「経験者だから大丈夫だと思っていたら、3か月で辞めてしまった」「中途で入った人に、何をどこまで教えればよいのか分からない」。中途採用の受け入れは、新卒の受け入れとは違う難しさがあります。

中途採用のオンボーディングとは、入社した人が職場になじみ、早く力を発揮できるように、会社として計画的に受け入れる取り組みです。研修だけでなく、入社前の準備、配属先での関係づくり、面談などのフォローまでを含みます。

この記事では、中途採用のオンボーディングの進め方を、入社前の準備から入社後90日までの手順で整理します。新卒との違い、中途社員がつまずきやすい点、法令で必要なこと、フォローの方法、受け入れのチェックリストまでをまとめました。

中途採用のオンボーディングとは|新卒との違い

新卒のオンボーディングは、社会人としての基礎から教えることが中心です。一方、中途採用のオンボーディングでは、仕事の基本はできている前提で、「この会社でのやり方」を早く理解してもらうことが中心になります。

比べる点新卒のオンボーディング中途採用のオンボーディング
入社の時期4月などに一斉に入社することが多い一人ずつ、時期がばらばらに入社する
教える中心社会人の基礎、仕事の基本会社の仕組み、社内の人、仕事の進め方の違い
期待のされ方育てる前提で、時間をかけて見守られる即戦力として、早くから成果を期待されやすい
つまずきやすい点仕事そのものに慣れない前職とのやり方の違い、質問しにくさ、人間関係
必要な仕組み集合研修のカリキュラム入社者ごとの受け入れ計画と、配属先の担当者

中途採用は入社の時期がばらばらなため、集合研修の仕組みをそのまま使えません。入社のたびに配属先の判断で受け入れていると、人によって受け入れの質に差が出ます。中途採用のオンボーディングでは、一人ずつの受け入れを、決まった手順で進められるようにすることが大切です。

中途採用でオンボーディングが大切な理由

中途採用は、多くの会社にとって欠かせない採用の手段になっています。厚生労働省の調査では、令和6年の転職入職率は9.7%でした(出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概況」)。

会社が中途で人を採る理由は、即戦力への期待だけではありません。厚生労働省の転職者実態調査では、事務的な仕事やサービスの仕事などで転職者を採用した理由として、「離職者の補充のため」が最も多くなっています。たとえばサービスの仕事では60.8%、事務的な仕事では51.8%でした(出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査 結果の概要(事業所調査)転職者の採用状況」)。

辞めた人の穴を埋めるための採用で、入った人もまた早く辞めてしまうと、採用と受け入れの負担が繰り返されます。オンボーディングは、この繰り返しを断つための取り組みでもあります。

転職した人の受け止めも見ておきます。同じ調査の個人調査では、現在の勤め先の職業生活全体に「満足」「やや満足」と答えた人は54.7%でした。項目別では、人間関係に満足・やや満足と答えた人が62.1%、賃金では49.8%です(出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査 結果の概要(個人調査)転職について」)。人間関係や仕事の進め方は、入社後の受け入れで会社が働きかけやすい部分です。

会社の受け入れの現状|教育訓練の実施状況

厚生労働省の調査では、転職者がいる事業所のうち、転職者に教育訓練を実施した事業所は82.6%でした(出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査 結果の概要(事業所調査)転職者に対する教育訓練の実施状況」)。事業所の規模別では、1,000人以上で97.5%、5〜29人で79.8%と、規模が小さいほど実施の割合が低くなっています(出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査 結果の概要(事業所調査)転職者に対する教育訓練の実施状況」)。

実施した教育訓練の種類は、次のとおりです。

転職者に教育訓練を実施した事業所における、計画的なOJT、Off-JT、入職時のガイダンスの実施割合を比べた棒グラフ

計画的なOJTが79.8%、Off-JT(通常の仕事を一時的に離れて行う教育訓練)が64.5%、入職時のガイダンスが53.9%でした(出典:厚生労働省「令和7年転職者実態調査 結果の概要(事業所調査)転職者に対する教育訓練の実施状況」)。入職時のガイダンスを実施した事業所は、教育訓練を実施した事業所の約半数にとどまります。

中途社員は、仕事の進め方は分かっていても、会社の決まりごとや社内の人の関係は知りません。入社の最初に会社の全体像を伝えるガイダンスは、中途採用こそ省かずに行いたい取り組みです。

中途社員がつまずきやすい3つのポイント

中途採用の受け入れでは、次の3つのつまずきがよく起きます。

中途社員がつまずきやすい前職とのやり方の違い、質問しにくさ、人間関係の作りにくさと、その対策を示した図

前職とのやり方の違い

中途社員は、前の会社で身につけたやり方を持っています。それ自体は強みですが、社内のやり方と違うときに、どちらに合わせればよいか迷います。受け入れる側も「前の会社ではこうだった」という発言に身構えてしまい、すれ違いが起きやすくなります。

入社の最初に「この会社で必ず守ってほしいこと」と「やり方を任せてよいこと」を分けて伝えると、迷いが減ります。

質問しにくさ

経験者として採用された人ほど、「こんなことを聞いてよいのか」と遠慮しがちです。周りも「経験者だから分かるだろう」と考え、説明を省いてしまいます。その結果、社内の用語や手続きを知らないまま、ひとりで困っている状態が続きます。

質問してよい相手と時間をはっきり決めておくことが、もっとも手軽な対策です。

人間関係の作りにくさ

中途社員には同期がいないことが多く、気軽に話せる相手が見つかりにくい立場です。仕事上の相談も、誰に聞けばよいか分からないまま時間が過ぎてしまいます。

配属先の上司とは別に、日々の困りごとを聞く担当者(メンター、バディなどと呼ばれます)をつけると、関係づくりの入り口になります。

中途採用のオンボーディングの進め方|入社前から90日まで

中途採用のオンボーディングは、入社前、入社初日、入社1か月、入社3か月の4つの段階で考えると整理しやすくなります。

中途採用のオンボーディングを、入社前、入社初日、入社1か月、入社3か月の4段階で示した図

入社前:受け入れの準備と連絡

内定から入社までの期間は、入社した人の不安が大きくなりやすい時期です。入社日の流れ、持ち物、配属先の上司や担当者の名前などを、事前に伝えておきます。

受け入れる側では、パソコンやアカウント、名刺、席などを入社日までにそろえます。初日に仕事の道具がそろっていないと、本人は「歓迎されていない」と感じやすくなります。配属先には、入社する人の経歴と、最初に任せる仕事を共有しておきます。

入社初日:会社の全体像と、最初の関係づくり

初日は、会社の理念や組織、就業規則などの基本的な決まり、社内の連絡の方法を伝えます。あわせて、配属先の上司と担当者を紹介し、最初の1か月に何をするかを説明します。

初日に詰め込みすぎないことも大切です。資料はあとで見返せる形で渡し、その日のうちに覚えてもらうのは、勤怠の付け方や連絡の方法など、すぐに必要なことに絞ります。

入社1か月まで:仕事の進め方を覚える

最初の1か月は、仕事の進め方と社内の人を知る期間です。小さな仕事を任せて、社内の手続きや使うシステムに慣れてもらいます。週に1回程度、上司や担当者との短い面談を設け、困っていることを聞きます。

社内の手続きや規程を説明する資料、よくある質問の一覧などがあると、担当者が同じ説明を何度も繰り返さずにすみます。説明の動画や教材を用意しておけば、入社の時期がばらばらでも、同じ内容を伝えられます。

入社3か月まで:役割を広げ、振り返る

2か月目からは、任せる仕事の範囲を少しずつ広げます。3か月の時点で、上司と本人が、できるようになったことと、これからの課題を振り返る面談を行います。

3か月の振り返りでは、受け入れの側の改善点も聞いておきます。「最初にこれを知りたかった」という声は、次の入社者の受け入れを良くする材料になります。

受け入れの役割分担|人事・上司・担当者

オンボーディングがうまくいかない原因の一つに、「誰が何をするのか」が決まっていないことがあります。人事は配属先が教えると思い、配属先は人事が説明したと思っている、という状態です。役割の分け方の一例は、次のとおりです。

担う人主な役割
人事・総務入社前の連絡、労働条件の明示、入社手続き、初日の全体説明、面談の日程の管理
配属先の上司最初に任せる仕事と目標の設定、仕事の評価、1か月と3か月の振り返りの面談
担当者(メンター・バディ)日々の質問への対応、社内の人の紹介、困りごとの早めの共有
経営者・役員会社の方針や期待の説明(管理職の採用や少人数の会社では特に)

担当者には、配属先の上司とは別の人を選ぶと、評価を気にせずに相談しやすくなります。年齢や社歴が近い人を選ぶ会社もあります。少人数の会社では、ひとりが複数の役割を担ってもかまいません。大切なのは、本人から見て「この件は誰に聞けばよいか」が分かることです。

法令で必要なこと|労働条件の明示と雇入れ時の教育

オンボーディングは会社の任意の取り組みですが、その中には法令で必要な手続きも含まれます。受け入れの手順に組み込んでおくと、抜け漏れを防げます。

労働条件の明示

労働基準法は、労働契約を結ぶときに、労働条件を明示することを求めています。

使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法」

明示が必要な事項の一つが、就業の場所と従事すべき業務です。労働基準法施行規則では、その変更の範囲も含めて明示することとされています(出典:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)。厚生労働省は、令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されたことを案内しています(出典:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」)。

また、明示された労働条件が事実と違う場合は、労働者は即時に労働契約を解除できると定められています(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。面接で伝えた内容と、入社後の実際の仕事が大きく違うと、トラブルや早期の離職につながります。オンボーディングの最初に、労働条件と最初に任せる仕事を改めて確かめておくと安心です。

雇入れ時の安全衛生教育

労働安全衛生規則は、労働者を雇い入れたときに、安全や衛生のための教育を行うことを事業者に求めています。

事業者は、労働者を雇い入れ、又は労働者の作業内容を変更したときは、当該労働者に対し、遅滞なく、次の事項のうち当該労働者が従事する業務に関する安全又は衛生のため必要な事項について、教育を行なわなければならない。

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」

教育する事項には、作業手順や、事故のときの応急措置と退避などが挙げられています(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」)。中途社員が前の会社で同じような仕事をしていた場合でも、自社の設備や手順に合わせた教育が必要です。教育の内容と日付は記録に残しておきます。

入社後のフォロー|面談とアンケートで変化に気づく

入社して数か月の間は、本人の不満や不安が表に出にくい時期です。辞めたいと口にする前に、小さな変化に気づける仕組みを作っておきます。

  • 入社1週間、1か月、3か月など、時期を決めて面談を行う
  • 面談では、仕事の量や難しさ、人間関係、入社前の期待との違いを聞く
  • 短いアンケートを定期的に行い、回答の変化を見る
  • 面談やアンケートの結果を、配属先の上司と人事で共有する

面談だけでは、本人が遠慮して本音を言わないこともあります。短いアンケートを定期的に行うと、点数の変化から、面談では見えない兆しに気づけることがあります。ツナグバ掲載の適性検査とパルスサーベイによるミスマッチ・離職防止のサービスは、採用時の適性検査と、入社後の定期的な簡易アンケートで、ミスマッチや離職・休職の兆しを把握するものです。

アンケートを行う場合は、結果を何に使うかを社員に伝え、答えた内容で不利益な扱いをしないことを約束します。結果を見るだけで何も変わらないと、回答する意味が感じられなくなるため、気づいたことは面談や配置の見直しにつなげます。

オンボーディングの仕組みを作るときの注意点

オンボーディングの仕組みは、最初から完璧に作る必要はありません。次のような点に注意しながら、入社者が出るたびに改善していきます。

  • 新卒向けの研修をそのまま中途社員に受けさせない。基礎の部分は省き、会社の仕組みと人の紹介に絞る
  • 受け入れの担当者に、仕事として時間を割り当てる。片手間にすると、忙しい時期に受け入れが後回しになる
  • 配属先によって受け入れの質に差が出ないよう、最低限の手順を決めておく
  • 管理職として採用した人にも、オンボーディングを行う。役職が高いほど、質問できる相手が少なくなる

一方で、採用の人数が年に数人程度の会社では、大がかりな研修の仕組みは必要ありません。入社前の連絡、初日の説明、担当者の指名、時期を決めた面談の4つを決めるだけでも、受け入れの質は安定します。

中途採用の受け入れチェックリスト

中途社員を受け入れるときは、次の項目を確かめます。

  1. 入社日の流れ、持ち物、上司と担当者の名前を、入社前に伝えたか
  2. パソコン、アカウント、席などを入社日までにそろえたか
  3. 労働条件(就業の場所と業務、その変更の範囲を含む)を書面などで明示したか
  4. 雇入れ時の安全衛生教育を行い、記録を残したか
  5. 初日に、会社の全体像と社内の連絡の方法を説明したか
  6. 日々の困りごとを聞く担当者を決めたか
  7. 最初の1か月に任せる仕事と、3か月の目標を本人と共有したか
  8. 入社1週間、1か月、3か月の面談の日程を決めたか
  9. 受け入れの改善点を本人から聞き、次の受け入れに生かしているか

チェックがつかなかった項目は、次の入社者から順に取り入れます。

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よくある質問

中途採用のオンボーディングは、どのくらいの期間を見込めばよいですか?

仕事の内容によって違いますが、入社前から入社後3か月ほどを一つの区切りにする会社が多くあります。管理職や専門性の高い仕事では、半年ほどかけて役割を広げていく場合もあります。

経験者でも、入社時の研修は必要ですか?

仕事の基本を教える研修は省いてもかまいませんが、会社の決まりや社内の手続き、人の紹介は必要です。また、労働安全衛生規則にもとづく雇入れ時の安全衛生教育は、経験の有無にかかわらず行います。

少人数の会社でもオンボーディングはできますか?

できます。入社前の連絡、初日の説明、困りごとを聞く担当者の指名、時期を決めた面談の4つを決めておくだけでも、受け入れの質は安定します。

入社した人が前職のやり方にこだわる場合は、どうすればよいですか?

「必ず守ってほしい社内のルール」と「やり方を任せてよい部分」を分けて伝えます。任せてよい部分では前職の経験を生かしてもらうと、本人の強みを生かしながら、社内のやり方にもなじんでもらいやすくなります。

参考資料