み|顧客情報を一つにまとめる

インサイドセールスでは、顧客の基本情報、これまでの連絡の履歴、営業への引き継ぎの状況を、関係者が同じ画面で見られることが大切です。

中小企業庁の2025年版中小企業白書は、デジタル化の取組段階が進んだ事業者とそうでない事業者の差が大きい取り組みとして、顧客データの一元管理や営業活動のオンライン化を挙げ、DXに有効な取り組みである可能性を示しています(出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第1部第1章第5節」)。

同じ白書では、どの取組段階でも、費用の負担や推進する人材の不足を問題として挙げる事業者の割合が高いとされています(出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第1部第1章第5節」)。高機能なツールを一度に入れるより、少ない人数でも使い続けられる範囲から始めることが現実的です。

記録の仕組みを選ぶときは、次の点を確かめます。

  • 顧客情報、連絡の履歴、商談の状況を一か所にまとめられるか
  • 問い合わせフォームやメール配信と連携できるか
  • 入力の項目を自社に合わせて減らせるか
  • 担当者が増えたときの費用がどう変わるか

顧客管理、メール配信、Webサイト作成などのツールを、導入と活用の支援と合わせて検討したい場合は、ツナグバ掲載の営業とマーケティングを支えるツール群と導入支援も比較の候補になります。新規開拓型から始める場合は、決裁者の情報を含む企業データベースを使う方法もあります。

ツールを入れる前に、表計算ソフトで記録の項目と運用を試してみるのも一つの方法です。どの項目が実際に使われるかが分かってから選ぶと、使われない機能に費用をかけずに済みます。

顧客情報を扱う以上、情報の管理にも注意が必要です。IPAの「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」は、経営者が認識すべき指針と、社内で対策を実践する手順をまとめています(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」)。アカウントの権限や、退職者のアカウントの停止なども、立ち上げの時点で決めておきます。

メール・電話・個人情報のルールを確かめる

インサイドセールスでは、メールの送信や名刺の情報の扱いなど、法律に関わる場面があります。立ち上げの前に、社内のルールを確かめておきます。

広告宣伝のメールは同意が原則

営業の案内などの広告宣伝メールには、特定電子メール法のルールがあります。総務省の資料は、次のように説明しています。

原則としてあらかじめ同意した者に対してのみ広告宣伝メールの送信が認められる「オプトイン方式」が導入されています。

出典:総務省「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律のポイント」

同じ資料では、名刺などの書面でメールアドレスを通知した相手や、インターネットでメールアドレスを公表している相手(個人の場合は営業を営む個人に限る)への送信は、例外として同意がなくても送れるとしています(出典:総務省「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律のポイント」)。

ただし、公表と併せて広告宣伝メールを送らないよう求めている場合は、同意なく送ることはできません。また、送信者の名称や受信拒否の連絡先などを表示する義務もあります(出典:総務省「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律のポイント」)。

展示会の名刺に一斉にメールを送る場合も、配信停止の方法を必ず入れ、停止の申し出があった相手を記録しておきます。

名刺の情報も個人情報として扱う

名刺の情報をまとめた一覧も、個人情報の保護の対象になります。個人情報保護委員会のガイドラインは、個人情報データベース等に当たる例として、次の場合を挙げています。

従業者が、名刺の情報を業務用パソコン(所有者を問わない。)の表計算ソフト等を用いて入力・整理している場合

出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」

担当者の個人のパソコンで名刺の一覧を管理している場合でも対象になる点に注意が必要です。利用の目的を公表しているか、一覧を誰が見られるかを確かめておきます(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。

電話での勧誘と特定商取引法

特定商取引法の電話勧誘販売は、消費者に電話をかけて勧誘する取引を対象にしています。消費者庁の解説では、営業のため、又は営業として締結する取引などには、特定商取引法が適用されないとしています(出典:消費者庁「特定商取引法ガイド 電話勧誘販売」)。

法人向けの営業であっても、相手が個人事業主で、契約の内容が事業と関係ない場合などは判断が分かれることがあります。迷うときは、専門家や消費生活の相談窓口に確認してください。断られた相手に繰り返し電話をかけないことは、法律の適用にかかわらず、社内のルールとして決めておくとよいでしょう。

立ち上げ前のチェックリスト

最後に、立ち上げの前に確かめておきたい項目をまとめます。4つ以上が「いいえ」になる場合は、範囲を小さくして始めることをおすすめします。

インサイドセールスを立ち上げる前に確認したい8つの項目を並べたチェックリスト
  • 対応するリードの種類を決めた
  • 営業へ渡す条件を文書にした
  • 差し戻す条件と、理由の記録方法を決めた
  • 初回対応の期限を決めた
  • 顧客情報の保存先を一つにした
  • 見る指標を3つ程度に絞った
  • メール送信の同意と配信停止の扱いを確認した
  • 責任者と見直しの時期を決めた

費用の考え方も、立ち上げの前に整理しておきます。費用は、担当者の人件費、記録や連絡に使うツールの利用料、外部に委託する場合の委託費に分けて考えます。金額は、対応する件数、担当者の人数、ツールの範囲によって大きく変わるため、複数のサービスの資料を取り寄せて、自社の条件で比べることが大切です。

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よくある質問

インサイドセールスは何人から始めればよいですか?

決まった人数はありません。連絡する件数と1件あたりの時間から、必要な時間を見積もって決めます。

件数が少ないうちは、営業担当者や事務担当者の兼任から始め、時間が足りなくなった段階で専任を置く形でも問題ありません。

営業が強い会社でも、インサイドセールスは必要ですか?

営業担当者が自分で折り返しても対応が遅れていない場合は、急いで立ち上げる必要はありません。

訪問や事務作業に追われ、問い合わせへの対応が遅れている場合は、分担を見直す価値があります。

顧客管理のツールがなくても立ち上げられますか?

立ち上げられます。最初は表計算ソフトで、顧客情報と連絡の履歴を一つのファイルにまとめる方法でも始められます。

担当者が増えたり、件数が増えたりして管理が難しくなった段階で、ツールの導入を検討します。名刺の一覧も個人情報として扱う点には注意してください。

展示会で集めた名刺に営業メールを送ってもよいですか?

特定電子メール法では、名刺などの書面でメールアドレスを通知した相手への送信は、同意の例外として扱われています。

ただし、送信者の名称や配信停止の連絡先の表示は必要です。停止の申し出があった相手には送らないよう、記録を残してください。

参考資料