福利厚生のメニューを見直そうとすると、「女性の従業員にも喜ばれる制度を入れたい」という声が社内から上がることがあります。一方で、何を選べばよいのか、性別で対象を分けてよいのか、迷う担当者も多いのではないでしょうか。

女性の従業員から声が多いニーズには、健康の支援、休暇と柔軟な働き方、育児や介護との両立、身だしなみのケア、休息やリフレッシュなどがあります。ただし、ニーズは年齢や家族の状況、仕事の内容によって人それぞれです。性別だけで決めつけず、従業員の声を聞いて選ぶことが大切です。

この記事では、女性の従業員から声の多い福利厚生のニーズを分野ごとに整理し、法律で決まっている制度との違い、性別で対象を分けるときの注意、税の扱い、導入の手順を解説します。

制度を選ぶときのチェックリストと、導入しなくてよいケースもまとめました。福利厚生の見直しに使ってください。

女性の従業員のニーズに目を向ける理由

働く女性は、職場の大きな割合を占めています。内閣府の男女共同参画白書は、令和5年時点で就業者数の45.2%が女性であると紹介しています(出典:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和6年版」コラム3 女性活躍とフェムテック)。

働く人の健康の面からも、関心が高まっています。経済産業省の試算では、女性特有の健康課題による労働損失などの経済損失は、社会全体で年間約3.4兆円とされています(出典:経済産業省「女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について」)。同じ白書のコラムでは、月経や更年期の症状について、自身で我慢し対処すべきこととして捉えられがちな社会的・文化的背景があることにも触れています(出典:内閣府男女共同参画局「男女共同参画白書 令和6年版」コラム3 女性活躍とフェムテック)。

福利厚生は、こうした課題に会社として向き合うための手段の一つです。採用の場面で伝えられる特徴になるほか、今いる従業員が働き続けやすい環境づくりにもつながります。

女性の従業員から声の多い福利厚生のニーズ

女性の従業員から声の多いニーズを、6つの分野に分けて整理します。どの分野も、性別にかかわらず必要とする人がいるものです。

女性の従業員から声の多い福利厚生のニーズを、健康の支援、休暇と働き方、両立支援、身だしなみ、休息、職場環境の6分野で示した図
分野制度の例声が多い背景
健康の支援健康診断の項目の追加、婦人科の検診の補助、健康の相談窓口体調の変化と仕事を両立したい
休暇と柔軟な働き方時間単位の休暇、在宅勤務、時差出勤通院や体調に合わせて働きたい
育児・介護との両立法定を上回る休業制度、保育や介護のサービスの補助家族の事情と仕事を両立したい
身だしなみ・セルフケア身だしなみのケアのメニュー、リラクゼーションの補助人と会う仕事が多い、自分の時間を持ちたい
休息・リフレッシュ旅行や宿泊の割引、レクリエーション家族や友人と過ごす時間を充実させたい
職場環境休憩室の整備、オフィスの空間づくり毎日過ごす職場を快適にしたい

健康の支援

健康の支援は、声が特に多い分野です。健康診断の項目を増やす、婦人科の検診の費用を補助する、健康について相談できる窓口を設けるといった制度があります。

厚生労働省は、働く女性の健康支援について、事業主や人事労務担当者などを対象にした研修会を実施しています(出典:厚生労働省「働く女性の健康支援について」)。また、職場における女性の健康支援や母性健康管理に関する相談を受け付けるサイトも設けています(出典:厚生労働省「働く女性の心とからだの応援サイト」)。制度をつくる前に、こうした公的な情報で基本を押さえておくとよいでしょう。

休暇と柔軟な働き方

通院や体調の変化に合わせて働けることも、声の多いニーズです。時間単位で休暇を取れる、在宅勤務や時差出勤を選べるといった制度は、性別を問わず多くの従業員が使いやすい制度です。

育児・介護との両立

育児や介護と仕事を両立するための支援も、関心の高い分野です。法律で定められた休業制度に加えて、会社として期間を延ばしたり、保育や介護のサービスの費用を補助したりする方法があります。男性の従業員の利用も前提にした制度にすると、職場全体で両立しやすい雰囲気が生まれます。

身だしなみ・セルフケア

人と会う仕事が多い従業員などから、身だしなみのケアに関する声が上がることもあります。歯の見た目のケアに関心のある従業員向けのメニューや、リラクゼーションの補助など、福利厚生として用意できるものがあります。

このような分野のサービスは、効果や効能を約束するものではありません。福利厚生として導入するときは、「使いたい人が使える選択肢を一つ増やす」位置づけで案内し、効果を強調した説明は避けます。

休息・リフレッシュ

旅行や宿泊を割安に使える制度は、家族や友人との時間に使えるため、幅広い従業員に喜ばれやすい分野です。会社が独自に旅行の補助を作ると、手続きや管理の手間がかかるため、予約や割引の仕組みが用意されたサービスを使う方法もあります。

社員が旅行や宿泊を割引の価格などで利用でき、家族と使える場合もある、ツナグバ掲載の旅行と組み合わせた福利厚生サービスも比較の候補になります。対象となる施設や割引の内容は製品によって違うため、資料で確認してください。

職場環境

毎日過ごす職場の環境も、福利厚生の一部と考えられます。休憩室を整える、受付や会議室の雰囲気を変えるといった取り組みは、性別を問わず従業員全員に関わります。来客の多い会社では、職場の印象づくりにもつながります。従業員に意見を聞きながら進めると、自分たちの職場という意識も生まれやすくなります。絵画をレンタルして定期的に入れ替えるなど、購入せずに空間の印象を変える方法もあります。

法律で決まっている制度と、会社が上乗せする制度

福利厚生を考えるときは、法律で会社に義務づけられている制度と、会社が任意で用意する制度を分けて考えます。法律で決まっている制度は、福利厚生として新たに用意するものではなく、まず確実に運用すべきものです。

たとえば、生理日の休暇について、労働基準法は次のように定めています。

使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない。

出典:e-Gov法令検索「労働基準法」第65条・第68条

産前産後の休業についても、労働基準法は、6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合は就業させてはならないこと、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならないことを定めています(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」第65条・第68条)。

これらは法律上の義務です。そのうえで、休暇を有給にする、取りやすくするために名称を変える、検診の時間を確保しやすくするといった工夫は、会社が上乗せする制度として検討できます。法律で決まっている制度が使いにくい状態のまま、新しい福利厚生だけを増やしても、従業員の満足にはつながりにくくなります。

性別で対象を分けるときの注意

「女性向けの福利厚生」を考えるときに、注意したいのが、性別で対象を分けることの扱いです。男女雇用機会均等法は、次のように定めています。

事業主は、次に掲げる事項について、労働者の性別を理由として、差別的取扱いをしてはならない。(中略)二 住宅資金の貸付けその他これに準ずる福利厚生の措置であつて厚生労働省令で定めるもの

出典:e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」第6条・第8条

対象となる福利厚生の措置は省令で定められていますが、性別を理由に福利厚生の利用を分ける場合は、この規定との関係を確かめる必要があります。一方で、同じ法律は、男女の均等な機会と待遇の確保の支障となっている事情を改善することを目的として、女性労働者に関して行う措置を妨げるものではないとも定めています(出典:e-Gov法令検索「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」第6条・第8条)。

実務では、次のように考えると整理しやすくなります。

  • 妊娠・出産など、身体の機能に関わるものは、対象が限られても目的がはっきりしている
  • 健康の支援、休暇、身だしなみのケア、旅行などは、性別を問わず全員が使える形にする
  • 「女性向け」と打ち出すより、「誰でも使える選択肢を増やす」と案内する
  • 判断に迷うときは、労働局や社会保険労務士に相談する

全員が使える形にしておくと、「一部の人だけが得をしている」という不公平感も生まれにくくなります。

福利厚生の税の扱い

会社が福利厚生の費用を負担すると、その内容によっては、従業員の給与として課税されることがあります。福利厚生として費用を処理できるかどうかは、制度ごとに確かめる必要があります。

たとえば、従業員のレクリエーション旅行について、国税庁は、旅行の期間が4泊5日以内であり、参加した人数が全体の50パーセント以上であるなどの条件を満たす場合は、原則として旅行の費用を参加した人の給与としなくてよいとしています(出典:国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」)。一方で、役員だけで行う旅行や、金銭との選択が可能な旅行などは、ここでいうレクリエーション旅行には当たらないとされています(出典:国税庁「No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行」)。

一般に、特定の人だけが使える制度や、現金と選べる制度は、給与として扱われやすくなります。新しい制度を入れるときは、顧問の税理士などに確認しておくと安心です。

女性活躍推進法の改正と、福利厚生とのつながり

女性活躍推進法は、2026年に改正の内容が施行されています。厚生労働省によると、令和8年4月1日施行の改正により、常時雇用する労働者が101人以上300人以下の事業主についても、「男女間賃金差異」が情報公表の必須項目になりました(出典:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」)。301人以上の事業主については、令和4年7月8日から公表が義務づけられています(出典:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」)。

改正女性活躍推進法による男女間賃金差異の情報公表の対象と時期、えるぼしプラスの制度をまとめた表
対象内容時期
常時雇用する労働者301人以上の事業主男女間賃金差異の情報公表が義務令和4年7月8日から
常時雇用する労働者101人以上300人以下の事業主男女間賃金差異が情報公表の必須項目に令和8年4月1日施行
女性の健康支援に取り組む企業新しい認定制度「えるぼしプラス」厚生労働省が制度を案内

あわせて、職場における女性の健康支援に取り組む企業を認定する新しい制度として、「えるぼしプラス」「プラチナえるぼしプラス」が設けられています(出典:厚生労働省「女性活躍推進法特集ページ」)。健康の支援を福利厚生として整えることは、こうした制度への取り組みを考えるきっかけにもなります。

福利厚生を選ぶ手順

福利厚生は、入れて終わりではなく、使われて初めて意味があります。次の手順で進めると、使われない制度を増やしてしまうことを防げます。

福利厚生を選ぶ手順として、声を集める、今の制度を見直す、候補を比べて試す、案内と見直しの4段階を示した図
  1. 従業員の声を集める:アンケートや面談で、困っていることと使いたい制度を聞く
  2. 今の制度を見直す:法律で決まっている制度が使いやすいか、使われていない制度はないかを確かめる
  3. 候補を比べる:費用、対象者、使い方、税の扱いを比べる
  4. 試しに始める:一部の部署や期間を区切って試し、利用の状況を見る
  5. 案内と見直し:使い方を分かりやすく伝え、利用の状況を見て続けるかを決める

アンケートでは、性別や年代、家族の状況などで回答を分けて見られるようにすると、どの層にどのニーズがあるかが分かりやすくなります。ただし、回答の内容から個人が特定されないよう、集計の方法に注意します。

案内するときの配慮

健康に関わる制度は、使うことを周りに知られたくないと感じる従業員もいます。申請の窓口を上司ではなく人事の担当者にする、外部のサービスに直接申し込める形にするなど、使う人の気持ちに配慮した仕組みにすると、利用のハードルが下がります。

健康の状態に関する情報は、本人の同意なく共有しないことも大切です。利用の状況を集計するときは、個人が特定されない形で数を確かめるにとどめます。

案内の文章では、「女性のための制度」と強調するより、「体調に合わせて使える制度」「身だしなみのケアに使える制度」のように、使い道を具体的に伝えると、性別を問わず必要な人に届きやすくなります。

制度を選ぶときのチェックリスト

  • 従業員の声をもとに、必要とされている分野を選んだか
  • 性別を問わず、使いたい人が使える形になっているか
  • 勤務の時間や場所にかかわらず使えるか
  • 会社の費用負担の方法(全額か一部か)を決めたか
  • 給与として課税されるかどうかを確かめたか
  • 使い方を、分かりやすく案内できるか
  • 利用の状況を確かめ、見直す時期を決めたか

導入しなくてよいケース

次のような場合は、新しい福利厚生を急いで入れる必要はありません。

  • 法律で決まっている休暇や休業が、まだ使いにくい状態にある
  • 既存の制度が知られておらず、ほとんど使われていない
  • 従業員の声を聞かずに、話題になっている制度を入れようとしている

この場合は、まず既存の制度の案内を見直し、使いやすくすることから始めると、費用をかけずに満足度を高められることがあります。

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  • 会社の費用負担の方法を選べる場合がある:全額を会社が負担する方法や、一部を補助する方法などがあります。選べる形は製品によって違うため、資料で確認してください。

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よくある質問

女性だけを対象にした福利厚生を作ってもよいですか?

福利厚生の内容によっては、男女雇用機会均等法の性別を理由とする差別の禁止との関係を確かめる必要があります。妊娠・出産に関わるものなど目的がはっきりしているものを除き、性別を問わず使える形にしておくのが無難です。

判断に迷うときは、労働局や社会保険労務士に相談してください。

小さな会社でもできる福利厚生はありますか?

あります。時間単位の休暇や時差出勤など、働き方の柔軟さを高める制度は、大きな費用をかけずに始められます。

外部のサービスを使う場合も、費用の一部を補助する形にするなど、負担を抑える方法があります。

福利厚生のニーズは、どのように聞けばよいですか?

無記名のアンケートで、困っていることと使いたい制度を聞く方法が一般的です。選択肢だけでなく、自由に書ける欄も設けておくと、思いがけないニーズが分かることがあります。

集計の結果は、従業員にも共有すると、制度づくりへの関心が高まります。

導入した福利厚生が使われません。どうすればよいですか?

まず、制度が知られているか、使い方が分かりにくくないかを確かめます。案内を見直すだけで、利用が増えることもあります。

それでも使われない場合は、従業員の声を改めて聞き、制度の内容を見直すか、ほかの制度に切り替えることを検討します。

参考資料