社員の目標をどう決め、どう評価すればよいか。人事評価の仕組みを整えようとすると、MBO(目標管理制度)という言葉をよく目にします。

MBOは、多くの会社で使われている目標と評価の仕組みです。ただし、目標の立て方や面談の進め方を決めずに導入すると、目標が上から割り振られるノルマになったり、評価への不満が増えたりします。

この記事では、MBOの意味と目的を整理し、目標の立て方と1回の評価期間の流れ、OKRやKPIとの違いを紹介します。中小機構や国の人事評価の資料で確認できる点を、出典とあわせてまとめました。

よくある失敗と防ぎ方、評価や賃金と結びつけるときの注意点、MBOを導入しなくてよいケースも取り上げます。

MBO(目標管理制度)とは

MBOは、Management by Objectivesの略で、日本では目標管理制度、目標管理とも呼ばれます。社員が自分の目標を決め、その達成に向けて自ら仕事を管理する考え方です。

中小機構が運営する中小企業向けの情報サイトでは、目標管理を次のように説明しています。

個々の担当者に自らの業務目標を設定・申告させ、その進捗や実行を各人が自ら主体的に管理する手法です。

出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「目標管理制度における目標設定の方法について教えてください。」

この説明で大切なのは、「自ら」という点です。MBOは、上司が目標を決めて部下に守らせる仕組みではありません。本人が目標を考え、上司と話し合って決めることで、仕事への意欲を引き出すことを狙っています。

同じ説明では、上位者から与えられた目標はノルマと受け取られやすく、自ら設定した目標は達成しようという意欲を引き出すと述べられています(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「目標管理制度における目標設定の方法について教えてください。」)。

MBOの目的

MBOの目的は、大きく3つに整理できます。

  • 組織の目標と個人の目標をつなげ、全員が同じ方向に向かって仕事をする
  • 本人が目標を考えることで、仕事への主体性と意欲を高める
  • 期初に決めた目標をもとに、成果を公平に評価し、処遇や育成に生かす

3つ目の評価の目的だけが強くなると、社員は達成しやすい低い目標を立てがちです。MBOを導入するときは、評価のための仕組みである前に、仕事を進めるための仕組みであることを社内で共有しておきます。

MBOの流れ|1回の評価期間で行うこと

MBOは、半期や1年などの評価期間ごとに、目標の設定、期中の確認、期末の評価を繰り返します。

MBOの流れを、目標の案づくり、期首面談での確定、期中の確認と見直し、期末の評価とフィードバックの4つで示した図

期首:目標の案をつくり、面談で確定する

まず、会社や部門の方針を受けて、本人が自分の目標の案を書きます。中小機構の説明では、組織の目標との連動は、部門のトップから上位から下位へ順に目標を設定する方法で進め、上位者は自分の目標を定めた後に達成の方針を示し、メンバーはその範囲で自分の目標を考えるとされています(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「目標管理制度における目標設定の方法について教えてください。」)。

目標の案ができたら、上司との面談で話し合って決めます。国の人事評価ガイドでは、期首面談で評価者と目標について意見交換を行って認識を共有し、双方の認識が一致した段階で目標と各目標の困難度・重要度を確定させるとしています(出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」)。

期中:進み具合を確かめ、必要なら見直す

期の途中では、定期的に進み具合を話し合います。仕事の状況は、期の途中でも変わります。国の人事評価の見直しでは、次のような方向が示されています。

状況の変化に応じ期中のコミュニケーションを通じて、業務目標の追加・変更を柔軟に行うほか、目標外の取組も併せて期末に評価

出典:内閣官房内閣人事局「人事評価の改善に向けた有識者検討会 報告書(概要)」

期首に決めた目標に縛られすぎると、途中で起きた大事な仕事に取り組んでも評価されない、という不満が生まれます。目標の追加や変更ができる仕組みにしておくことが大切です。人事評価ガイドでも、目標は評価期間中の変更も可能とされています(出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」)。

期末:達成度を評価し、面談で伝える

期末には、本人の自己評価と上司の評価をもとに、目標の達成度を評価します。そのうえで、面談で結果と理由、次の期の課題を伝えます。内閣人事局の面談ガイドラインでは、被評価者が話し始めたら途中で口を挟まず、話をよく聞くことが求められています(出典:内閣人事局「面談ガイドライン」)。結果を伝える前に、本人の振り返りを先に聞くと、評価のずれがどこにあるかが分かりやすくなります。

国の見直しでは、業績評価について、目標のレベル(困難度)とその達成度に応じて評語を付けることや、期首・期末面談の実施を徹底することが示されています(出典:内閣官房内閣人事局「人事評価の改善に向けた有識者検討会 報告書(概要)」)。難しい目標に挑戦して一部を達成した人と、易しい目標を達成した人を、同じように扱わないための工夫です。

よい目標の立て方

MBOがうまくいくかどうかは、目標の質で大きく変わります。目標シートを提出する前に、次の条件を確かめます。

MBOでよい目標を立てるための6つの条件をまとめたチェックリスト

期末に判定できる形にする

人事評価ガイドでは、期末に達成状況等を判定できるよう、目標をできる限り具体的に、何を、いつまでに、どの水準まで、どのように(方法・手段)を明らかにして書くとしています(出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」)。中小機構の説明でも、目標は測定や評価ができる形で表現し、完了すべき期間を明確に定めるとされています(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「目標管理制度における目標設定の方法について教えてください。」)。

「コストを下げたい」「品質を上げたい」のような願望のままでは、目標になりません(出典:独立行政法人中小企業基盤整備機構 J-Net21「目標管理制度における目標設定の方法について教えてください。」)。たとえば次のように書き直します。

書き直す前書き直した後
コストを下げたい12月末までに、消耗品の発注先を見直し、月の購入費を前年同月より下げる
新規の顧客を増やす9月末までに、新規の取引先との商談を月に4件行い、2件の見積もりを出す
業務を効率化する11月末までに、請求書の作成手順を手順書にまとめ、部署内で共有する
後輩を育てる3月末までに、後輩が見積書を一人で作成できるよう、OJTの計画を立てて実施する

表の数字は例です。数字は、自社の実績や部署の目標に合わせて決めます。

困難度を職位に合わせる

目標が易しすぎても、難しすぎても、意欲につながりません。国の人事評価では、一般の職員は通常の目標と比べて困難度が高いチャレンジ目標を原則として1つ以上設定し、管理・監督職員はマネジメントに関する具体的な目標を1つ以上設定するとしています(出典:内閣人事局・人事院「人事評価ガイド《評価者・調整者の手続編》」)。

民間の会社でも、管理職の目標には、部門の業績だけでなく、部下の育成や業務の見直しを入れる方法があります。

OKR・KPIとの違い

MBOと似た言葉に、OKRとKPIがあります。どれも目標に関わる言葉ですが、目的と使い方が違います。

MBO、OKR、KPIの違いを、目的、目標の性格、評価との関係、見直しの間隔で比べた表

OKRは、Objectives and Key Resultsの略で、組織として目指す目標と、その達成を測る主な成果を決める方法です。高めの目標を置き、短い間隔で見直すことが多く、処遇の評価とは切り離して運用するのが一般的です。

KPIは、Key Performance Indicatorの略で、成果に向けた進み具合を測る指標です。KPIそのものは評価の制度ではなく、MBOの目標の中に、KPIを使った数値目標を入れることもあります。

どれが優れているということではありません。社員の評価と処遇に結びつけたいならMBO、組織の挑戦を全員で共有したいならOKR、という使い分けが考えられます。両方を組み合わせて使う会社もあります。

MBOのメリットとデメリット

MBOのメリットとデメリットを整理します。

区分内容
メリット組織と個人の目標がつながり、仕事の優先順位がはっきりする
メリット期初に決めた基準で評価するため、評価の理由を説明しやすい
メリット面談を通じて、上司と部下が仕事について話す機会が増える
デメリット低い目標を立てる人が出やすく、挑戦が生まれにくいことがある
デメリット数字にしにくい仕事やチームへの貢献が評価されにくい
デメリット目標の設定と面談に、上司の時間がかかる

デメリットの多くは、運用の工夫で小さくできます。国の見直しでは、チームや組織への貢献、創意工夫、効率的な業務の進め方などのプロセスを、成果と組み合わせて評価する方向が示されています(出典:内閣官房内閣人事局「人事評価の改善に向けた有識者検討会 報告書(概要)」)。数字にしにくい部分は、行動の基準による評価と組み合わせます。厚生労働省の職業能力評価基準は、成果につながる職務行動の例を業種別・職種別に整理しており、行動の基準をつくる参考になります(出典:厚生労働省「職業能力評価基準」)。

MBOでよくある失敗と防ぎ方

MBOを導入した会社で、よく見られる失敗があります。

  • 目標がノルマになる:会社の数字を機械的に割り振ると、本人の意欲につながりません。本人が案をつくり、面談で話し合って決めます。
  • 低い目標ばかりになる:評価に直結すると、達成しやすい目標を立てがちです。困難度を評価に反映し、挑戦した人が損をしない仕組みにします。
  • 期中に放置される:期首と期末しか話さないと、状況の変化に対応できません。期中にも短い面談で進み具合を確かめます。
  • 面談が形だけになる:評価の結果を伝えるだけで終わると、次の期に生かせません。何がよく、何が課題かを具体的に伝えます。
  • 書類の作業が重くなる:目標シートの項目が多すぎると、記入と確認に時間がかかります。項目は必要なものに絞ります。

フィードバックの伝え方も大切です。内閣人事局のマネジメントテキストでは、フィードバックが必要と感じたら、できるだけ速やかに行うことが勧められています(出典:内閣官房内閣人事局「国家公務員のためのマネジメントテキスト」)。期中のこまめな対話には、1on1ミーティングを活用する方法もあります(出典:内閣官房内閣人事局「人事評価の改善に向けた有識者検討会 報告書(概要)」)。

評価や賃金と結びつけるときの注意点

MBOの結果を昇給や賞与に使う場合は、結びつけ方のルールを事前に決めて社員に示します。国の指針で紹介されている企業の事例では、評価結果を、管理職は賞与額に、非管理職は基本給の改定と賞与の決定に反映する例や、成果と行動の目標管理と面談でのフィードバックを評価制度の基礎とする例が挙げられています(出典:内閣官房・経済産業省・厚生労働省「ジョブ型人事指針」)。

パートタイムや有期雇用で働く社員の賃金にも、評価の考え方が関わります。短時間・有期雇用労働法では、事業主は通常の労働者との均衡を考慮しつつ、職務の内容、職務の成果、意欲、能力や経験などを勘案して賃金を決定するように努めるとされています(出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)。求めがあった場合には、通常の労働者との待遇の違いの内容と理由を説明しなければなりません(出典:e-Gov法令検索「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)。目標と評価の基準を文書にしておくと、説明がしやすくなります。

評価の基準づくりから運用の定着までを、外部の支援を受けながら進める方法もあります。ツナグバ掲載の中小企業向けの人事評価制度づくりの支援は、中小企業に合った人事評価制度の設計と運用を支援するサービスです。

MBOを導入するときの準備

MBOを新しく導入するときは、いきなり全社で始めるより、準備を整えてから段階的に進めるほうが混乱を防げます。

  1. 目的を決める:育成と面談のきっかけにするのか、昇給や賞与にも使うのかを決めます。
  2. 会社と部門の目標を示す:個人の目標の出発点になるため、先に経営の方針と部門の目標を言葉にします。
  3. 目標シートと面談の時期を決める:記入する項目、期首・期中・期末の面談の時期を決めます。
  4. 評価者の目線をそろえる:目標の書き方と評価の基準を、評価者同士で事例を使って確かめます。
  5. 一部の部署で試す:一度の評価期間を試し、書きにくかった項目や判断に迷った点を直してから全社に広げます。

最初の評価期間は、処遇に反映せず、目標の立て方と面談に慣れる期間にする方法もあります。

自社で導入するか、支援を使うか|判断の基準

MBOは、自社だけで導入することもできます。次の点を目安に判断します。

確かめる点自社で進めやすい支援を検討したい
評価者の人数経営者が全員の目標を見られる管理職が複数いて、目線をそろえたい
評価の使い道面談と育成のきっかけ昇給や賞与の決定にも使う
既存の制度評価制度がまだない等級や賃金の制度と整合させたい
担当者人事の担当者がいる兼務で時間がとれない

費用は、支援の範囲(目標シートの設計だけか、等級や賃金の仕組み、運用の定着まで含むか)、社員の数、期間で変わります。公的な相場はないため、複数のサービスの資料で、支援の範囲をそろえて比べます。

MBOを導入しなくてよいケース

  • 社員が数人で、経営者が毎日一人ひとりの仕事を見ている
  • 仕事の内容が半年ごとに大きく変わり、期初に目標を決めにくい
  • 評価を処遇に使う予定がなく、まずは話し合う場がほしい

こうした場合は、正式な制度にする前に、定期的な面談で仕事の目標と進み具合を話すところから始めても構いません。

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人材育成・研修の分野では、中小企業向けの人事評価制度づくりの支援を掲載しています。中小企業に合った人事評価制度の設計と運用を支援するサービスで、評価の基準づくりから運用の定着までを扱います。

MBOの導入とあわせて、評価の仕組み全体を見直したい会社は、資料で支援の範囲と進め方を確かめてください。

こんな課題があれば

  • 評価の基準がなく、社長や上司の感覚で昇給や賞与を決めている
  • 社員から評価の理由を聞かれても、うまく説明できない
  • 評価シートを作ったものの、忙しさに追われて運用が止まっている

掲載サービスでできること

  • 会社の規模や業種に合わせて基準を作る:大企業の制度をそのまま当てはめず、自社の仕事内容に合った評価項目を一緒に考えます。社員が納得しやすい基準づくりを目指します。
  • 評価と給与・等級のつながりを整理する:評価の結果を、昇給や賞与、役職にどう反映するかを整理します。ルールが見えることで、社員への説明がしやすくなります。
  • 運用の定着まで伴走する支援が多い:この種のサービスは、制度を作ったあとの評価面談や見直しまで支援するものが一般的です。支援の範囲は製品によって違うため、資料で確認してください。

資料で確かめたいこと

  • 制度設計だけか、運用の定着まで支援してもらえるか
  • 費用の内訳(設計費、月額の支援費、追加費用の有無)
  • 評価者向けの研修や面談の練習が含まれるか
  • 今の給与規程や就業規則との整合を見てもらえるか
  • 契約期間と、途中で終了する場合の条件

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よくある質問

MBOの評価期間は、どのくらいが一般的ですか?

半期や1年とする会社が多いです。期間が長いほど、途中で状況が変わりやすくなります。期間にかかわらず、期中に進み具合を確かめ、必要に応じて目標を見直せるようにしておきます。

目標はいくつくらい立てればよいですか?

決まった数はありません。数が多すぎると、一つひとつへの取り組みが浅くなり、評価の手間も増えます。仕事の中心となる目標を中心に、本人が期間中に意識し続けられる数に絞ります。

数字で表しにくい仕事でもMBOは使えますか?

使えます。数字の代わりに、期限や完了の状態で目標を書きます。「11月末までに手順書を作成し、部署内で共有する」のように、期末に達成したかどうかを判定できれば目標になります。

目標を達成できなかった社員は、どう評価すればよいですか?

達成度だけでなく、目標の困難度や、途中で起きた状況の変化も考えて評価します。難しい目標に挑戦した結果を低く評価しすぎると、次の期から挑戦する人がいなくなります。面談では、達成できなかった理由と次の期の取り組みを一緒に考えます。

参考資料