社員が増えてくると、「誰に聞けばよいか分からない」「指示が人によって違う」といった声が出てきます。小さな会社では組織図がなくても回ってきたものの、人数が増えたり採用を始めたりするタイミングで、作る必要を感じる経営者は多くあります。
この記事では、中小企業が組織図を作るときの手順を、組織の型の選び方、作り方の5つの手順、小さな会社ならではの注意点に分けて整理します。人数に応じて法令で置くことが求められる役割や、組織図を経営に生かす方法もまとめました。
中小企業に組織図が必要な理由
組織図は、会社の部署や役職、指示と報告の流れを1枚の図で示したものです。大企業だけのものと思われがちですが、中小企業でこそ役立つ場面があります。
- 指示と報告の流れがはっきりする:誰の指示で動き、誰に報告するかが分かり、指示の食い違いが減る
- 役割の重なりと抜けが見える:同じ仕事を複数の人がしている、誰も担当していない仕事がある、といった状態に気づける
- 新しい社員がなじみやすい:誰に何を聞けばよいかが分かり、立ち上がりが早くなる
- 採用の説明に使える:入社後にどの部署で誰と働くかを、応募者に具体的に説明できる
- 引き継ぎがしやすい:休職や退職のときに、仕事の受け手を決めやすくなる
特に、社長がすべての判断を抱えている会社では、組織図を作る過程そのものが、仕事を任せる範囲を考えるきっかけになります。
組織図の主な型と、中小企業での選び方
組織図には、いくつかの型があります。会社の事業の数や人数によって、合う型が変わります。

| 型 | 特徴 | 向いている会社 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 機能別 | 営業、製造、総務など、仕事の機能ごとに部署を分ける | 事業が1つで、専門性を高めたい会社 | 部署の間の連携が弱くなりやすい |
| 事業別 | 商品やサービス、地域ごとに部署を分ける | 複数の事業を持つ会社 | 同じ機能の仕事が部署ごとに重なりやすい |
| フラット型 | 階層を少なくし、社長の下に担当者が並ぶ | 人数が少なく、判断を速くしたい会社 | 社長の負担が大きく、人数が増えると回らなくなる |
多くの中小企業では、機能別の組織から始めるのが分かりやすい方法です。人数が少ないうちはフラット型でも回りますが、社長に直接報告する人数が増えすぎたら、間にまとめ役を置くことを考えます。
組織図の作り方:5つの手順
組織図は、今ある部署名を並べるだけでは役に立ちません。仕事と役割を整理したうえで図にします。次の5つの手順で進めます。

手順1:目的と使う相手を決める
社内で指示と報告の流れを確かめるためのものか、採用や取引先への説明に使うものかを決めます。社内向けなら担当者の名前まで入れ、社外向けなら部署と役職までにとどめる、といったように、載せる内容が変わります。
手順2:今の仕事を洗い出す
部署名から考えるのではなく、会社にある仕事を書き出します。受注、製造、請求、採用、給与計算、問い合わせ対応など、細かく出しておくと、担当の抜けや重なりに気づけます。
手順3:仕事をまとまりに分け、責任者を決める
洗い出した仕事を、近いものどうしでまとめて部署やチームにします。それぞれのまとまりに、責任者を1人決めます。責任者の名前より先に、何を判断し、何に責任を持つ役割なのかを決めることが大切です。
手順4:指示と報告の流れを線でつなぐ
誰が誰に指示し、誰が誰に報告するかを線で示します。1人の社員に指示する人が複数いる状態は、なるべく避けます。兼務がある場合は、どちらの仕事を優先するかも決めておきます。
手順5:社内に説明し、更新のルールを決める
完成した組織図は、社員に説明してから使い始めます。人事異動や入退社があったときに、誰がいつ更新するかも決めておきます。古い組織図が残っていると、かえって混乱のもとになります。
組織図に載せる項目は、使う相手によって変えます。目安は次のとおりです。
| 項目 | 社内向け | 社外向け |
|---|---|---|
| 部署・チーム名 | 載せる | 載せる |
| 役職と責任者 | 載せる | 役職まで載せる |
| 担当者の名前 | 載せる | 載せないことが多い |
| 兼務の関係 | 載せる | 載せないことが多い |
| 相談窓口などの担当 | 載せる | 必要に応じて |
| 連絡先 | 内線など必要なものだけ | 代表の連絡先のみ |
社員の名前や写真を載せる場合は、社内で見られる範囲を決め、社外に出す資料と分けて管理します。
作るときの道具は、表計算ソフトやプレゼンテーションソフトの図形機能で十分です。大切なのは見た目より、役割と線が正しく、最新であることです。
組織図に入れておきたい、法令上の役割
組織図を作るときは、法令で置くことが求められている役割も確認しておくと安心です。人数によって必要な役割が変わるため、会社の成長に合わせて見直します。

安全衛生の担当者
労働安全衛生法は、事業場の規模に応じて、安全衛生の担当者を選任することを求めています(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」)。規模の基準は、規則で次のように定められています。
法第十二条の二の厚生労働省令で定める規模の事業場は、常時十人以上五十人未満の労働者を使用する事業場とする。
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
この規模の事業場では、業種に応じて安全衛生推進者または衛生推進者を選任します(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」)。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、衛生管理者と産業医の選任が必要です(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」)。衛生管理者には衛生に係る技術的事項を管理させ、産業医には労働者の健康管理などを行わせることが定められています(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」)。いずれも会社全体ではなく、事業場ごとの人数で判断する点に注意してください。
就業規則の作成と届出
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。就業規則には、組織や職務の定めを置く会社も多く、組織図と内容をそろえておくと、社員にとって分かりやすくなります。
ハラスメントの相談窓口
令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策は全ての事業主の義務になりました(出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。国の指針は、事業主が講ずべき措置として、次の内容を挙げています。
相談への対応のための窓口(以下「相談窓口」という。)をあらかじめ定め、労働者に周知すること。
出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」
相談窓口の担当者を組織図に書いておくと、社員が困ったときに誰に相談すればよいかがすぐに分かります(出典:厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)。窓口は、社内の担当者だけでなく、外部に委託する方法もあります。
公益通報への対応
公益通報者保護法は、公益通報に対応する業務の担当者を定めることや、通報に対応する体制を整えることを事業者に求めています(出典:e-Gov法令検索「公益通報者保護法」)。ただし、規模の小さな事業者については、次のように定めています。
常時使用する労働者の数が三百人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
出典:e-Gov法令検索「公益通報者保護法」
300人以下の会社では努力義務ですが、通報や相談を受ける人をあらかじめ決めておくと、問題が起きたときに慌てずに済みます。
人数が増えたときの見直しの目安
法令上の役割は、人数の節目で増えていきます。常時10人以上になると就業規則の作成と届出が必要になり(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)、事業場の人数が常時50人以上になると衛生管理者と産業医の選任が必要になります(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」)。こうした節目は、組織図を見直すよい機会です。採用の計画を立てるときに、次の節目までに誰を担当にするかを決めておくと、慌てずに準備できます。
小さな会社ならではの注意点
中小企業の組織図には、大企業とは違う悩みがあります。次の点に注意すると、実態に合った組織図になります。
兼務は隠さずに書く
1人が複数の役割を持つのは、小さな会社では当たり前です。兼務を書かずに部署だけを並べると、実態と合わない図になります。兼務している役割は、すべて書き出したうえで、それぞれの仕事に使う時間の目安も話し合っておきます。
社長に線が集まりすぎていないか確かめる
図にしてみると、ほとんどの線が社長につながっていることがあります。社長が判断しなくてよいことは、責任者に任せる範囲を決めます。組織図とあわせて、誰がどこまで決めてよいかをまとめた一覧を作ると、任せる範囲がはっきりします。
人に合わせて組織を作りすぎない
今いる社員の得意分野に合わせて部署を作ると、その人が辞めたときに組織が回らなくなります。まず必要な役割を決め、そこに人を当てはめる順番で考えます。
仕事の見える化とセットで進める
役割を決めても、仕事の中身が担当者の頭の中にしかないと、引き継ぎや応援ができません。中小企業白書は、複数の業務を担える人材を育てる取組として、従業員のスキルの見える化や、業務マニュアルの作成・整備などを示しています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2部第3章第2節 人材活用の取組)。組織図と業務の手順書をあわせて整えると、休みや退職があっても仕事を回しやすくなります。
組織図とあわせて作りたい資料
組織図だけでは、線の意味までは伝わりません。次の2つの資料をあわせて作ると、組織図が実際の仕事で使えるものになります。
- 役割の一覧:部署や役職ごとに、担当する仕事と責任を短く書いたもの
- 決める範囲の一覧:金額や内容に応じて、誰がどこまで決めてよいかをまとめたもの
どちらも、最初から細かく作る必要はありません。迷いやすい判断や、よく社長に確認が来る事項から書き始め、使いながら足していきます。
組織図を経営に生かすために
組織図は、作って終わりではありません。経営の方針や採用、評価とつなげて使うと、効果が高まります。
- 採用の計画に使う:組織図の空いている役割や、兼務の多い役割から、次に採用する人を考える
- 評価の基準とつなげる:役割ごとに期待することを決め、評価の基準にする
- 育成の計画に使う:次の責任者の候補を決め、必要な経験を積ませる
- 方針の共有に使う:経営の方針を、どの部署が何で実現するかを組織図の上で説明する
社員の声を聞くことも欠かせません。白書の事例では、定期的に全社員から会社への要望などを聞き取り、意思の疎通を図ることで、社員の離職を防いでいる取組が紹介されています(出典:中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2部第3章第2節 人材活用の取組)。組織図を見直すときに、社員から「困っていること」「分かりにくいこと」を集めると、実態に合った見直しができます。
外部の支援を使うかどうかの判断と費用
自社で作れるケース
社員が数十人までで、事業が1つの会社なら、この記事の手順で自社でも組織図を作れます。経営者と各部署の責任者が集まり、仕事の洗い出しから始めてみてください。最初の版は完璧でなくてかまいません。使いながら、分かりにくいところや実態と合わないところを直していくほうが、社員にとって役に立つ組織図になります。
外部の支援を考えたいケース
次のような場合は、組織図だけでなく、経営と組織をまとめて見直したほうがよいことがあります。
- 組織図を作ろうとしても、役割や責任の分け方で経営陣の意見がまとまらない
- 組織を変えるのに合わせて、評価の基準や採用の計画も作り直す必要がある
- 社内に、組織の見直しを進められる担当者がいない
外部の支援には、組織の見直しだけを扱うものから、経営戦略、採用、育成までまとめて扱うものまであります。例えば、魅力ある会社づくりを支援する、経営・組織の総合パッケージのように、経営戦略、組織づくり、採用、人材育成をまとめて見直すものもあります。
費用の考え方
外部の支援の費用は、扱う範囲、会社の規模、支援の期間や頻度によって変わります。比べるときは、どこまでを支援の範囲に含むか、社内で用意する人員や時間がどのくらいかをそろえて確かめます。組織図の作成だけが目的なら、外部に頼まず自社で作るほうが合うこともあります。
あわせて読みたい
ツナグバで、経営・組織づくりのサービスを比べる
ツナグバは、法人向けサービスを無料で探し、複数のサービスの資料をまとめて請求できるサイトです。
人材育成・研修の分野では、経営戦略、組織づくり、採用、人材育成をまとめて見直し、社員が働きたくなる会社づくりを支援するパッケージを掲載しています。経営と組織を一体で見直したい会社の選択肢になります。
今の組織図や、困っていることを整理したうえで、資料で支援の範囲を確かめてください。
こんな課題があれば
- 経営方針はあるが、社員に伝わらず現場の動きとずれている
- 採用・育成・評価がばらばらに進み、全体のつながりが見えない
- 社員の定着が悪く、何から手をつければよいか分からない
掲載サービスでできること
- 経営と組織をまとめて見直せる:戦略、組織、採用、育成を別々に考えず、一つの流れとして整理します。施策同士の食い違いを減らしやすくなります。
- 社員の声をもとに課題を整理する:アンケートや面談で社員の考えを集め、会社の課題を見える形にします。経営者の思い込みに頼らずに進められます。
- 必要な部分から順に取り組める:すべてを一度に変えるのではなく、優先順位をつけて進めるものが一般的です。進め方は製品によって違うため、資料で確認してください。
資料で確かめたいこと
- 支援の範囲(戦略、組織、採用、育成のどこまでを扱うか)
- 費用の内訳と、追加の施策にかかる費用
- 支援する担当者の経験や、関わる頻度
- 社内で用意する人員や時間の目安
- 契約期間と、途中で範囲を変えられるか
よくある質問
社員が10人未満でも、組織図は必要ですか?
必須ではありませんが、役割と報告の流れを確かめるために作る価値はあります。少人数のうちに作っておくと、人数が増えたときに見直す土台になります。
組織図には、社員の名前を入れるべきですか?
社内向けなら、名前を入れると誰に聞けばよいかが分かりやすくなります。社外に公開する場合は、部署と役職までにとどめるのが一般的です。
組織図は、どのくらいの頻度で見直せばよいですか?
人事異動や入退社があったときに更新し、年に1回は全体を見直すのがおすすめです。事業や人数が大きく変わったときは、型そのものが合っているかも確かめます。
兼務が多くて、組織図がうまく描けません。
兼務の役割をすべて書き出し、まず役割ごとの図を作ってから、そこに人の名前を当てはめます。同じ人の名前が複数の場所に出てきても問題ありません。
組織図を社外に公開してもよいですか?
問題ありません。会社案内や採用ページで公開すると、取引先や応募者に会社の体制を伝えられます。公開する場合は、部署と役職までにとどめ、社員の個人的な情報は載せないようにします。
参考資料
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(第12条・第12条の2・第13条)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」(第12条の2)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法施行令」(第4条・第5条)
- e-Gov法令検索「労働基準法」(第89条)
- 厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」
- 厚生労働省「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和8年厚生労働省告示第51号)
- e-Gov法令検索「公益通報者保護法」(第11条)
- 中小企業庁「2026年版 中小企業白書」第2部第3章第2節 人材活用の取組(2026年4月24日閣議決定)
