福利厚生の制度はあるのに、使っている社員が少ない。費用は毎年かかっているのに、採用や定着に役立っているのか分からない。こうした悩みから、福利厚生の見直しを考える会社は少なくありません。

一方で、福利厚生は社員の労働条件の一部です。思いつきで制度を減らしたり変えたりすると、社員の不満や、法律上の問題につながることがあります。

この記事では、福利厚生の見直し方法を6つの手順で整理します。あわせて、就業規則の変更、パートタイムや有期雇用の社員との待遇差、税金の扱いといった、見直しで必ず確かめたい点をまとめました。

見直しの判断基準と、無理に見直さなくてよいケースも紹介します。自社の制度を点検するときの手引きとして使ってください。

福利厚生の見直しとは|法定福利と法定外福利の違い

福利厚生の見直しとは、会社が用意している福利厚生の制度を、目的、利用の状況、費用の3つの面から点検し、続ける・直す・やめる・新しく入れるを決めることです。

福利厚生の費用は、大きく「法定福利費」と「法定外福利費」に分かれます。法定福利費は、法律で義務づけられている社会保障制度の費用の会社負担分で、健康保険料や厚生年金保険料、労働保険料などをいいます(出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」)。

法定外福利費は、法律で義務づけられていない福利厚生関係の費用です。住居、医療保健、食事、文化・体育・娯楽、慶弔見舞などに関する費用が含まれます(出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」)。会社が見直せるのは、主にこの法定外福利費の部分です。

厚生労働省の調査では、常用労働者1人1か月平均の法定外福利費は4,882円でした。このうち「住居に関する費用」が2,509円で、構成割合は51.4%を占めています(出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」)。

常用労働者1人1か月平均の法定外福利費のうち、住居、医療保健、食事、慶弔見舞等、文化・体育・娯楽に関する費用を比べた棒グラフ

続いて「医療保健に関する費用」が729円、「食事に関する費用」が493円でした。「慶弔見舞等の費用」は184円、「文化・体育・娯楽に関する費用」は163円です。同じ調査で、法定福利費は1人1か月平均50,283円です(出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」)。社会保険料などの法定福利費に比べると、法定外福利費の金額は小さく、会社ごとの工夫が出やすい部分といえます。

なお、この調査は令和3年1月1日現在の状況と、令和2年(または会計年度)1年間の状況を調べたものです(出典:厚生労働省「令和3年就労条件総合調査の概況」)。金額は会社の規模や業種でも変わるため、自社と比べるときの目安として使ってください。

福利厚生を見直すタイミングとサイン

福利厚生の見直しは、決まった時期に行う義務があるものではありません。ただし、次のようなサインが出ているときは、見直しを考える時期です。

  • 制度があることを知らない社員が多い、または利用する社員が一部に偏っている
  • 社員の年齢構成や働き方(在宅勤務、短時間勤務など)が、制度を作ったころから変わった
  • 採用の面接で福利厚生について聞かれても、伝えられる特徴がない
  • 退職する社員の理由に、働く環境や待遇への不満が多い
  • 法律や税金のルールが変わり、いまの制度が合っているか分からない
  • 費用は毎年かかっているが、誰が何に使っているのかを把握していない

特に、法律や指針の改正は見直しのきっかけになります。パートタイム・有期雇用労働者に関する同一労働同一賃金ガイドラインなどは改正され、令和8年10月1日から施行・適用されています(出典:厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」)。

福利厚生の見直し方法|6つの手順

福利厚生の見直しは、いきなり制度を入れ替えるのではなく、現状の把握から順に進めます。次の6つの手順が基本です。

福利厚生の見直し方法を、制度の一覧化、目的の決定、社員の声の収集、制度ごとの評価、新しい制度の比較、規程の整備と効果測定の6つの手順で示した図

手順1:いまの制度を一覧にする

まず、会社にある福利厚生の制度をすべて書き出します。就業規則や賃金規程に書かれている制度だけでなく、慣例で続けているもの(社員旅行、懇親会の補助、お祝い金など)も含めます。

制度ごとに、対象者、内容、年間の費用、利用した人数、担当部署を表にまとめます。この一覧が、見直しのすべての土台になります。

手順2:見直しの目的を決める

次に、何のために見直すのかを決めます。採用で選ばれやすくしたいのか、社員の定着を高めたいのか、費用を整理したいのかで、残す制度と入れる制度は変わります。

目的は1つか2つに絞ります。目的が多すぎると、どの制度も中途半端になりがちです。

手順3:社員の声を集める

アンケートや面談で、社員が使っている制度、使っていない理由、ほしい支援を聞きます。年代、家族の状況、勤務の形(正社員、パートタイム、有期雇用など)ごとに分けて集計すると、必要としている支援の違いが見えます。

「使っていない理由」は特に大切です。制度そのものが不要なのか、申請の手間が多いのか、制度を知らないだけなのかで、打ち手が変わります。

手順4:制度ごとに評価する

一覧と社員の声をもとに、制度ごとに「続ける」「直す」「やめる」を仮に決めます。評価の物差しは、目的への貢献、利用の状況、1人あたりの費用、公平さ、事務の手間の5つが目安です。

利用が少ない制度でも、すぐにやめるとは限りません。たとえば慶弔見舞金のように、使う人は少なくても、必要なときに社員の安心につながる制度もあります。

手順5:新しい制度の候補を比べる

足りない支援が見えたら、新しい制度の候補を比べます。食事の補助、住まいの補助、休暇、学び直しの支援、オフィスの休憩の場所など、選択肢は多くあります。

外部のサービスを使う場合は、費用の決まり方、社員の使いやすさ、勤務時間や勤務地による使いやすさの差、事務の手間を確かめます。オフィスの中に休憩や少人数の打ち合わせに使える場所を設ける方法として、ツナグバ掲載の会議もできる酸素ボックスのような設備を候補に入れる会社もあります。健康への効果を約束するものではないため、働く環境づくりの一つとして検討します。

手順6:規程を整え、周知し、効果を測る

制度を決めたら、就業規則や規程を整え、社員に周知します。導入して終わりにせず、半年から1年ごとに利用の状況と社員の声を確かめ、手順1に戻って点検します。

効果を測る物差しは、見直しの目的に合わせて決めます。採用が目的なら応募者の反応、定着が目的なら退職率や社員アンケートの結果、といった形です。

見直しで必ず確かめたい法律のルール

福利厚生の見直しでは、労働法のルールを確かめる必要があります。特に、就業規則の変更、労働条件の不利益な変更、非正規の社員との待遇差の3つが大切です。

就業規則の変更と届出

常時10人以上の労働者を使用する会社は、就業規則を作成し、労働基準監督署長に届け出なければなりません。就業規則を変更した場合も同じです(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」、厚生労働省「モデル就業規則について」)。

就業規則の作成や変更では、労働者の過半数で組織する労働組合、それがない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴き、届出にその意見を記した書面を添付します(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。福利厚生の制度が就業規則に書かれている場合は、見直しにあわせて規則も変更します。

制度を減らすときは「不利益変更」に注意

福利厚生を減らす、やめるといった変更は、社員にとって労働条件の不利益な変更になることがあります。労働契約法は、次のように定めています。

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

出典:e-Gov法令検索「労働契約法」

この条文には、続けて第10条の場合を除くと定められています。第10条の場合とは、変更後の就業規則を社員に周知し、変更が合理的なものであるときです。合理的かどうかは、社員の受ける不利益の程度、変更の必要性、変更後の内容の相当性、労働組合などとの交渉の状況などに照らして判断されます(出典:e-Gov法令検索「労働契約法」)。

つまり、制度を減らすときは、なぜ変える必要があるのかを説明できること、代わりの支援や経過の期間を用意すること、社員と話し合うことが欠かせません。判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してください。

パートタイム・有期雇用の社員との待遇差

福利厚生は、正社員だけを対象にしてよいものではありません。パートタイム・有期雇用労働法は、基本給や賞与その他の待遇のそれぞれについて、通常の労働者との間に不合理と認められる相違を設けてはならないと定めています(出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)。福利厚生施設については、次の規定があります。

事業主は、通常の労働者に対して利用の機会を与える福利厚生施設であって、健康の保持又は業務の円滑な遂行に資するものとして厚生労働省令で定めるものについては、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても、利用の機会を与えなければならない。

出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」

厚生労働省令で定める福利厚生施設は、給食施設、休憩室、更衣室の3つです(出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則」)。社員食堂や休憩室を正社員だけに使わせる形は、見直しの対象になります。

令和8年10月1日に適用された同一労働同一賃金ガイドラインの改正では、夏季冬季休暇や、一定の期間勤続した労働者に付与する褒賞などについての考え方が新たに加わりました(出典:厚生労働省「令和8年改正の概要(パートタイム・有期雇用労働法施行規則、雇用管理指針、同一労働同一賃金ガイドライン)」)。あわせて改正された雇用管理指針では、物品販売所、保養施設、駐車場などの施設の利用に関する便宜の供与の措置を講ずるように配慮することが盛り込まれています(出典:厚生労働省「令和8年改正の概要(パートタイム・有期雇用労働法施行規則、雇用管理指針、同一労働同一賃金ガイドライン)」)。福利厚生を見直すときは、雇用の形による差がないかも点検します。

税金の扱いを確かめる|給与として課税されるケース

福利厚生として社員に提供したものでも、内容によっては社員の給与として課税されることがあります。社員に喜ばれると思って始めた制度が、思わぬ課税につながらないよう、制度ごとに税金の扱いを確かめます。

国税庁は、食事の支給について次のように説明しています。

役員や使用人に支給する食事は、次の2つの要件をどちらも満たしていれば、給与として課税されません。

出典:国税庁「タックスアンサーNo.2594 食事を支給したとき」

2つの要件とは、社員が食事の価額の半分以上を負担していること、そして会社の負担額が1か月当たり7,500円(消費税および地方消費税の額を除く)以下であることです(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2594 食事を支給したとき」)。現金で食事代を補助する場合は、深夜勤務者に夜食を支給できないときの一定の金額を除き、補助の全額が給与として課税されます(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2594 食事を支給したとき」)。

食事の支給、食事代の現金補助、通勤手当、社員旅行について、給与として課税されないための主な条件をまとめた表

主な制度の扱いは次のとおりです。いずれも令和8年4月1日現在の法令等にもとづく国税庁の説明で、細かな条件は各ページで確認してください。

制度給与として課税されないための主な条件
食事の支給社員が半分以上を負担し、会社の負担が月7,500円以下(税抜)(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2594 食事を支給したとき」)
食事代の現金補助原則として全額が課税(深夜勤務者の夜食代の例外あり)(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2594 食事を支給したとき」)
通勤手当(電車・バス)最も経済的かつ合理的な経路の金額で、月15万円まで(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2582 電車・バス通勤者の通勤手当」)
社員旅行期間が4泊5日以内で、参加者が全体の50%以上などの条件を満たす(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」)

社員旅行は、条件を満たしていても、自己都合で参加しなかった人に金銭を支給すると、参加者と不参加者の全員に給与の支給があったものとされます(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」)。「旅行の代わりに現金を」という声に応える前に、税金の扱いを確かめてください。

制度を減らす・やめるときの進め方

見直しの結果、制度を減らしたりやめたりする場合は、次の点に気をつけます。

  1. 理由を説明できるようにする:費用、利用の状況、社員の声など、変える理由を数字と事実で示します。
  2. 代わりの支援を用意する:やめる制度の代わりに、より多くの社員が使える制度を用意すると、受け入れられやすくなります。
  3. 経過の期間を設ける:すぐにやめるのではなく、一定の期間を置いて段階的に移行します。
  4. 社員の意見を聴く:説明会や面談で意見を聴き、必要に応じて内容を直します。
  5. 規程を変更し、届け出る:就業規則の変更が必要な場合は、意見聴取と届出の手続きを行います。

特に、住まいの補助や家族への手当のように、社員の生活に直結する制度は影響が大きくなります。対象の社員ごとに、変更による影響額を試算してから進めると安全です。

見直しの判断基準チェックリスト

制度を続けるか、直すか、やめるかを判断するときは、次の項目を確かめます。

  • 制度の目的が、会社の採用や定着の方針とつながっているか
  • 対象の社員のうち、実際に使っている人の割合はどれくらいか
  • 使っていない理由が、制度の中身なのか、知られていないことなのか
  • 1人あたりの費用は、ほかの制度と比べて妥当か
  • 勤務地、勤務時間、雇用の形によって、使いやすさに差がないか
  • 申請や精算の手間が、社員と担当者の負担になっていないか
  • 税金の扱いが整理され、給与として課税されるものは処理されているか
  • 就業規則や規程に、対象者と条件がはっきり書かれているか

すべてを満たす制度は多くありません。目的への貢献と公平さを優先し、費用や手間はその次に考えると、判断がぶれにくくなります。

無理に見直さなくてよいケース・自社でできること

福利厚生の見直しは、常に必要なわけではありません。次のような場合は、大きな見直しをせず、運用の改善から始めるほうがよいことがあります。

  • 社員アンケートで、いまの制度への満足度が高い
  • 利用が少ない理由が「知られていない」ことだけで、制度の中身には問題がない
  • 社員数が少なく、制度より個別の相談で対応するほうが合っている

制度を知らない社員が多いだけであれば、入社時の案内、社内の掲示、申請方法の簡素化で利用が増えることもあります。新しいサービスを入れる前に、いまある制度の伝え方を直すことは、自社ですぐにできる見直しです。

反対に、制度の数が少なく、採用の場面で伝えられる特徴がない場合は、新しいメニューを加えることも選択肢になります。その場合も、目的と対象の社員を決めてから選ぶことが大切です。

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よくある質問

福利厚生の見直しは、どれくらいの頻度で行えばよいですか?

決まった頻度はありません。利用の状況と社員の声は1年に1回程度確かめ、法律や税金のルールが変わったときや、社員の構成が大きく変わったときに、制度の中身まで見直すのが目安です。

利用者が少ない制度は、すぐにやめてもよいですか?

すぐにやめるのはおすすめしません。福利厚生を減らすことは、労働条件の不利益な変更にあたることがあり、変更の必要性や内容の相当性、社員との話し合いなどが問われます。理由を説明し、代わりの支援や経過の期間を用意したうえで進めてください。

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会社の経費として扱えるかどうかと、社員の給与として課税されるかどうかは、制度の内容によって変わります。食事の支給や社員旅行などには、給与として課税されないための条件があります。判断に迷う場合は、税理士や税務署に確認してください。

参考資料