問い合わせの件数は増えたのに、受注につながる会社が少ない。本当に取引したい会社には、なかなか声が届かない。BtoBのマーケティングで、こうした悩みを持つ会社は少なくありません。
その解決策の一つとして知られているのが、ABM(アカウントベースドマーケティング)です。広く見込み客を集めるのではなく、取引したい会社を先に決めて、その会社に合わせて働きかける考え方です。
この記事では、ABMとは何かを、従来のリード中心のマーケティングとの違いから説明し、BtoBで進めるための6つのステップを整理します。対象企業の選び方、成果の測り方、ABMが向いていないケースもまとめました。
ABMとは|取引したい会社を決めて働きかける考え方
ABMは、Account Based Marketingの略です。ここでいう「アカウント」は、取引の相手となる会社や組織のことです。
ABMでは、まず取引したい会社を選び、その会社ごとに課題や関係者を調べ、合わせた内容で働きかけます。マーケティングと営業が同じ対象企業の一覧を持ち、役割を分けて進めるのが特徴です。
BtoBの取引では、1つの会社の中に、使う人、選ぶ人、決める人など、複数の関係者がいることがほとんどです。ABMは、こうした会社単位の意思決定に合わせて働きかけるための考え方だといえます。
リード中心のマーケティングとの違い
従来のBtoBマーケティングでは、資料のダウンロードや問い合わせなどで見込み客(リード)を集め、その中から確度の高い人を営業に渡す流れが一般的でした。ABMは、この順番を逆にします。

| 比べる点 | リード中心のマーケティング | ABM |
|---|---|---|
| 出発点 | 広く見込み客を集める | 取引したい会社を先に決める |
| 単位 | 個人(担当者) | 会社(アカウント) |
| 内容 | 多くの人に向けた共通の内容 | 会社ごとに合わせた内容 |
| 営業との関係 | マーケティングが集め、営業に渡す | 最初から一緒に対象を決めて進める |
| 主な指標 | リードの数、商談の数 | 対象企業との接点、関係者の数、受注 |
どちらが優れているというものではありません。対象になる会社が多く、取引の規模が小さい商品では、リード中心のほうが効率的なこともあります。ABMは、取引の規模が大きく、対象になる会社を絞り込める場合に向いています。
ABMが向いている会社・向いていない会社
ABMは手間のかかる方法です。次のような条件に当てはまるほど、効果が出やすくなります。
- 1件あたりの取引の金額が大きく、受注までの期間が長い
- 取引したい会社の条件(業種、規模、地域など)がはっきりしている
- 1つの会社の中に、複数の関係者が意思決定にかかわる
- 一度取引が始まると、長く続いたり、ほかの部署に広がったりする
- 営業とマーケティングが、同じ目標で動ける体制がある
反対に、商品の単価が低く、対象になる会社が数えきれないほど多い場合や、営業の担当者がいない場合は、ABMより、広く集めて自動で育てる方法のほうが合っていることがあります。
日本の企業の多くは中小企業です。中小企業庁は、中小企業・小規模事業者の数を経済センサスをもとに集計し、2021年6月時点の結果を公表しています(出典:中小企業庁「中小企業の企業数・事業者数」)。中小企業を相手にする商品では、対象の会社が非常に多くなるため、ABMを全体に使うより、大口の見込みがある会社に絞って使うのが現実的です。
ABMの進め方|6つのステップ
ABMは、次の6つのステップで進めます。

ステップ1:目的と目標を決める
まず、ABMで何を実現したいのかを決めます。新しい大口の取引先を増やしたいのか、今の取引先との取引を広げたいのかで、選ぶ会社も働きかけ方も変わります。あわせて、期間と、対象企業の数、商談や受注の目標を決めます。
ステップ2:対象企業を選ぶ
次に、取引したい会社の条件を決めます。これまでの取引先のうち、取引の金額が大きい、長く続いている、満足度が高いといった会社に共通する特徴を洗い出すと、条件を決めやすくなります。
会社の基本的な情報は、公的なデータでも確かめられます。国税庁の法人番号公表サイトでは、法人番号の指定を受けた法人の情報が公表されています。
基本3情報とは、1.商号又は名称、2.本店又は主たる事務所の所在地、3.法人番号のことを指します。
出典:国税庁「法人番号公表サイト」
法人番号を使うと、社名の表記の揺れがあっても、同じ会社を一つにまとめて管理できます。社内の顧客管理の表と、対象企業の一覧を突き合わせるときにも役立ちます。
経済産業省のGビズインフォでは、法人の基本情報や活動情報を確認できます。
Gビズインフォは経済産業省による、500万社以上の政府保有法人データ提供サイトです。
出典:経済産業省「Gビズインフォ」
Gビズインフォでは、法人の基本情報や活動情報をCSVなどの形式でダウンロードできるとしています(出典:経済産業省「Gビズインフォ」)。こうした公的なデータで会社の基本を押さえ、そのうえで業界の動きや会社の発表などを調べて、対象を絞り込みます。
選んだ会社は、優先度で分けておきます。

| 優先度 | 会社の数の目安 | 働きかけ方 |
|---|---|---|
| 最優先 | 数社〜十数社 | 会社ごとに内容を作り、営業と一緒に深く働きかける |
| 優先 | 数十社 | 業種や課題が近い会社をまとめ、グループごとに内容を合わせる |
| そのほか | それ以上 | 共通の内容を使い、関心の動きを見て優先度を上げる |
会社の数は、営業とマーケティングの人数で回せる範囲に合わせます。最初から多くの会社を選ぶと、一社ごとの調べや準備が浅くなり、ABMの良さが出にくくなります。
ステップ3:会社の課題と関係者を整理する
対象の会社ごとに、事業の状況、抱えていそうな課題、取引にかかわる人を整理します。既存の取引があれば、営業の担当者が持っている情報を集めます。
関係者は、使う人、選ぶ人、決める人、予算を持つ人などに分けて書き出します。まだ接点がない人は、どの部署の誰に会いたいのかを決めておきます。
関係者の氏名や連絡先を集めるときは、個人情報保護法のルールに従います。法人そのものの情報は個人情報に当たらないとされていますが、担当者の氏名やメールアドレスは個人情報になります(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。会社のWebサイトなどで公表されている情報も、保護の対象とされています(出典:個人情報保護委員会「よくある質問 Q1-5」)。利用目的の通知・公表など、基本のルールを確かめておきます。
ステップ4:働きかけの計画を立てる
会社ごと、関係者ごとに、何を、どの手段で、どの順番で伝えるかを決めます。手段には、手紙や資料の送付、メール、電話、セミナーや勉強会への招待、既存の取引先や知人からの紹介、Webサイトの専用ページなどがあります。
内容は、自社の商品の説明より、相手の会社の課題に合わせた情報を先にします。同業の会社でよくある課題と解決の考え方、相手の業界の動きに合わせた提案など、「自分たちのために用意された」と感じてもらえる内容が理想です。
メールを使う場合は、特定電子メール法のルールを確かめます。広告や宣伝のメールは、原則として同意した相手にだけ送ることができ、送信者の名称や受信を拒否するための連絡先などの表示が求められます(出典:総務省「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律のポイント」)。名刺交換で得た連絡先については、個人情報保護委員会のQ&Aで、広告宣伝のメールを送ることの考え方と、特定電子メール法などほかの法令も守る必要があることが示されています(出典:個人情報保護委員会「よくある質問 Q4-16」)。迷惑メールの対策全体は、総務省のページにまとめられています(出典:総務省「迷惑メール対策」)。
ステップ5:営業とマーケティングで役割を分けて実行する
ABMでは、営業とマーケティングが同じ対象企業の一覧を持ち、誰が何をするかを分けます。たとえば、マーケティングは資料や招待の準備と、関心の動きの把握を、営業は関係者との面談と提案を担います。
週ごとや月ごとに、対象企業ごとの進み具合を一緒に確かめる場を設けます。どの会社で、誰と、どこまで話が進んでいるのかを、一つの表やシステムで共有しておくと、重複した連絡や漏れを防げます。
中小企業庁の中小企業白書では、デジタル化の取組の段階が進んだ企業ほど、顧客データの一元管理や営業活動・受発注管理のオンライン化に取り組んでいる傾向が示されています(出典:中小企業庁「2025年版 中小企業白書 第1部第1章第5節 デジタル化・DX」)。ABMを進めるうえでも、顧客の情報を一か所にまとめることが土台になります。
ステップ6:会社単位で成果を測る
ABMでは、リードの数ではなく、対象企業ごとの変化を見ます。
- 接点を持てた対象企業の数と割合
- 1社あたりで接点のある関係者の数
- 対象企業からの資料の閲覧やセミナーへの参加などの反応
- 商談に進んだ対象企業の数
- 受注した金額と、受注までの期間
成果が出るまでには時間がかかります。受注だけを見ていると、途中でやめてしまいがちです。関係者の数や反応など、途中の変化も記録して、働きかけの内容を見直します。
ABMで使う情報の種類と集め方
ABMでは、対象企業について多くの情報を集めます。情報の種類ごとに、集め方と扱いのルールを整理しておくと、後で困りません。
| 情報の種類 | 主な集め方 | 扱いの考え方 |
|---|---|---|
| 会社の基本情報 | 法人番号公表サイト、Gビズインフォ、会社のWebサイト | 会社そのものの情報。表記をそろえて一か所で管理する |
| 事業や業界の動き | 会社の発表、業界団体の資料、公的な統計 | 出どころと日付を記録する |
| 取引の履歴 | 自社の顧客管理、請求の記録 | 営業とマーケティングで同じものを見る |
| 関係者の情報 | 名刺交換、セミナー、問い合わせ、企業データベース | 個人情報として、利用目的と安全管理のルールを守る |
| 反応の記録 | 資料の閲覧、メールの開封、セミナーの参加 | 会社単位でまとめて変化を見る |
会社の基本情報は、法人番号でまとめると管理しやすくなります(出典:国税庁「法人番号公表サイト」)。公的なデータは定期的に更新されるため、対象企業の一覧も、半年や1年ごとに見直します。
関係者の情報は、会社の情報と同じ表で管理していても、個人情報として扱います。個人情報保護委員会のガイドラインでは、法人そのものの情報は個人情報に当たらない一方、氏名などで特定の個人を識別できる情報は個人情報に当たるという考え方が示されています(出典:個人情報保護委員会「個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)」)。表の中で、会社の項目と個人の項目を分けておくと、見られる人の範囲を決めるときにも役立ちます。
企業データベースなど、ほかの会社から関係者の情報を受け取る場合は、提供元がどのように情報を集めたかを確かめます。個人情報保護委員会は、名簿を購入する場合の確認と記録の義務について、Q&Aで考え方を示しています(出典:個人情報保護委員会「よくある質問 Q4-2」)。
ABMで気をつけたいこと
対象を広げすぎない
成果が出ないと、対象企業を増やしたくなります。しかし、会社の数を増やすほど一社にかけられる手間が減り、リード中心のマーケティングと変わらなくなります。数を増やす前に、選んだ会社への働きかけの内容を見直します。
営業とマーケティングの目標をそろえる
マーケティングはリードの数、営業は受注の金額と、別々の目標を持っていると、ABMは進みません。対象企業からの商談や受注など、両方が共有できる目標を決めます。
情報を一か所にまとめる
対象企業の情報、関係者、やり取りの記録が、担当者ごとの表やメールに散らばっていると、会社単位での判断ができません。顧客管理のツールなどで、一か所にまとめて見られるようにします。
ABMを始める前のチェックポイント
ABMを始める前に、次の点を確かめておくと、途中で止まりにくくなります。
- 取引したい会社の条件を、営業とマーケティングで合意している
- 最優先の対象企業を、回せる数に絞っている
- 対象企業ごとの関係者と課題を書き出す担当者が決まっている
- 働きかけに使う資料や内容を、会社や業種に合わせて用意できる
- 進み具合を共有する場と、情報をまとめる場所が決まっている
- 会社単位の成果の指標と、見直しの時期を決めている
決裁者の情報を含む企業データベースを使い、取引したい会社の決める人に直接働きかけたい場合は、ツナグバ掲載の決裁者に直接アプローチできる企業データベースも比較の候補になります。
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決裁者に直接アプローチできる企業データベース
こんな課題に向いています。
- 電話をかけても受付で止まり、決裁者と話せないことが多い
- 営業リストを作るのに時間がかかり、商談の準備に手が回らない
- どの企業に優先して営業すべきか、判断する材料がない
主な特徴は次のとおりです。
- 決裁者の情報を含む企業データを使える:企業の基本情報に加えて、決裁者に関する情報を含むデータベース(情報をまとめた一覧)を使えます。収録されている情報の範囲は製品によって違うため、資料で確認してください。
- 条件をしぼって営業先を探せる:業種や地域、規模などの条件で企業を探せます。リストを一から作る手間を減らせます。
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資料で確かめたいことの例です。
- 自社が営業したい業種や地域の企業が、どの程度収録されているか
- 情報がどのくらいの頻度で更新されているか
- 料金が月額か、使った件数ごとか
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こんな課題に向いています。
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- ツールを契約したものの、使い方が分からず活用できていない
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- 必要な機能から始められる場合がある:すべての機能を一度に使う必要はなく、優先する業務から始める形が一般的です。段階的に広げることで、社内の負担を抑えられます。
資料で確かめたいことの例です。
- 初期費用、月額料金、支援費用の内訳
- いま使っているツールからの乗り換えやデータ移行ができるか
- 支援の範囲(設定代行か、使い方の説明か)
よくある質問
ABMは、中小企業でも取り組めますか?
取り組めます。大きな仕組みを用意しなくても、取引したい会社を十数社に絞り、会社ごとに課題と関係者を書き出して、営業とマーケティングで働きかけを分担するところから始められます。対象を絞るほど、少ない人数でも進めやすくなります。
ABMとインサイドセールスは、どう違いますか?
ABMは、取引したい会社を決めて働きかける考え方です。インサイドセールスは、電話やメール、オンラインの面談などで、会社の外に出ずに営業する役割や手法を指します。ABMの実行の中で、インサイドセールスが関係者との接点を作る役割を担うこともあります。
対象企業は、何社くらいから始めればよいですか?
営業とマーケティングで、会社ごとに調べて働きかけられる数が目安です。最優先の会社は数社〜十数社から始め、進め方が固まってから広げるのが一般的です。
成果が出るまで、どのくらいかかりますか?
商品の種類や、受注までに通常かかる期間によって変わります。受注までの期間が長い商品では、成果が見えるまでにも時間がかかります。途中の指標として、接点を持てた会社の数や関係者の数を記録し、変化を確かめます。
対象企業の担当者の情報は、どのように集めればよいですか?
名刺交換、セミナーや展示会、問い合わせ、紹介、企業データベースの利用などの方法があります。どの方法でも、個人情報保護法の利用目的の通知・公表などのルールを守り、メールで案内する場合は特定電子メール法も確かめます。
ABMを始めるのに、どのくらいの費用がかかりますか?
対象企業の数、使うツール、外部の支援を受けるかどうかによって大きく変わるため、一律の目安はありません。顧客管理の表と、手紙やメール、面談など今ある手段だけで小さく始めることもできます。進め方が固まってから、企業データベースや顧客管理のツールなど、手間の大きい部分を支えるものを検討すると、費用をかけすぎずに済みます。
