新しい人が入るたびに、紙の書類を渡して回収し、届出書に書き写して、年金事務所やハローワークへ提出する。入社手続きは件数が増えるほど、担当者の時間を圧迫します。書類の不備や提出の遅れが起きやすいのも、紙の運用の悩みです。
この記事では、入社手続きの電子化について、電子化できる書類と手続き、守るべき法律のルール、進め方の手順を整理します。費用の考え方や、電子化を急がなくてよいケースもあわせて解説します。
入社手続きの全体像と期限
まず、入社手続きにどのような作業があるかを確認します。大きく分けると、内定から入社日までの準備と、入社後の行政への届出の2つです。

| 手続き・書類 | 時期・期限 | 提出先・相手 | 電子化の方法 |
|---|---|---|---|
| 労働条件通知書・雇用契約書 | 労働契約の締結時 | 本人 | 本人の希望があれば電子交付。契約は電子契約 |
| 入社書類の回収(誓約書、口座、通勤経路など) | 入社前〜入社日 | 本人から回収 | フォームやシステムで本人が入力 |
| マイナンバーの収集と本人確認 | 入社前〜届出まで | 本人から回収 | システムで番号と本人確認書類の画像を回収 |
| 扶養控除等申告書 | 最初の給与支払いまで | 本人から回収 | 電子での提出を受け付け |
| 健康保険・厚生年金保険の資格取得届 | 資格取得日から5日以内 | 日本年金機構 | e-Gov電子申請 |
| 雇用保険の資格取得届 | 資格取得日の属する月の翌月10日まで | ハローワーク | e-Gov電子申請 |
健康保険・厚生年金保険の資格取得届は、期限が5日以内と短い手続きです。全国健康保険協会(協会けんぽ)は、事業主向けの案内で次のように呼びかけています。
従業員さまやそのご家族が健康保険資格を取得・喪失した際は、事実が発生した日から【5日以内】に、マイナンバーを記載した資格取得届・被扶養者異動届・資格喪失届を【日本年金機構】へご提出ください。
出典:全国健康保険協会 岡山支部「メールマガジン(2026年9月10日)」
雇用保険の資格取得届は、雇用保険法施行規則で、事実のあった日の属する月の翌月10日までと定められています(出典:e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」)。紙の書類がそろうのを待っていると、とくに5日以内の社会保険の届出に間に合わないことがあります。マイナンバーを含めて、入社前に必要な情報を集め終えておくことが、電子化のいちばんの効果です。
電子化できる書類と、法律のルール
入社手続きの多くは電子化できます。ただし、書類によっては本人の希望や同意が条件になります。書類ごとに整理します。

労働条件通知書は「本人が希望した場合」に電子交付できる
労働条件の明示は、原則として書面で行います。根拠となる労働基準法施行規則第5条第4項は、次のように定めています。
法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
出典:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」
2019年4月からは、この「希望した場合」の方法として、FAXや電子メール、SNSのメッセージなどが認められています。電子メールなどは、労働者がその記録を出力して書面を作成できるものに限られます(出典:e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」)。会社の都合だけで電子に切り替えることはできない点に注意が必要です。
希望の有無は、後から確認できる形で残しておくと安心です。また、2024年4月からは、就業場所と業務の「変更の範囲」などが明示事項に加わっています(出典:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。電子化にあわせて、通知書のひな形が最新の明示事項に対応しているかも確認しましょう。
雇用契約書は電子契約で結べる
雇用契約は、法律上は口頭でも成立します。書面の作成は義務ではありませんが、トラブル防止のために契約書を交わす会社が一般的です。電子契約サービスを使えば、内定者が自宅からスマートフォンで内容を確認し、署名できます。労働条件通知書と一体にした「労働条件通知書兼雇用契約書」を電子で交わす方法もあります。
マイナンバーは本人確認とあわせて回収する
マイナンバーを受け取るときは、番号の確認と身元の確認の両方が必要です。システムで回収する場合は、マイナンバーカードの画像などを提出してもらいます。マイナンバーを扱える担当者を限定し、閲覧の記録を残すなど、個人情報保護委員会のガイドラインに沿った安全管理が求められます(出典:個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」)。
扶養控除等申告書は電子で受け取れる
給与所得者の扶養控除等申告書は、会社が一定の要件を満たしていれば、書面の代わりに電子データで提出を受けられます(出典:国税庁「No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間」)。入社時の申告書を電子で回収しておくと、そのまま給与計算や年末調整に使えます。
社会保険・雇用保険の届出はe-Govで申請できる
健康保険・厚生年金保険の資格取得届、被扶養者の異動届、雇用保険の資格取得届は、e-Govから電子申請できます。日本年金機構によると、GビズIDでログインすれば、対応する手続きでは電子証明書なしで申請できます。処理結果も電子の通知書で受け取れます。年金事務所に出す届書等のうち、e-Gov電子申請で申請できるものは約330種類あります(出典:日本年金機構「電子申請(e-Gov)」)。
なお、2020年4月からは、資本金などが1億円を超える特定の法人について、一部の届出の電子申請が義務になっています。社会保険では、算定基礎届、月額変更届、賞与支払届が対象です(出典:日本年金機構「電子申請の義務化」)。中小企業に義務はありませんが、窓口や郵送の手間を考えると、電子申請を選ぶ会社が増えています。
健康保険証の扱いも変わっている
健康保険証の仕組みも変わりました。厚生労働省は次のように案内しています。
従来の健康保険証は、2024年12月2日以降新たに発行されなくなり、マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)を基本とする仕組みに移行しています。
出典:厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」
マイナ保険証を持っていない人などには、当分の間、申請によらず資格確認書が交付されます(出典:厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」)。
資格の情報は、会社からの届出が処理されたあとに医療機関で確認できるようになります。届出が遅れると、入社直後の受診で加入資格を確認できないことがあるため、早めの届出がこれまで以上に大切です。
電子にしても保存のルールは変わらない
雇入れに関する書類は、電子で受け取っても保存のルールは同じです。労働基準法第109条は、労働者名簿や賃金台帳、雇入れに関する重要な書類について5年間の保存を定め、当分の間は3年間とする経過措置を置いています(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。
扶養控除等申告書は、提出期限の翌年1月10日の翌日から7年間の保存が必要です。電子データで受け取った場合も、書面と同じように保存します(出典:国税庁「No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間」)。システムを選ぶときは、退職後もこの期間はデータを残せるか、必要なときに表示・出力できるかを確認しておきましょう。
入社手続きを電子化するメリットと注意点
メリット
- 本人が入力した情報をそのまま届出に使えるため、書き写しと転記ミスが減る
- 入社前に書類を回収でき、5日以内の届出期限に間に合わせやすくなる
- 郵送、印刷、保管にかかる費用と場所が減る
- 回収状況が一覧で分かり、未提出の人に催促しやすくなる
- 拠点が離れていても、本社の担当者がまとめて手続きできる
注意点
- 労働条件通知書の電子交付など、本人の希望や同意が必要な書類がある
- スマートフォンやPCに不慣れな人へのサポートや、紙での対応を用意しておく必要がある
- マイナンバーなどの個人情報が集まるため、権限設定とアクセスの記録が欠かせない
- システムの利用料がかかる。件数が少ないと費用に見合わないこともある
入社手続きを電子化する進め方
電子化は、一度にすべてを切り替えるより、段階的に進めるほうが失敗が少なくなります。中小企業で進めやすい順番は次のとおりです。
ステップ1:今の書類と流れを書き出す
入社時に渡している書類、回収している書類、行政に出している届出を一覧にします。誰が、いつ、何を、どこに出しているかを書き出すと、重複している項目や、不要になった書類が見つかります。
ステップ2:回収する情報を整理する
住所や氏名を複数の書類に何度も書いてもらっているなら、1回の入力で済むように整理します。届出に必要な項目と、社内の管理に必要な項目を分けておくと、入力フォームを設計しやすくなります。
ステップ3:電子化の方法を決める
方法は大きく3つです。無料のe-Govと届書作成プログラムで届出だけを電子化する、電子契約サービスで契約書だけを電子化する、労務管理システムで回収から届出までをつなげる、の3つです。入社の件数が多い会社ほど、回収から届出までがつながる仕組みの効果が大きくなります。
たとえば必要な機能だけを選べる労務管理システムのように、入退社の手続きから使い始め、年末調整や給与明細の機能をあとから追加できるタイプもあります。
ステップ4:GビズIDなどの準備をする
e-Govで電子申請するには、GビズIDなどのアカウントが必要です。GビズIDプライムの取得には日数がかかることがあるため、導入を決めたら早めに申請しておきましょう。
ステップ5:内定者への案内文を用意し、試験運用する
内定者向けに、入力の手順、期限、問い合わせ先をまとめた案内文を用意します。労働条件通知書を電子で受け取ることへの希望もここで確認します。最初の数人で試し、つまずいた点を案内文に反映してから本格的に切り替えます。
電子化でよくあるつまずきと対策
入社手続きを電子化した会社でよく起きるつまずきと、その対策をまとめます。導入前に知っておくと、同じ失敗を避けやすくなります。

内定者が入力を後回しにする
紙の書類は入社日に持ってきてもらえますが、電子の入力は後回しにされがちです。案内の段階で入力の期限をはっきり伝え、期限の数日前に自動で通知が届くように設定しておくと、回収が遅れにくくなります。
本人確認書類の画像が読み取れない
マイナンバーカードなどの画像が暗い、ぼやけている、一部が切れているといった不備はよくあります。撮影のコツを案内文に書いておき、受け取ったらすぐに確認して差し戻すようにします。入社日まで確認を延ばすと、届出の期限に影響します。
入力内容と届出の項目がずれる
氏名のフリガナ、住所の表記、生年月日の和暦と西暦など、届出に必要な形と入力の形がずれると、差し戻しの原因になります。マイナンバーや氏名に誤りがあると、行政の側で情報が正しく結びつきません。入力欄の説明を具体的に書き、届出の前に担当者が最終確認する流れを残しておきましょう。
現場の管理者が仕組みを知らない
店舗や支店で採用している会社では、現場の管理者が内定者に紙の書類を渡してしまうことがあります。新しい流れを現場の管理者にも共有し、紙の書式は回収しておくと、二重運用を防げます。
費用の考え方
e-Govでの電子申請と、日本年金機構の届書作成プログラムは無料で使えます。費用がかかるのは、電子契約サービスや労務管理システムを使う場合です。
電子化の方法3つを比べる
進め方のステップ3で挙げた3つの方法を、対象範囲と向いている会社で比べると次のようになります。
| 方法 | 電子化できる範囲 | 費用 | 向いている会社 |
|---|---|---|---|
| e-Gov・届書作成プログラム | 行政への届出 | 無料 | 入社が少なく、まず届出の手間を減らしたい会社 |
| 電子契約サービス | 雇用契約書・労働条件通知書 | 月額料金+送信件数に応じた料金が一般的 | 契約書の郵送や押印の手間を減らしたい会社 |
| 労務管理システム | 書類の回収から届出、従業員情報の管理まで | 従業員数に応じた月額料金が一般的 | 入社が多い、拠点が複数ある、パート・アルバイトが多い会社 |
どれか1つに決める必要はありません。最初は無料のe-Govで届出を電子化し、件数が増えたらシステムで回収の部分もつなげる、という段階的な進め方も現実的です。
労務管理システムはクラウド型で従業員1人あたりの月額課金が多く、目安は1人あたり月額数百円から千円前後です。電子契約サービスは、月額の基本料金に送信件数ごとの料金を足す形が一般的です。いずれも機能や契約人数で変わるため、見積もりで確認してください。
判断するときは、1人の入社にかかっている作業時間に、年間の入社人数をかけて計算します。郵送費や印刷費、書類の差し戻しにかかる時間も含めると、電子化で減らせる負担が見えてきます。
電子化の前に確認したいチェックリスト
- 年間の入社人数と、入社が集中する時期を把握しているか
- 労働条件通知書のひな形が、2024年4月からの明示事項に対応しているか
- 電子交付を希望するかどうかを、記録に残る形で確認する方法を決めたか
- マイナンバーを扱う担当者と、保管・廃棄のルールを決めたか
- GビズIDなど、電子申請に必要なアカウントを用意したか
- 社労士に手続きを委託している場合、データの受け渡し方法を相談したか
- スマートフォンを使えない人のための、紙での対応を用意したか
紙の運用を残してよいケース
入社手続きの電子化は、すべての会社にとって急ぐべきものではありません。入社が年に数人程度で、担当者が手続きに慣れている会社では、紙の運用でも大きな問題は起きにくいでしょう。
その場合でも、行政への届出だけはe-Govで電子申請に切り替える、という部分的な電子化は検討の価値があります。無料で始められ、窓口へ行く時間や郵送の手間を減らせるためです。入社の件数が増えてきたら、回収の部分も含めた電子化を考えるとよいでしょう。
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ツナグバで、入社手続きを効率化するサービスを比べる
ツナグバは、法人向けサービスを無料で比較し、複数の資料をまとめて請求できるサイトです。労務の分野では、次のサービスを掲載しています。
- 必要な機能だけを選べる労務管理システム:入退社の手続き、年末調整、給与明細など、労務の機能を必要な分だけ選んで導入できるシステムです。労務の事務作業を減らしたい企業に向いています。
入社手続きから始めたい場合は、どの機能から使えるかを資料で確認してみてください。
こんな課題があれば
- 入退社の手続きのたびに書類を作り、役所に出す作業に時間を取られている
- 年末調整の書類集めと確認に、毎年多くの時間を使っている
- 給与明細を紙で配っていて、印刷と配布の手間がかかっている
掲載サービスでできること
- 必要な機能を選んで導入できる:入退社の手続きや年末調整など、使う機能を選んで契約できます。使わない機能の費用を抑えやすくなります。
- 手続きの書類をまとめて作成できる:社員の情報をもとに、手続きに必要な書類を作る機能が一般的です。同じ情報を何度も書き写す手間を減らせます。
- 社員とのやり取りを画面上で行える:社員が自分の情報を入力したり、明細を確認したりできます。紙の回収や配布の手間を減らせます。
資料で確かめたいこと
- 機能ごとの料金と、社員数による料金の変わり方
- いま使っている給与計算や勤怠管理のツールと連携できるか
- 電子申請(オンラインでの役所への届け出)に対応しているか
- 法改正があったときの更新の対応
- 問い合わせ窓口の対応時間と方法
よくある質問
Q. 労働条件通知書を電子で送るのに、本人の同意は必要ですか?
必要です。法律上は「労働者が希望した場合」に電子での明示が認められています。希望しない人には書面で交付します。希望の有無は、メールの返信やシステム上のチェックなど、記録に残る形で確認しておくと安心です。
Q. 電子申請に電子証明書は必要ですか?
GビズIDでe-Govにログインする場合、対応する手続きでは電子証明書は不要です。GビズID以外のアカウントで申請する場合は、電子証明書の添付が必要になります。
Q. パートやアルバイトも電子化の対象にできますか?
できます。パートやアルバイトは入社の件数が多く、むしろ電子化の効果が出やすい層です。スマートフォンから入力できる仕組みにすると、来社してもらう手間も減ります。
Q. 電子化した書類はどのくらい保存すればよいですか?
書類ごとに保存期間が決まっています。たとえば労働者名簿や雇用に関する書類は、労働基準法で5年間(当分の間は3年間)の保存が定められています(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。電子で保存する場合も、必要なときにすぐ表示・出力できる状態にしておきます。
Q. 入社前にマイナンバーを集めてもよいですか?
雇用契約を結んだ内定者など、入社が確実な人であれば、入社前に提供を求めることができるとされています。利用目的を本人に伝えたうえで回収し、内定を辞退した場合は速やかに廃棄します。具体的な取り扱いは、個人情報保護委員会のガイドラインやよくある質問で確認してください。
参考資料
- 厚生労働省「2024年4月からの労働条件明示のルール変更」
- 日本年金機構「電子申請の義務化」(2022年9月2日更新)
- 日本年金機構「電子申請(e-Gov)」(2026年3月2日更新)
- 全国健康保険協会 岡山支部「メールマガジン」(2026年9月10日)
- 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用(マイナ保険証)について」
- e-Gov法令検索「労働基準法施行規則」第5条
- e-Gov法令検索「労働基準法」第109条・第143条
- e-Gov法令検索「雇用保険法施行規則」第6条
- 国税庁「No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間」
- 日本年金機構「事業所向け 社会保険の電子申請」
- デジタル庁「e-Gov電子申請」
- 個人情報保護委員会「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」
