建設業でもDXという言葉を聞く機会が増えました。ただ、何から手をつければよいのか分からない、ツールを入れたが使われなかった、という声も少なくありません。DXは、大がかりなシステムを入れることではありません。現場と事務所の仕事の流れを、デジタルを使って少しずつ変えていく取り組みです。この記事では、中小の建設会社がDXを進めるための手順と、優先順位の付け方、判断の基準をまとめます。

建設業のDXとは何か

経済産業省の「デジタルガバナンス・コード3.0」(2024年9月改訂)では、DXを次のように定義しています(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」)。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」

定義にあるとおり、DXの目的はツールの導入ではなく、仕事のやり方や組織を変えることです。建設業に置き換えると、紙と電話と経験に頼っていた仕事を、データで共有し判断できる形に変えていくことだと言えます。

3つの段階で考える

DXはいきなり実現するものではありません。一般に、次の3つの段階で考えると整理しやすくなります。

段階内容建設業での例
デジタル化(紙をデータにする)紙や手書きの情報をデジタルに置き換える紙の日報をスマートフォン入力にする。写真をクラウドに保存する
業務のデジタル化(流れを変える)データを使って業務の流れそのものを効率化する現場と事務所で図面・工程を同時に共有し、連絡の電話を減らす
DX(仕事のやり方と価値を変える)蓄積したデータで判断や事業のあり方を変える過去の工事データから見積もりと工程の精度を上げ、受注の判断に使う

多くの中小企業にとっては、最初の2段階を確実に進めることが現実的な目標になります。土台がないまま3段階目を目指すと、失敗しやすくなります。

なぜ今、建設業でDXが求められるのか

建設業のDXが話題になる背景には、業界を取り巻く制度と人の変化があります。

建設業の就業者数が1997年の685万人から2022年の479万人に減ったことを示す棒グラフ

国土交通省の資料によると、建設業の就業者数は1997年の685万人から、2022年には479万人に減りました。2022年の年間労働時間は建設業が2,022時間で、全産業の1,954時間より長くなっています(出典:国土交通省「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」概要)。少ない人数で、より短い時間で現場を回す前提が強まっています。

時間外労働の上限規制

2024年4月から、建設業にも時間外労働の上限規制が適用されています。厚生労働省によると、原則は月45時間以内かつ年360時間以内です。特別条項を結んだ場合も、年720時間以内などの上限があります(出典:厚生労働省「はたらきかたススメ」建設業の時間外労働の上限規制)。限られた時間で同じ仕事をこなすには、移動や書類作業などの時間を減らす工夫が欠かせません。

改正建設業法による適正な工期と労務費

2024年6月に公布された改正建設業法により、2025年12月12日から、著しく短い工期での契約が受注者にも禁止されました(出典:国土交通省「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」概要)。通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回る見積りなども禁止されています(出典:福岡県「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律の全面施行について」)。適正な工期と費用で見積もるには、自社の実績を数字で把握していることが前提になります。同じ改正では、特定建設業者や公共工事の受注者に、ICTの活用などによる効率的な現場管理が努力義務とされました(出典:国土交通省「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」概要)。

国のi-Construction 2.0

国土交通省は2024年4月に「i-Construction 2.0」を策定し、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、すなわち生産性を1.5倍に高めることを目指しています(出典:国土交通省「『i-Construction 2.0』を策定しました」)。柱は「施工のオートメーション化」「データ連携のオートメーション化」「施工管理のオートメーション化」の3つです(出典:国土交通省「『i-Construction 2.0』を策定しました」)。

目指す現場の姿について、国土交通省は次のように説明しています。

建設現場で働く一人ひとりが生み出す価値を向上し、少ない人数で、安全に、快適な環境で働く生産性の高い建設現場の実現を目指して、建設現場のオートメーション化に取り組みます。

出典:国土交通省「『i-Construction 2.0』を策定しました」

中小の会社にとって身近なのは、このうちデータ連携や施工管理に近い部分です。写真や図面、工程をデータで共有することは、その入り口にあたります。2026年2月の資料でも同じ目標のもとで取り組みが続いていることが示されており(出典:国土交通省「ICT導入協議会(第22回)を開催します i-Construction2.0 建設現場のオートメーション化に向けた取組を推進」)、公共工事を中心に現場のデジタル化は今後も進むと考えられます。

人手不足と技能の継承

ベテランの経験が個人の頭の中にだけある状態では、その人が引退したときに仕事が回らなくなります。経験をデータとして残すことは、技能の継承という面でも意味があります。

中小の建設会社がDXを進める5つのステップ

ここからは、具体的な進め方です。順番に進めることで、途中で止まりにくくなります。

中小の建設会社がDXを進める5つのステップを示す図
  1. 現状の業務と困りごとを洗い出す
  2. 優先して取り組む課題を1〜2個に絞る
  3. 小さく試す
  4. ルールを決めて社内に広げる
  5. データを使って判断を変える

ステップ1. 現状の業務と困りごとを洗い出す

まず、受注から引き渡しまでの仕事の流れを書き出します。その中で、時間がかかっている作業、ミスが起きやすい作業、特定の人しかできない作業に印をつけます。社長や事務所だけで考えず、現場の人の声を聞くことが重要です。

ステップ2. 優先する課題を1〜2個に絞る

洗い出した課題をすべて一度に解決しようとすると、現場の負担が大きくなります。効果が大きく、取り組みやすいものから選びます。判断の基準は次の章で紹介します。

ステップ3. 小さく試す

選んだ課題について、1つの現場や1つのチームでツールや新しいやり方を試します。無料の試用期間を使えば、費用をかけずに確かめられます。試す期間と、うまくいったかどうかを判断する基準を先に決めておきます。

ステップ4. ルールを決めて社内に広げる

試してうまくいったら、入力のルールや使い方を決めて、ほかの現場に広げます。紙と新しいやり方を長く並行すると、二重の手間になります。切り替える日を決めることも大切です。

ステップ5. データを使って判断を変える

デジタルで情報がたまってくると、使える数字が増えます。工事ごとの人工や工期の実績、写真や日報の記録などです。これを見積もりや工程づくり、人員配置に生かすことで、仕事の判断の質が上がっていきます。ここまで来て、DXと呼べる段階に近づきます。

たまったデータの使い道の例

たまるデータ使い道の例
工事ごとの人工・工期の実績似た工事の見積もりや工程づくりの精度を上げる
工事写真と日報施主への報告や、引き渡し後の問い合わせへの対応に使う
人ごとの稼働の記録特定の人への作業の偏りに気づき、配置を見直す
手直しや不具合の記録起きやすい工程を把握し、次の現場で注意点として共有する

データは、ためるだけでは役に立ちません。月に1回など、決まったタイミングで数字を見て話し合う場をつくると、判断に生かしやすくなります。

技能者の就業履歴は業界共通の仕組みでも蓄積されている

技能者の就業実績や資格の記録には、建設キャリアアップシステム(CCUS)という業界共通の仕組みがあります。運営主体は一般財団法人建設業振興基金です(出典:一般財団法人建設業振興基金「建設キャリアアップシステムについて」)。蓄積する情報は次のように説明されています。

いつ、どの現場に、どの職種で、どの立場(職長など)で働いたのかを就業履歴として電子的に記録・蓄積します。

出典:一般財団法人建設業振興基金「建設キャリアアップシステムについて」

自社で人員配置や技能の見える化を進めるときは、こうした業界共通のデータとの関係もあわせて考えておくと、同じ情報の二重管理を避けやすくなります。

何から始めるか。優先順位の判断基準

最初に取り組む課題は、次の観点で選ぶと失敗しにくくなります。

建設業DXで最初に取り組む課題を選ぶ5つの観点のチェックリスト
観点確認すること
効果の大きさ毎日・毎週発生していて、多くの人の時間を使っている作業か
取り組みやすさ今の仕事の流れを大きく変えずに始められるか
現場の納得現場の人が「楽になる」と感じられるか
費用試用や小さな規模で始められるか
広がりうまくいけば、ほかの業務にもつなげられるか

他社の取り組みを参考にしたい場合、経済産業省は中堅・中小企業等のDXの優良事例を「DXセレクション」として選定・公表しています(出典:経済産業省「DXセレクション(中堅・中小企業等のDX優良事例選定)」)。中小の建設会社でよく選ばれるのは、次のような分野です。

  • 工事写真の整理と共有
  • 図面や工程表の共有
  • 現場の予定と人員の割り当て
  • 日報や出面の入力
  • 見積もりや請求などの事務作業

写真や図面の共有は、毎日発生し、現場の人にも効果が分かりやすいため、最初の一歩に選ばれることが多い分野です。たとえば建設業に特化した現場管理のクラウドサービスのように、工事現場の写真、図面、工程などをスマートフォンでまとめて共有・管理できるものがあります。人の手配で電話が多い会社なら、現場の予定と人員の割り当てを一つの画面で管理する仕組みから始める方法もあります。

DXにかかる費用の考え方

DXの費用は、取り組む範囲と使うツールで大きく変わります。クラウド型のツールは、利用人数に応じた月額料金の形が多く、初期費用がかからないものもあります。一方で、業務全体を一つのシステムにまとめる場合や、独自に開発する場合は、費用も期間も大きくなります。

費用を考えるときは、次の項目を合わせて見積もります。

  • ツールの月額料金と初期費用
  • スマートフォンやタブレットなど端末の費用
  • 社内の説明や設定にかかる時間
  • 協力会社にも使ってもらう場合の費用

効果は、減らせる時間で考えると分かりやすくなります。写真の整理、図面の連絡、日報の作成などに、今どれだけの時間をかけているかを数えます。その時間が半分になったら人件費はどれくらいか、という形で比べると、投資の判断がしやすくなります。正確な金額は、ツールごとの見積もりで確認してください。

国や自治体の補助金を使える場合もあります。補助金は年度ごとに内容や募集期間が変わるため、最新の公募要領を確認してください。

社内と協力会社の理解を得るためのポイント

DXの成否は、ツールの性能よりも、使う人の理解で決まる部分が大きくなります。社内と協力会社に、どう伝えるかを考えておきます。

現場への伝え方

現場の人にとって、新しいやり方は負担から始まります。「会社のため」ではなく、「帰社してからの書類作業が減る」「確認の電話が減る」といった、本人にとっての利点を具体的に伝えます。操作に慣れるまでの期間は、質問に答える担当を決めておくと安心です。

事務所・管理部門への伝え方

事務所の人は、入力されたデータを受け取り、整理する立場になることが多くあります。誰が何を入力し、事務所がそれをどう使うのか、仕事の分担がどう変わるのかを説明します。分担があいまいなままだと、事務所に作業が集中しがちです。

協力会社への伝え方

協力会社に新しい仕組みを使ってもらう場合は、相手の負担と利点の両方を説明します。アカウントの費用をどちらが持つか、どの情報を共有するか、操作の説明を誰が行うかを先に決めておきます。いきなりすべての協力会社に広げず、付き合いの長い会社から始めると進めやすくなります。

DXがうまくいかない会社によくあるパターン

DXの取り組みが止まってしまう原因には、共通するものがあります。

  • 社長が一人で決めて、現場の人が目的を知らない
  • 機能の多いシステムを一度に入れ、使いこなせない
  • 推進役が決まっておらず、困ったときに相談先がない
  • 紙のやり方を残したまま、二重の手間になっている
  • 導入したことに満足し、効果を確かめていない

逆に言えば、目的を共有し、範囲を絞り、推進役を決め、効果を確かめる。この4つを押さえることで、失敗の多くを防ぎやすくなります。

推進役の決め方

推進役は、ITに詳しい人である必要はありません。現場の事情を知り、社内で話を聞いてもらえる人が向いています。現場と事務所の両方と話ができる人を選び、ほかの業務の負担を少し減らしてでも時間を確保することが大切です。

急いでDXに取り組まなくてもよいケース

DXは多くの会社にとって意味のある取り組みですが、急ぐ必要がない場合もあります。

  • 現場の数が少なく、少人数で顔を合わせて情報を共有できている
  • 今のやり方で大きな困りごとがない
  • 社内でスマートフォンやパソコンを業務で使う環境が整っていない
  • 繁忙期の最中で、新しいことを試す余裕がない

こうした場合は、無理にツールを入れるより、写真の名前の付け方をそろえる、共有フォルダの使い方を決めるなど、費用のかからない準備から始めるのがよいでしょう。繁忙期を避けて、閑散期に試すのも一つの方法です。

DXの進み具合を確かめるチェックリスト

取り組みが進んでいるかを、定期的に確認します。

  • DXの目的を社内に説明し、現場の人も理解している
  • 推進役が決まり、相談できる体制がある
  • 最初に取り組む課題が1〜2個に絞れている
  • 小さく試し、効果を確かめる基準を決めた
  • 入力のルールが決まり、守られている
  • 紙との並行期間を決め、切り替えた
  • 削減できた時間など、効果を数字で確認している
  • たまったデータを、見積もりや工程づくりに使い始めている
  • 協力会社との情報共有の方法を決めている
  • 取り組みを半年から1年ごとに見直している

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ツナグバで、建設業DXに使えるサービスを比べる

ツナグバは、法人向けサービスを無料で比べられる掲載サイトです。気になるサービスの資料を、まとめて無料で請求できます。建設業のDXに関連するサービスとして、次の2つを掲載しています。

  • 建設業に特化した現場管理のクラウドサービス:工事現場の写真、図面、工程などを、スマートフォンでまとめて共有・管理できるサービスです。建設業・工事業の企業向けです。
  • 現場の予定管理に特化したスケジュール管理システム:現場作業の予定や人員の割り当てを、一つの画面で管理できるシステムです。電話や紙での調整の手間を減らします。現場作業の段取りが多い企業向けです。

写真や図面の共有から始めるか、予定と人の手配から始めるか。自社の課題に合わせて、資料を並べて比べてみてください。

建設業に特化した現場管理のクラウドサービス

こんな課題に向いています。

  • 現場の写真を整理するのに、事務所に戻ってから時間がかかっている
  • 図面や工程表の最新版がどれか分からず、古い資料で作業してしまうことがある
  • 現場と事務所、協力会社との連絡が電話に頼っていて、伝え漏れが起きている

主な特徴は次のとおりです。

  • 写真や図面を現場ごとにまとめられる:工事写真や図面、書類を現場ごとに整理して保存できます。必要な資料を探す時間を減らせます。
  • スマートフォンで現場から共有できる:撮った写真や作業の状況を、現場からその場で共有できます。事務所にいる人も、現場の様子を確認しやすくなります。
  • 工程や連絡を関係者で確認できる:工程の予定や連絡事項を、関係者が同じ場所で確認できます。協力会社がどこまで使えるかは製品によって違うため、資料で確認してください。

資料で確かめたいことの例です。

  • 協力会社など社外の人も使えるか、その場合の費用はどうなるか
  • 写真や書類の保存容量と、超えたときの料金
  • 電波の届きにくい現場でも使えるか

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現場の予定管理に特化したスケジュール管理システム

こんな課題に向いています。

  • 現場ごとの予定と人の割り当てを、電話と紙で調整していて手間がかかっている
  • 急な予定変更が作業員に伝わらず、現場で行き違いが起きている
  • 誰がどの現場に入っているか、事務所に戻らないと分からない

主な特徴は次のとおりです。

  • 予定と人員の割り当てを一つの画面で見られる:現場ごとの予定と、誰が入るかを一覧で確認できます。空いている人や重なっている予定を見つけやすくなります。
  • 変更をその場で共有できる:予定を変えると、関係する人の画面にも反映される仕組みが一般的です。電話で一人ずつ連絡する手間を減らせます。
  • スマートフォンから確認できる:外出中や現場にいるときも、手元の端末で予定を見られるものが多くあります。対応する端末は製品によって違うため、資料で確認してください。

資料で確かめたいことの例です。

  • 利用人数ごとの月額料金と、初期費用の有無
  • 作業員が使う端末(スマートフォン・タブレット)で動くか
  • いま使っている勤怠管理や見積もりのツールと連携できるか

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よくある質問

Q. 小さな建設会社でもDXは必要ですか?

A. 規模にかかわらず、紙や電話に頼っている作業をデジタルに置き換えることには意味があります。ただし、大がかりなシステムは必要ありません。写真の共有など、毎日発生する作業から小さく始めるのが現実的です。

Q. DXとIT化はどう違うのですか?

A. IT化は、紙の作業をデジタルに置き換えるなど、道具を変えることを指す場合が多い言葉です。DXは、デジタルを使って仕事のやり方や組織、事業のあり方まで変えることを指します(出典:経済産業省「デジタルガバナンス・コード3.0」)。IT化はDXの土台にあたります。

Q. DXを進めるのに、どのくらいの期間がかかりますか?

A. 取り組む範囲によって大きく異なります。1つの業務を小さく試し、社内に広げるまでには、数か月かかることが一般的です。全社的な変化には年単位の時間がかかると考え、段階ごとに目標を決めて進めます。

Q. ITに詳しい社員がいなくても進められますか?

A. 進められます。最近のクラウド型のツールは、専門知識がなくても使えるものが多くあります。導入時の設定や説明を支援してくれるサービスを選ぶ、外部の専門家に相談するといった方法もあります。

参考資料