社員が増えてきて、昇給や役職の決め方を説明しにくくなった。そんなときに検討されるのが等級制度です。一方で、何から決めればよいのか、何段階にすればよいのかが分からず、手が止まってしまう会社も多くあります。
この記事では、等級制度の作り方を、種類の違い、作る前に決めること、具体的な手順、等級の定義の書き方に分けて整理します。評価や賃金とのつなげ方、就業規則の変更で気をつける点、自社で作るか外部の支援を使うかの判断の基準もまとめました。
等級制度とは
等級制度は、社員を能力や仕事、役割に応じていくつかの段階に分け、段階ごとに期待することを決める仕組みです。人事評価や賃金の決め方の土台になるため、人事制度の中心に置かれることが多い制度です。
等級制度は単独では機能しません。等級ごとの期待を基準に評価を行い、評価の結果を昇給や昇格に反映するという流れで、評価制度・賃金制度とつながって初めて意味を持ちます。
中小企業で等級制度が必要になる場面
社員が少ないうちは、社長が一人ひとりの仕事ぶりを見て昇給を決めることもできます。しかし、社員が増えて管理職を置くようになると、判断の基準を言葉にしておかないと、部署によって扱いに差が出やすくなります。
次のような声が社内で増えてきたら、等級制度を検討する時期です。
- 昇給や賞与の理由を説明できない
- 何をすれば役職に就けるのかが分からないと言われる
- 中途採用者の給与を、既存の社員とのバランスで決めにくい
- 管理職によって評価の甘さ・厳しさが違う
日本企業は何を基準に基本給を決めているか
等級制度の種類を選ぶ前に、ほかの会社が何を基準に基本給を決めているかを見ておきます。

厚生労働省の令和4年就労条件総合調査によると、管理職以外の基本給の決定要素として「職務・職種など仕事の内容」を挙げた企業は76.4%、「職務遂行能力」は66.3%、「学歴、年齢・勤続年数など」は65.8%、「業績・成果」は42.0%でした(出典:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」賃金制度(結果の概要))。
従業員30〜99人の企業では、それぞれ76.7%、65.4%、64.3%、38.4%です(出典:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」賃金制度(結果の概要))。
多くの会社が、仕事の内容と能力、年齢や勤続年数を組み合わせて基本給を決めていることが分かります。一つの基準だけで決めている会社ばかりではありません。
制度を見直す動きもあります。同じ調査で、過去3年間に賃金制度の改定を行った企業は40.4%でした(出典:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」賃金制度(結果の概要))。
改定を行った企業のうち、65.7%が「職務・職種などの仕事の内容に対応する賃金部分の拡大」を、51.7%が「職務遂行能力に対応する賃金部分の拡大」を挙げています(出典:厚生労働省「令和4年就労条件総合調査」賃金制度(結果の概要))。
等級制度の3つの種類
等級制度は、何を基準に段階を分けるかによって、大きく3つに分けられます。

職能資格制度:能力を基準にする
社員が身につけている職務遂行能力を基準に等級を決めます。能力は経験とともに高まると考えるため、同じ仕事を続けながらでも等級が上がりやすいのが特徴です。部署の異動が多い会社でも運用しやすい一方、能力の判定があいまいになると、年齢や勤続年数で等級が決まる状態になりがちです。
職務等級制度:仕事の内容を基準にする
担当する職務の大きさや難しさを基準に等級を決めます。仕事と処遇の関係が分かりやすい一方、職務ごとの内容を細かく書き出す必要があり、作る手間がかかります。
職務の大きさを測る方法として、厚生労働省は職務評価を紹介しています。
職務評価とは、社内の職務内容を比較し、その大きさを相対的に測定する手法です。人事管理上、よく用いられている人事評価とは異なるものです。
出典:厚生労働省 パートタイム・有期雇用労働法 対応のための取組手順書サイト「基本給の見直し方(職務分析・職務評価)」
職務評価の手法には、「単純比較法」「分類法」「要素比較法」「要素別点数法」の4つがあります(出典:厚生労働省「職務評価の手法」)。
要素別点数法では、要素ごとにレベルに応じたポイントを付け、その合計で職務の大きさを評価します(出典:厚生労働省「職務評価の手法」)。中小企業がいきなり細かい点数表を作るのは負担が大きいため、まずは職務を1対1で比べる単純比較法や、レベルの定義に当てはめる分類法から始める方法もあります。
役割等級制度:期待する役割を基準にする
会社が社員に期待する役割の大きさで等級を決めます。職能資格制度と職務等級制度の中間にあたる考え方で、職務の細かな書き出しまではせずに、「チームをまとめる」「後輩を育てる」といった役割で段階を分けます。社員数が数十人規模の会社では、役割等級制度から始めると作りやすいことが多くあります。
| 種類 | 基準 | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 職能資格制度 | 職務遂行能力 | 異動が多く、育成を重視する会社 | 年功的な運用になりやすい |
| 職務等級制度 | 職務の大きさ | 職務の内容がはっきり分かれている会社 | 職務の書き出しに手間がかかる |
| 役割等級制度 | 期待する役割 | 社員数が数十人程度で、役割で処遇したい会社 | 役割の定義があいまいだと差がつかない |
等級制度を作る前に決めること
いきなり等級の表を作り始めると、途中で方針がぶれて作り直すことになります。先に次の3つを決めておきます。
目的:何を解決したいか
「昇給の理由を説明できるようにしたい」「管理職を育てたい」「中途採用の給与を決めやすくしたい」など、解決したい課題を絞ります。目的によって、どの種類の等級制度が合うかが変わります。
対象:誰に適用するか
正社員だけに適用するのか、パート・有期雇用の社員も含めるのかを決めます。短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の間では、基本給や賞与などの待遇ごとに、職務の内容や配置の変更の範囲などに照らして不合理な相違を設けることが禁じられています(出典:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(e-Gov法令検索))。対象を分ける場合も、待遇の差を説明できるように設計しておきます。
体制:誰が作り、誰が運用するか
制度を作る担当者と、決定する経営者、運用を担う管理職の役割を決めます。等級の定義は現場の仕事を知っている人の意見がないと実態とずれるため、管理職にも作る段階から関わってもらいます。
等級制度の作り方6つの手順
作る前の方針が決まったら、次の手順で進めます。

- 現状を整理する:今の役職、給与、昇給の決め方を一覧にし、社員ごとの位置づけを確かめる
- 種類と等級の数を決める:自社の目的と規模に合う種類を選び、何段階に分けるかを決める
- 等級の定義を書く:等級ごとに期待する役割や能力、仕事の範囲を言葉にする
- 評価・賃金とつなげる:等級ごとの評価項目と、給与の範囲を決める
- 社員を当てはめて試算する:今の社員を新しい等級に当てはめ、給与がどう変わるかを確かめる
- 説明して運用を始める:社員に説明し、就業規則などを整えてから運用を始める
手順1:現状を整理する
今の役職と給与を一覧にすると、同じ役職でも給与に大きな差がある、役職がないのに給与が高い、といった実態が見えてきます。こうした差の理由を確かめておくことが、新しい制度で無理なく移行するための準備になります。
手順2:等級の数を決める
等級の数に決まりはありません。数を多くすると細かく処遇できる一方、等級の違いを言葉で説明しにくくなります。社員数が数十人の会社では、一般社員、主任・リーダー、管理職の大きな区分の中に、それぞれ2段階程度を置く形が考えやすい目安です。実際には、社員の人数や役職の数、昇格の頻度に合わせて決めます。
手順3:等級の定義を書く
等級の定義は、等級制度の中で最も時間がかかる部分です。「主体的に行動できる」のようなあいまいな言葉だけでは、評価する人によって判断が分かれます。仕事の範囲、判断の権限、周りへの影響の大きさなどを、等級ごとに書き分けます。
定義の言葉を一から考えるのが難しい場合は、公的な基準を参考にできます。
「職業能力評価基準」とは、仕事をこなすために必要な「知識」と「技術・技能」に加えて、「成果につながる職務行動例(職務遂行能力)」を、業種別、職種・職務別に整理したものです。
出典:厚生労働省「職業能力評価基準」
厚生労働省は、この基準を人材育成や採用、人事評価などの基準書として活用できるものとしています(出典:厚生労働省「職業能力評価基準」)。
業界内の標準的な基準として作られており、各企業が自社に合わせて調整して使えるとされています(出典:厚生労働省「職業能力評価基準」)。
等級の定義の書き方の例
役割等級制度で、一般社員から管理職までを5段階に分ける場合の定義の例です。実際の言葉は、自社の仕事に合わせて書き換えます。
| 等級 | 役割の例 | 判断の範囲の例 |
|---|---|---|
| 1等級 | 指示を受けて、決められた手順で仕事を進める | 手順の中で判断する |
| 2等級 | 担当の仕事を一人で進め、改善を提案する | 担当の仕事の進め方を判断する |
| 3等級 | チームの中心として、後輩の指導も担う | チームの仕事の優先順位を判断する |
| 4等級 | 小さなチームを率い、目標の達成に責任を持つ | チームの目標と人の配置を判断する |
| 5等級 | 部門を率い、方針を決めて成果に責任を持つ | 部門の方針と予算を判断する |
定義を書くときは、上の等級との違いが一文で説明できるかを確かめます。違いを説明できない等級は、ほかの等級とまとめることを検討します。中途採用の社員を当てはめるときも、この定義が判断の基準になります。前の会社での役職名ではなく、入社後に担ってもらう役割で等級を決めると、既存の社員とのバランスを取りやすくなります。
手順4:評価・賃金とつなげる
等級ごとに、評価で見る項目と、給与の範囲を決めます。給与の範囲は、等級ごとに下限と上限を決め、上の等級と下の等級で一部が重なるように設計する方法がよく使われます。重なりを大きくすると昇格しなくても昇給の余地が残り、小さくすると昇格の意味が大きくなります。
手順5:社員を当てはめて試算する
今の社員を新しい等級に当てはめ、給与が等級の範囲に収まるかを確かめます。範囲を超える社員や下回る社員がいる場合は、移行の方法を決めておきます。人件費の総額がどのくらい変わるかも、この段階で試算します。
手順6:説明して運用を始める
社員への説明では、制度の目的と、等級ごとに期待すること、昇格の条件を伝えます。一度の説明会で終わらせず、管理職から部下に個別に説明する機会もつくります。
就業規則と不利益変更の注意点
等級制度は、賃金の決め方につながるため、就業規則との関係を確かめておく必要があります。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、賃金の決定、計算及び支払の方法や昇給に関する事項などについて就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければなりません(出典:労働基準法(e-Gov法令検索))。等級制度に合わせて賃金の決め方を変える場合は、就業規則や賃金規程の変更と届出も必要になります。
特に注意したいのが、新しい制度で給与が下がる社員がいる場合です。労働契約法は次のように定めています。
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。
出典:労働契約法(e-Gov法令検索)
ただし、変更後の就業規則を周知し、変更が労働者の受ける不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉の状況などに照らして合理的なものであるときは、変更後の就業規則の内容によるものとされています(出典:労働契約法(e-Gov法令検索))。
給与が下がる社員がいる場合は、一定期間は差額を調整手当で補うなど、急に不利益が生じない移行措置を検討します。判断に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に確認しておくと安心です。
作ったあとに定着させるための工夫
等級制度は、作った時点がスタートです。運用が始まってから、次の点を確かめていきます。
- 評価する管理職が、等級の定義を同じように理解しているか
- 昇格の判断が、定義に沿って行われているか
- 社員が自分の等級と、次の等級に必要なことを知っているか
- 定義が実際の仕事とずれていないか
昇格の手続きも決めておきます。昇格の時期を年1回などに決め、直近の評価の結果と、上の等級の役割をすでに担えているかを見て判断する方法が一般的です。昇格の判断を上司一人に任せず、複数の管理職で確かめる場を設けると、部署による差が出にくくなります。
評価する管理職向けに、等級の定義と評価のつけ方を確かめる場を設けると、評価のばらつきを抑えやすくなります。制度は1年ほど運用した段階で見直し、定義の言葉や等級の数を調整します。
自社で作るか、外部の支援を使うかの判断の基準
等級制度は自社だけで作ることもできます。次のような場合は、自社で始めやすいといえます。
- 社員数が少なく、役職の種類も限られている
- 人事の担当者が、制度づくりに時間を割ける
- 給与が下がる社員がほとんど出ない見込みである
一方で、次のような場合は外部の支援を検討する価値があります。
- 等級の定義を言葉にできる人が社内にいない
- 評価制度や賃金制度もあわせて見直したい
- 既存の社員の給与の差が大きく、移行の設計が難しい
- 作ったあとの運用の定着まで支援してほしい
費用の考え方
外部の支援の費用は、制度の範囲(等級制度だけか、評価・賃金まで含むか)、社員数、支援の期間、運用の支援の有無によって大きく変わります。一律の相場を示すのは難しいため、複数の資料を取り寄せ、どこまでが料金に含まれるかを比べることが大切です。
等級制度の設計から評価の基準づくり、運用の定着までを相談したい場合は、中小企業向けの人事評価制度づくりの支援のようなサービスを検討する方法もあります。
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こんな課題があれば
- 評価の基準がなく、社長や上司の感覚で昇給や賞与を決めている
- 社員から評価の理由を聞かれても、うまく説明できない
- 評価シートを作ったものの、忙しさに追われて運用が止まっている
掲載サービスでできること
- 会社の規模や業種に合わせて基準を作る:大企業の制度をそのまま当てはめず、自社の仕事内容に合った評価項目を一緒に考えます。社員が納得しやすい基準づくりを目指します。
- 評価と給与・等級のつながりを整理する:評価の結果を、昇給や賞与、役職にどう反映するかを整理します。ルールが見えることで、社員への説明がしやすくなります。
- 運用の定着まで伴走する支援が多い:この種のサービスは、制度を作ったあとの評価面談や見直しまで支援するものが一般的です。支援の範囲は製品によって違うため、資料で確認してください。
資料で確かめたいこと
- 制度設計だけか、運用の定着まで支援してもらえるか
- 費用の内訳(設計費、月額の支援費、追加費用の有無)
- 評価者向けの研修や面談の練習が含まれるか
- 今の給与規程や就業規則との整合を見てもらえるか
- 契約期間と、途中で終了する場合の条件
よくある質問
等級制度は何人くらいの会社から必要ですか?
決まった人数はありません。管理職を置き、社長が全員の評価を直接決められなくなった段階が一つの目安です。昇給や役職の理由を説明しにくくなったら、検討を始める時期といえます。
等級の数は何段階がよいですか?
社員数や役職の数によって変わります。等級が多すぎると違いを説明しにくくなるため、まずは少なめに作り、運用しながら見直す方法がおすすめです。
等級制度を入れると、給与は必ず変わりますか?
必ず変わるわけではありません。今の給与を新しい等級の範囲に当てはめ、範囲に収まれば大きく変わらないこともあります。給与が下がる社員がいる場合は、移行の措置を検討します。
等級制度と人事評価制度は、どちらを先に作るべきですか?
等級制度を先に作るのが一般的です。等級ごとに期待することが決まっていないと、何を基準に評価するかを決められないためです。
