「管理職の勤怠は記録しなくてよい」「自己申告の表で足りている」。こうした運用のまま、労働時間の把握が十分でない会社は少なくありません。労働時間の把握は、残業代を正しく払うためだけでなく、社員の健康を守るための義務でもあります。
この記事では、労働時間の把握義務を、労働基準法にもとづくガイドラインと、労働安全衛生法の2つのルールから整理します。
対象になる人、把握の方法、自己申告制の注意点、記録の保存期間、時間外労働の上限まで、厚生労働省の資料をもとにまとめました。自社の勤怠管理を見直すときの確認に使ってください。
労働時間の把握義務とは|2つのルールがある
労働時間の把握には、目的の違う2つのルールがあります。1つは、労働基準法の労働時間や割増賃金のルールを守るためのもの。もう1つは、長時間働く人の健康を守るための、労働安全衛生法のルールです。

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」は、使用者の責務を次のように示しています。
労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有している。
出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
残業代を計算するにも、法定労働時間を超えたかを確かめるにも、まず何時から何時まで働いたかが分からなければなりません。労働時間の把握は、労働基準法のルールを守るための出発点だということです。
労働基準法では、使用者は原則として、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけないとされています(出典:厚生労働省「労働時間・休日」)。この時間を超えた分が時間外労働となり、割増賃金の対象になります。
これに加えて、2019年4月1日からは、労働安全衛生法でも「労働時間の状況」の把握が事業者の義務になりました(出典:厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」)。こちらは、長時間労働をした人に医師の面接指導を受けさせるために、働いた時間の状況をつかんでおくことが目的です。
把握の対象になる人|管理監督者も含まれる
2つのルールは、対象になる人の範囲が違います。ここを取り違えると、「管理職は記録しなくてよい」という誤った運用になりがちです。
労働基準法のガイドラインが対象にするのは、労働基準法第41条に定める者(管理監督者など)と、みなし労働時間制が適用される労働者を除く、すべての人です(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。
一方、労働安全衛生法の「労働時間の状況」の把握は、高度プロフェッショナル制度の対象者を除き、裁量労働制の適用者や管理監督者も対象になります(出典:厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」)。
| 比べる点 | 労働基準法のガイドライン | 労働安全衛生法 |
|---|---|---|
| 主な目的 | 労働時間・割増賃金のルールを守る | 長時間労働者の健康を守る |
| 把握するもの | 始業・終業の時刻 | 労働時間の状況 |
| 管理監督者 | 対象外 | 対象 |
| 裁量労働制の適用者 | みなし時間が適用される範囲は対象外 | 対象 |
| 原則の方法 | 使用者の現認、または客観的な記録 | タイムカードやパソコンの使用時間などの客観的な方法 |
| 記録の保存 | 労働基準法第109条に基づき保存 | 3年間保存する措置 |
つまり、管理監督者は残業代の支払いの対象ではなくても、健康を守るための労働時間の状況の把握は必要です。役職者だけ出退勤の記録をつけていない会社は、まずここから見直します。
何が労働時間に当たるか
把握の前提として、どの時間が労働時間に当たるかをそろえておく必要があります。ガイドラインは、労働時間を次のように定義しています。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる。
出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」
ポイントは「黙示の指示」です。会社が明確に命じていなくても、終わらない量の仕事を任せて事実上の残業を黙認していれば、その時間は労働時間に当たると考えられます。
ガイドラインは、労働時間に当たる例として、業務に必要な準備や後始末(決められた服装への着替えなど)、すぐに仕事に就くことを求められて待機している手待時間、参加が義務づけられた研修や教育訓練を受ける時間を挙げています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。始業前の朝礼や制服への着替えを打刻の前に行わせている職場は、記録の取り方を見直す必要があります。
労働時間の把握の方法|原則は客観的な記録
ガイドラインは、始業・終業の時刻を確認し記録する方法として、原則として、使用者が自ら現認して記録するか、タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間などの客観的な記録を基礎として確認し記録するかのどちらかによるとしています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。
労働安全衛生法の把握でも、タイムカードによる記録や、パソコンのログインからログアウトまでの時間の記録などの客観的な方法が求められています(出典:厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」)。

客観的な方法には、次のようなものがあります。どれか1つに決める必要はなく、働き方に合わせて組み合わせます。
- タイムカードやICカードによる打刻(事務所や店舗で働く人)
- パソコンのログイン・ログアウトの記録(事務の仕事や在宅勤務)
- スマートフォンのアプリでの打刻(外回りや直行直帰が多い人)
- 入退室の記録(建物やフロアの出入りを管理している職場)
打刻の記録と、パソコンの使用時間などのほかの記録に大きなずれがないかを、定期的に確かめることも大切です。打刻のあとも仕事を続けている、といった実態に気づくきっかけになります。
自己申告制にする場合の注意点
客観的な方法がとれない場合は、自己申告で把握することもあります。ただし、ガイドラインは、自己申告制の場合に使用者が講ずべき措置を細かく定めています(出典:厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」)。主なものは次のとおりです。
- 対象の社員と、時間を管理する管理者に、実態どおりに正しく申告することを十分に説明する
- 申告された時間が実際の労働時間と合っているか、必要に応じて実態を調べて補正する
- 会社にいた時間と申告された時間に大きな差がある場合は、理由を確かめる
- 申告できる時間に上限を設けるなど、正しい申告を妨げる仕組みを作らない
「残業は月20時間までしか申告できない」といった暗黙のルールがある職場は、この点で問題になります。自己申告制は例外の方法と考え、できる限り客観的な記録に切り替えていくのが基本です。
記録の保存期間
把握した記録は、一定の期間保存しなければなりません。労働安全衛生法は、把握した労働時間の状況について次のように定めています。
事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。
出典:厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」
労働基準法のほうでは、出勤簿やタイムカードなどの労働時間の記録は、労働者名簿や賃金台帳と同じく保存の対象です。2020年4月の法改正で、これらの記録の保存期間は3年から5年に延びました。ただし、当分の間は3年とされています(出典:厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」)。
同じ改正で、賃金を請求できる期間も2年から5年(当分の間は3年)に延びています(出典:厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」)。記録を残していないと、未払いの残業代を請求されたときに、会社として実際の労働時間を示せなくなります。将来の延長も見込んで、5年分を残せる仕組みにしておくと安心です。
把握した時間をどう使うか|上限規制と面接指導
労働時間を把握するのは、記録を残すためだけではありません。把握した時間をもとに、時間外労働の上限を守れているかを確かめ、長時間働いた人の健康を守る対応につなげます。
時間外労働の上限
時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計で月100時間未満、2か月から6か月の平均で月80時間以内とし、月45時間を超えられるのは年6か月までです(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)。

中小企業には2020年4月から適用されており、違反すると罰則の対象になるおそれがあります(出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」)。複数の月の平均を確かめるには、月ごとの時間を正確に把握していることが前提になります。月の途中で時間を集計し、上限に近づいている人に早めに声をかける運用にすると、超過を防ぎやすくなります。
長時間労働者への医師の面接指導
労働安全衛生法では、休憩時間を除き1週間あたり40時間を超えて働いた時間が1か月あたり80時間を超え、疲労の蓄積が認められる人が、医師の面接指導の対象になります。面接指導は、対象の人の申出によって行います(出典:厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」)。
対象になる人に気づくためにも、管理監督者を含めて労働時間の状況を把握しておく必要があります。月80時間を超えた人には、本人に時間を知らせ、面接指導を申し出られることを伝える流れを決めておきます。
把握が不十分なときに起きること
労働時間を正しく把握していないと、気づかないうちに上限を超えていた、月80時間を超えた人に面接指導の案内をしていなかった、といったことが起こります。退職した社員から未払いの残業代を請求されたときに、会社の側に反論できる記録がない、という事態にもなりかねません。
反対に、記録が整っていれば、部署ごとの残業の偏りや、特定の時期に仕事が集中していることも見えてきます。人を増やすか、仕事の分け方を変えるかを判断する材料にもなります。
在宅勤務・直行直帰の人の把握
在宅勤務や外回りの多い人は、会社で打刻ができません。こうした人も把握の義務の対象から外れるわけではありません。パソコンのログイン・ログアウトの記録や、スマートフォンでの打刻など、働き方に合わせた客観的な方法を選びます。
事業場外みなし労働時間制は、会社の外で働き、労働時間を算定しがたい場合に限って使える制度です。スマートフォンなどでいつでも連絡が取れ、指示を受けながら働いている場合は、算定しがたいとはいえないことがあります。みなしの制度を使っているから把握しなくてよい、と考えるのは危険です。
在宅勤務では、勤務の途中で私用のために仕事を離れる「中抜け」の扱いも決めておきます。厚生労働省のテレワークのガイドラインは、中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱うとしています(出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。
なお、労働時間に関わるルールは、見直しの議論が続いています。勤怠の仕組みを入れ替えるときは、厚生労働省の最新の発表を確かめてから決めるようにします。
労働時間の把握のチェックリスト
自社の運用を、次の点で確かめます。
- 管理監督者や裁量労働制の人も、労働時間の状況を記録している
- 原則として、打刻やパソコンの記録などの客観的な方法で把握している
- 着替えや朝礼、義務の研修の時間も労働時間として扱っている
- 自己申告制の場合、実態との差を調べて補正している
- 申告できる残業時間に上限を設けていない
- 記録を少なくとも3年、できれば5年保存できる
- 月の途中で時間外労働を集計し、上限に近い人に声をかけている
- 月80時間を超えた人に、面接指導の申出ができることを伝えている
社員が少なく、全員が同じ事務所で同じ時間に働いている会社なら、タイムカードと表計算ソフトでも十分に管理できます。在宅勤務や直行直帰の人が多い、拠点が分かれている、といった場合は、クラウドの勤怠管理の仕組みを検討すると、集計と保存の手間を減らせます。
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よくある質問
管理職の労働時間も記録する必要がありますか?
はい。労働基準法上の管理監督者は残業代の支払いの対象外ですが、労働安全衛生法による労働時間の状況の把握の対象です。長時間労働をしていないかを確かめるためにも記録が必要です。
エクセルの出勤簿に自分で入力する方法でもよいですか?
社員が自分で入力する方法は自己申告制にあたります。使う場合は、正しい申告の説明、実態との差の調査と補正などの措置が必要です。原則は、打刻やパソコンの記録などの客観的な方法です。
タイムカードの記録は何年保存すればよいですか?
労働基準法では5年とされ、当分の間は3年です。労働安全衛生法の労働時間の状況の記録も3年間の保存が必要です。将来の変更に備えて、5年分を残せるようにしておくと安心です。
始業前の朝礼は労働時間に含まれますか?
参加が義務になっている、参加しないと不利益があるなど、会社の指揮命令の下にあると認められれば労働時間に当たります。打刻の前に朝礼を行っている場合は、打刻の時刻か朝礼の時刻を見直します。
パートやアルバイトも把握の対象ですか?
対象です。雇用の形態にかかわらず、管理監督者などの例外にあたらない限り、始業・終業の時刻を把握する必要があります。短い時間で働く人ほど記録が手書きのままになりやすいため、正社員と同じ方法で記録できるかを確かめます。
参考資料
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」掲載ページ
- 厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」リーフレット
- 厚生労働省「働き方改革関連法により2019年4月1日から『産業医・産業保健機能』と『長時間労働者に対する面接指導等』が強化されます」
- 厚生労働省「未払賃金が請求できる期間などが延長されています」
- 厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」
- 厚生労働省「労働時間・休日」
- 厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」
