ビルの管理業務は、設備の点検、清掃、修繕の手配、テナントや入居者からの問い合わせ対応など、幅広い仕事が重なり合っています。
点検の記録が紙やファイルに散らばり、報告書づくりや引き継ぎに時間がかかっている現場も少なくありません。
一方で、ビル管理には法律で決められた点検や記録が多く、手順を省けばよいという話ではありません。
この記事では、ビル管理の業務を整理したうえで、法律で求められる点検・記録を押さえながら効率化を進める方法を解説します。効率化の進め方の手順、ツールを選ぶときの判断基準、効率化を急がなくてよいケースもまとめています。
ビル管理の業務とは
ビル管理とは、建物の所有者や管理組合などから任されて、建物と設備を安全で快適な状態に保つ仕事です。
仕事の範囲は広く、大きく分けると次の4つの領域があります。
| 領域 | 主な業務 | 記録・書類の例 |
|---|---|---|
| 設備管理 | 電気・空調・給排水・昇降機・消防設備の運転と点検 | 点検記録、測定記録、不具合の記録 |
| 環境衛生管理 | 空気環境の測定、給水・排水の管理、清掃、ねずみ等の防除 | 測定結果、清掃記録、防除の記録 |
| 修繕・工事の管理 | 不具合の修理、計画的な修繕、工事業者の手配 | 見積書、作業報告書、写真 |
| 入居者・テナント対応 | 問い合わせ、要望、クレーム、入退去の手続き | 問い合わせ履歴、対応記録 |
建物の規模や用途によって、どこまでを自社で行い、どこからを専門の会社に任せるかは変わります。
ただ、どの領域でも「点検する」「記録する」「報告する」「対応を手配する」という流れは共通しています。効率化の対象は、この流れの中の手間です。
ビル管理で手間が増えやすい場面
現場でよく聞かれるのは、次のような悩みです。
- 点検の結果を紙に書き、事務所に戻ってから表計算ソフトに打ち直している
- 同じ建物の情報が、担当者ごとのファイルやメールに分かれている
- 不具合の写真を撮っても、どの点検のものか後から探しにくい
- 入居者からの問い合わせを電話で受け、対応の経過が共有されていない
- オーナーへの月次報告書を、毎月一から作り直している
どれも一つひとつは小さな手間ですが、管理する建物の数が増えるほど積み重なります。
ビル管理で法律が求める点検と記録
効率化を考える前に、法律で決められている点検と記録を確認しておくことが大切です。
ここを外すと、手間を減らしたつもりで、必要な記録が残らなくなるおそれがあります。

主な法律と、点検・記録に関する決まりを整理すると次のとおりです。
建築物衛生法(ビル管理法)
多くの人が使う一定規模以上の建物は、建築物衛生法で「特定建築物」とされます。
この法律の目的は、多数の者が使用・利用する建物の維持管理について環境衛生上必要な事項を定め、衛生的な環境を確保することにあります(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」)。
店舗や事務所などの用途に使う部分の延べ面積が3,000平方メートル以上の建物、学校の用途に使う建物で延べ面積が8,000平方メートル以上のものなどが、特定建築物にあたります(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」)。
特定建築物の所有者などは、空気環境の調整、給水・排水の管理、清掃、ねずみ等の防除といった「建築物環境衛生管理基準」に従って維持管理をしなければなりません(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」)。
たとえば浮遊粉じんの量の測定は、2か月以内ごとに1回行うこととされています(出典:厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」)。
また、特定建築物の所有者などは、建築物環境衛生管理技術者を選任し、維持管理を監督させる必要があります(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」)。
記録については、法律で帳簿書類を備えることが定められています。
特定建築物所有者等は、厚生労働省令の定めるところにより、当該特定建築物の維持管理に関し環境衛生上必要な事項を記載した帳簿書類を備えておかなければならない。
出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」第十条
この条文を受けて、施行規則では、空気環境・給排水・清掃・防除の状況を記載した帳簿書類や、建物の平面図・設備の系統図などを備えることを求めています。そのうち、維持管理の状況を記載した帳簿書類は5年間保存しなければなりません(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」)。
つまり、測定や点検の結果は「やったら終わり」ではなく、後から確認できる形で残しておく必要があります。記録をデジタルで管理するときも、5年分を検索・出力できるかが確認のポイントになります。
建築基準法の定期調査・検査
建築基準法第12条では、政令で定める建築物や特定行政庁が指定する建築物について、所有者(管理者が別の場合は管理者)が、一級建築士・二級建築士や資格を持つ調査員・検査員に定期に調査や検査をさせ、その結果を特定行政庁に報告することが定められています(出典:e-Gov法令検索「建築基準法」)。
対象になる建物や設備、報告の時期は、建物の用途や地域の特定行政庁の指定によって変わります。管理している建物ごとに、対象かどうかと次回の報告時期を一覧にしておくと、漏れを防げます。
消防法の点検と報告
消防法では、防火対象物の関係者が、消防用設備等を定期に点検し、その結果を消防長または消防署長に報告することが定められています(出典:e-Gov法令検索「消防法」)。
報告の頻度は、施行規則で防火対象物の区分ごとに決められています。百貨店や飲食店など不特定多数の人が出入りする用途の多くは1年に1回、事務所や共同住宅などは3年に1回です(出典:e-Gov法令検索「消防法施行規則」)。
点検の結果は維持台帳に記録することも求められています(出典:e-Gov法令検索「消防法施行規則」)。
このように、ビル管理では法律ごとに点検の周期、点検できる資格者、記録の残し方が異なります。効率化の第一歩は、こうした決まりを建物ごとに一覧にし、期限と担当を見える形にすることです。
ビル管理の業務効率化が求められる理由
ビル管理の効率化は、単に作業を早くするためだけの話ではありません。背景には、担い手の確保と、記録の質の両方の課題があります。
資格を持つ担い手の確保が難しくなっている
ビル管理では、電気設備の保安を担う電気主任技術者など、資格を持つ人材が欠かせません。
経済産業省の電気保安人材・技術ワーキンググループに提出された資料では、第三種電気主任技術者について、保安法人では2020年頃から不足する可能性があるとする見通しが紹介されています(出典:経済産業省 電気保安人材・技術WG(第2回)資料1-2)。
資格を持つ人の時間を、報告書の清書や記録の転記ではなく、点検や判断そのものに使えるようにすることが、効率化の大きな目的になります。
規制の見直しで、デジタルの手段を使える場面が増えている
国は、目視や常駐、書面での掲示などを求める「アナログ規制」の見直しを進めています。デジタル庁は、デジタル原則のもとで、アナログ規制の一掃に向けた取り組みを進めていると説明しています(出典:デジタル庁「アナログ規制見直しの取組」)。
ただし、見直しの内容や時期は法令ごとに異なります。点検の方法を変えるときは、所管の行政機関や点検を担う資格者に、現行の基準で認められる方法かを確認してください。
記録の質が、建物の価値と信頼につながる
点検や修繕の記録がそろっていると、オーナーへの説明や、次の修繕計画づくりがしやすくなります。
反対に、記録が担当者の手元に分散していると、担当者が替わったときに経過が分からなくなります。効率化は、記録を「探せる」「引き継げる」状態にする取り組みでもあります。
ビル管理の業務を効率化する方法
ここからは、効率化の具体的な方法を、手間がかかっている場面ごとに紹介します。
点検の記録をその場で入力する
紙の点検表をタブレットやスマートフォンの入力画面に置き換えると、事務所に戻ってからの転記がなくなります。
数値の入力欄に基準値を設定しておけば、基準から外れた値に気づきやすくなります。写真をその場で点検項目にひもづけて残せると、後から探す手間も減ります。
建物ごとの情報を一か所にまとめる
図面、設備の台帳、点検の履歴、修繕の履歴、業者の連絡先などを、建物ごとにまとめて管理します。
担当者が替わっても同じ場所を見れば経過が分かる状態にしておくと、引き継ぎの時間を短くできます。
法定点検の期限を一覧で管理する
建物ごと・法律ごとの点検と報告の期限を一覧にし、期限が近づいたら担当者に知らせる仕組みを作ります。
表計算ソフトでも始められますが、管理する建物が増えると、更新の漏れが起きやすくなります。
不具合と修繕の流れを一本化する
点検で見つかった不具合を、見積もり、修繕の手配、完了の確認まで同じ記録の上で追えるようにします。
どの不具合が対応待ちなのかが一目で分かると、オーナーへの報告もしやすくなります。
入居者・テナント対応の履歴を共有する
問い合わせや要望を受けたら、内容と対応の経過を記録し、関係者で共有します。
同じ問い合わせが繰り返し来ている場合は、設備の不具合や案内の不足が原因かもしれません。履歴を見返せると、根本的な対策につなげられます。
なお、入居者の氏名や連絡先などを扱う場合は、個人情報の管理にも注意が必要です。
個人情報取扱事業者は、その取り扱う個人データの漏えい、滅失又は毀損の防止その他の個人データの安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
出典:e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第二十三条
クラウドで情報を共有する場合も、誰がどの情報を見られるかという権限の設定や、退職者のアカウントの停止などを決めておくことが、この安全管理の一部になります。
報告書づくりを定型化する
オーナーへの月次報告書は、点検の結果、不具合と修繕の状況、問い合わせの件数などを、決まった様式にまとめることが多い書類です。
日々の記録をデジタルで残しておけば、報告書は記録から集計して作れるようになります。毎月一から作る必要がなくなり、確認の時間に充てられます。
ビル管理の効率化を進める4ステップ
効率化は、ツールを選ぶところから始めるとうまくいかないことがあります。次の順番で進めると、自社に合った方法を選びやすくなります。

- 業務を書き出す:1か月の業務を、点検・記録・報告・手配・問い合わせ対応に分けて書き出し、かかっている時間の目安をつかむ
- 法定の決まりを一覧にする:建物ごとに、対象となる法定点検、周期、資格者、記録の保存期間を整理する
- 手間の大きい業務から小さく試す:転記や報告書づくりなど、時間がかかっている業務を一つ選び、1〜2棟で試す
- 運用のルールを決めて広げる:入力の項目、写真の撮り方、権限、記録の保存のルールを決めてから、ほかの建物に広げる
特に2つ目のステップは省かないでください。法定の点検や記録の要件を先に整理しておくと、ツールを選ぶときに「この記録は5年分残せるか」「この様式で出力できるか」といった確認ができます。
自社で整理できるのは、1つ目と2つ目のステップです。ここまでを社内で行ってから、ツールや外部の支援を比べると、必要な機能がはっきりします。
ビル管理の効率化ツールを選ぶときの判断基準
ビル管理に使えるツールには、点検の記録に特化したもの、建物の管理業務をまとめて扱うもの、入居者対応に特化したものなどがあります。
建物の点検や修繕、入居者対応などの管理業務を、クラウドでまとめて管理できるサービスもあります。ビル・マンションの管理業務をクラウドでまとめて管理できるサービスの詳細は、ツナグバで確認できます。
選ぶときは、次の点を確認してください。
| 確認する点 | 確認の内容 |
|---|---|
| 対象の業務 | 点検・修繕・入居者対応のどこまでを扱えるか |
| 記録の残し方 | 写真や測定値を点検項目にひもづけて残せるか。必要な期間、検索・出力できるか |
| 帳票の出力 | 自社やオーナー向けの報告書の様式で出力できるか |
| 現場での使いやすさ | スマートフォンやタブレットで、手袋をしたままでも入力しやすいか |
| 権限の設定 | 協力会社やオーナーに見せる範囲を分けられるか |
| 費用の考え方 | 建物数、利用人数、機能によって料金がどう変わるか |
| 移行のしやすさ | 既存の点検表や台帳を取り込めるか。やめるときにデータを書き出せるか |
費用は、管理する建物の数、利用する人数、使う機能の範囲によって変わることが多いため、一律の相場で比べるのは難しいのが実情です。自社の建物数と利用人数を決めたうえで、複数のサービスから見積もりを取り、初期費用と月々の費用を分けて比べてください。
比べるときは、ツールの費用だけでなく、転記や報告書づくりに今かかっている時間がどれだけ減るかも合わせて考えます。
ビル管理の効率化を急がなくてよいケース
すべての会社が、すぐにツールを入れるべきというわけではありません。
次のような場合は、まず今の運用を整えることを優先したほうがよいことがあります。
- 管理している建物が少なく、担当者も少ないため、今の方法で記録や期限の管理が回っている
- 点検の項目や様式が建物ごとにばらばらで、まだ統一できていない
- 現場の担当者がスマートフォンやタブレットでの入力に慣れておらず、教える時間が取れない
- オーナーや協力会社が紙の報告書を求めていて、すぐには変えられない
こうした場合は、まず点検表の様式をそろえる、期限の一覧を作る、写真の保存場所を決めるといった、社内でできることから始めるのが現実的です。そのうえで、管理する建物が増えたときにツールを検討すると、移行もしやすくなります。
ビル管理の効率化 導入前のチェックリスト
最後に、効率化を始める前に確認しておきたい点をまとめます。

- 1か月の業務と、かかっている時間の目安を書き出した
- 建物ごとの法定点検の種類、周期、資格者を一覧にした
- 記録の保存期間(建築物衛生法の帳簿書類は5年間など)を確認した
- 最初に効率化する業務を一つに絞った
- 試す建物と期間、効果を確かめる方法を決めた
- 入居者の個人情報を扱う場合の権限と管理のルールを決めた
- オーナーや協力会社に、報告の方法が変わることを説明する準備をした
- ツールをやめるときに、データを書き出せるかを確認した
あわせて読みたい
ツナグバで、ビル管理の効率化サービスを比べる
ツナグバは、法人向けサービスを無料で探し、複数のサービスの資料をまとめて請求できるサイトです。
ITツール・SaaSの分野では、建物の点検や修繕、入居者対応などの管理業務を、クラウドでまとめて管理できるサービスを掲載しています。ビル・マンションを管理する企業に向けたサービスで、全国で利用できます。
扱える業務の範囲や料金は、資料で確認できます。
今の業務と法定の点検・記録の要件を整理したうえで、自社に合うかを資料で確かめてから検討してください。
こんな課題があれば
- 点検や修繕の記録が紙や表計算ファイルに分かれ、必要なときに探せない
- 入居者からの問い合わせ対応の経緯が、担当者にしか分からない
- 複数の建物を管理していて、点検の予定や期限の漏れが心配になっている
掲載サービスでできること
- 建物ごとの情報をまとめて管理できる:点検の記録、修繕の履歴、設備の情報などを建物ごとに一か所にまとめられます。担当が変わっても、過去の経緯を確認できます。
- 点検や修繕の予定を共有できる:点検の予定や修繕の進み具合を、関係者で同じ画面から確認できます。予定の通知などの機能は製品によって違うため、資料で確認してください。
- 入居者対応の記録を残せる:問い合わせの内容と対応の状況を記録できます。誰がどこまで対応したかが分かるので、引き継ぎがしやすくなります。
資料で確かめたいこと
- 管理している建物の種類や数に合った料金体系か
- いまの紙や表計算ファイルのデータを移せるか
- 現場の担当者がスマートフォンやタブレットで使えるか
- 会計や入居者管理など、ほかのシステムと連携できるか
- 導入時の設定やデータ移行を手伝ってもらえるか
よくある質問
ビル管理の効率化は、何から始めればよいですか?
まず1か月の業務を書き出し、どこに時間がかかっているかを把握してください。
あわせて、建物ごとの法定点検と記録の決まりを一覧にします。そのうえで、転記や報告書づくりなど手間の大きい業務を一つ選び、1〜2棟で試すと進めやすくなります。
点検の記録は、紙ではなくデジタルで残してもよいですか?
建築物衛生法の施行規則では、帳簿書類を備えて一定期間保存することが求められています(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」)。
デジタルで残す場合も、必要な事項が記載され、保存期間のあいだ確認できる状態にしておくことが前提です。報告の様式や提出方法は法律や自治体によって異なるため、所管の行政機関に確認してください。
小規模な建物だけを管理していても、ツールは必要ですか?
建物や担当者が少なく、今の方法で記録と期限の管理が回っているなら、急いで導入する必要はありません。
点検表の様式をそろえる、期限の一覧を作るといった、社内でできる整理から始めてください。
ツールの費用はどのくらいかかりますか?
建物の数、利用人数、使う機能によって変わるため、一律の金額は示せません。
複数のサービスから、自社の条件で見積もりを取って比べてください。初期費用と月々の費用、データ移行の費用を分けて確認すると比べやすくなります。
参考資料
- e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律」(昭和45年法律第20号)
- e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」
- e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」
- 厚生労働省「建築物環境衛生管理基準について」
- e-Gov法令検索「建築基準法」(昭和25年法律第201号)
- e-Gov法令検索「消防法」(昭和23年法律第186号)
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」
- デジタル庁「アナログ規制見直しの取組」
- 経済産業省 電気保安人材・技術ワーキンググループ(第2回)資料1-2「電気保安・電気工事業界の認知度向上・入職促進に向けた協議会」の活動について(2019年10月16日)
