海外の取引先に送る資料や、Webサイトの外国語ページを用意する会社が増えています。AI翻訳で訳文を作る機会も増えましたが、その訳文が正しいかどうかを誰が、どのように確かめるかは、会社によってまちまちです。
この記事では、翻訳の品質チェック方法を、確認する観点、作業の手順、逆翻訳の使い方、AI翻訳の訳文を確かめるときの注意点に分けて整理します。社内で確認できる範囲と、外部の翻訳者に頼む判断の基準、費用の考え方もまとめました。
翻訳の品質チェックとは、何を確かめる作業か
翻訳の品質チェックは、訳文が原文の意味を正しく伝えているか、読み手にとって読みやすいかを確かめる作業です。誤字を探すだけの作業ではありません。用途と読み手に合った訳文になっているかまで含めて確かめます。
翻訳サービスの国際規格であるISO 17100は、品質のよい翻訳サービスを提供するために必要な中心的な工程や、人・設備などの資源について要求事項を定めています(出典:ISO「ISO 17100:2015 Translation services — Requirements for translation services」)。品質は翻訳者一人の力量だけで決まるものではなく、工程と体制で支えるものだという考え方です。
機械翻訳の訳文を人が直す作業についても、別の国際規格があります。ISO 18587は、機械翻訳の出力を人が全面的に修正する「フルポストエディット」の工程と、その作業者に求める能力について要求事項を定めています(出典:ISO「ISO 18587:2017 Translation services — Post-editing of machine translation output — Requirements」)。AI翻訳の訳文を確かめる作業も、こうした考え方の延長で整理できます。
国内では、翻訳の業界団体である一般社団法人日本翻訳連盟が、翻訳の品質を評価するための「翻訳品質評価ガイドライン」を公開しています(出典:一般社団法人日本翻訳連盟「翻訳品質(スタイルガイド)」)。社内で確認の基準を作るときの参考になります。
品質チェックで見る7つの観点
翻訳の確認は、観点を決めずに読むと、気になったところだけを直して終わりがちです。先に観点を決めておくと、確認する人が変わっても同じ水準で見られます。

主な観点を表にまとめます。すべてを同じ重さで見る必要はなく、書類の用途に合わせて重点を決めます。
| 観点 | 確かめること | 見落としやすい例 |
|---|---|---|
| 意味の正確さ | 原文の意味が変わっていないか | 否定と肯定の取り違え、条件の範囲の誤り |
| 訳抜け・追加 | 語句や文が抜けていないか、原文にない内容を足していないか | 表の中の文字、注記、箇条書の1項目 |
| 数字・固有名詞 | 数値、単位、日付、社名・製品名が原文どおりか | 桁区切り、日付の並び順、通貨の単位 |
| 用語の統一 | 同じ語を同じ訳語で訳しているか | 章ごとに訳語が変わる、用語集と違う訳語 |
| 表記のルール | 表記、記号、書式がルールに沿っているか | 全角と半角の混在、敬体と常体の混在 |
| 読みやすさ | 訳文だけを読んで意味が通るか | 直訳で長くなった文、主語が分からない文 |
| 目的への適合 | 読み手と用途に合った文体か | 社外向けの文書がくだけすぎている |
特に見落としやすいのが、数字と訳抜けです。本文はよく読んでも、表の中の文字や注記、画像の中の文字は確認から漏れやすくなります。確認の対象に何が含まれるかを、最初に書き出しておくと安心です。
品質チェックの進め方
品質チェックは、訳文を読む前の準備で結果が変わります。目的と基準がそろっていないと、確認する人の好みで直すことになり、直しが増えるばかりで品質は安定しません。

手順1:目的と読み手を決める
まず、訳文を何に使い、誰が読むのかを決めます。社内で内容をつかむためのものか、取引先に送るものか、Webサイトで公開するものかで、求める水準は変わります。読み手が専門家か一般の消費者かによっても、適した言葉づかいが違います。
手順2:用語集とスタイルガイドを用意する
社名、製品名、業界の専門用語など、決まった訳語を使いたい言葉は用語集にまとめます。表記のルールも決めておきます。日本翻訳連盟は、実務翻訳で日本語に訳すときの表記のルールを「JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用)」として公開しており、表記のゆらぎを防いで統一するためのガイドラインと位置づけています(出典:一般社団法人日本翻訳連盟「スタイルガイド」)。自社のルールを一から作るのが難しい場合の土台になります。
手順3:原文と訳文を突き合わせる
原文と訳文を1文ずつ並べて確かめます。意味の正確さ、訳抜け、数字と固有名詞を中心に見ます。原文を読める人が担当する作業で、品質チェックの中心になります。文書が長い場合は、重要な箇所から順に確認するか、担当を分けて進めます。
手順4:訳文だけを通読する
突き合わせが終わったら、原文を見ずに訳文だけを読みます。原文を見ながらだと、意味が通らない訳文でも頭の中で補ってしまうためです。日本語の訳文であれば、文の長さや主語と述語の関係を確かめます。文化審議会の建議は、読み手に伝わる文を書くための工夫として次の点を挙げています。
ア 一文を短くする。イ 一文の論点は、一つにする。ウ 三つ以上の情報を並べるときには、箇条書を利用する。
出典:文化庁「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」(令和4年1月7日)
公用文のための考え方ですが、社外に出す訳文の読みやすさを確かめる物差しとしても使えます。同じ建議は、主語と述語の関係が分かるようにすることも挙げています(出典:文化庁「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」)。直訳で長くなった文は、意味を変えない範囲で2文に分けると読みやすくなります。
手順5:直した点を記録し、次に生かす
見つけた誤りと直し方は記録します。同じ誤りが何度も出る場合は、用語集やルールに戻して、次の翻訳で起きないようにします。記録が残っていると、翻訳を外部に頼むときにも、自社が求める水準を具体的に伝えられます。
逆翻訳(バックトランスレーション)の使い方と限界
逆翻訳は、訳文を元の言語に訳し戻し、原文と見比べて意味のずれを探す方法です。訳文の言語を読める人が社内にいないときでも、大きな意味の取り違えに気づくきっかけになります。
ただし、逆翻訳で原文とほぼ同じ文に戻っても、訳文が正しいとは限りません。訳文の言葉づかいが不自然でも、訳し戻すと原文に近い文になることがあるためです。反対に、訳文に問題がなくても、訳し戻した文が原文と違って見えることもあります。
そのため、逆翻訳は「明らかな誤りを見つける補助」として使い、それだけで品質を判断しないことが大切です。契約書や安全に関わる文書など、誤りの影響が大きい書類では、訳文の言語を読める人の確認を別に用意します。
AI翻訳の訳文をチェックするときの注意点
AI翻訳の精度は大きく上がっています。総務省は、国の計画に基づく取組の成果を次のようにまとめています。
「グローバルコミュニケーション計画」に基づく取組により、AI技術も導入し、翻訳精度を向上(12言語で実用レベルを達成)
出典:総務省「グローバルコミュニケーション計画2025」
総務省と国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)が2014年以降に翻訳精度の向上と対応言語の拡大に取り組み、行政手続、医療、交通、観光などの分野で翻訳サービスが実用化されていることも示されています(出典:総務省「「グローバルコミュニケーション計画2025」の公表」(令和2年3月31日))。一方で同じ計画は、文脈や話者の意図、文化的背景などを補う技術を、これからの課題として挙げています(出典:総務省「グローバルコミュニケーション計画2025」)。
計画は、2025年に向けてAIによる同時通訳を実現し、ビジネスや国際会議での議論や交渉の場面にも対応できるよう技術を高めることを目標に掲げていました(出典:総務省「「グローバルコミュニケーション計画2025」の公表」)。
実用レベルの精度があることと、自社の書類にそのまま使えることは別の話です。AI翻訳の訳文を確かめるときは、次の点に注意します。
- 文脈に頼る表現:省略された主語、代名詞が指すもの、前の章を受けた表現
- 自社だけの用語:社内の呼び名、製品名、略語
- 数字と条件:金額、期限、数量、「以上」「未満」などの範囲
- 文体のばらつき:同じ文書の中で敬体と常体、訳語が混ざる
AI翻訳の訳文は一見なめらかなため、読み流すと誤りに気づきにくい面があります。なめらかさではなく、原文との対応で確かめることを意識します。
機械翻訳の訳文を人が全面的に直す作業については、ISO 18587が工程だけでなく作業者に求める能力まで定めています(出典:ISO「ISO 18587:2017」)。AI翻訳の訳文の確認を外部に頼むときは、誤りを直すだけか、文体まで整えるかなど、どこまで手を入れる作業なのかを依頼先とすり合わせておきます。
機密情報と個人情報の扱い
AI翻訳のサービスに原文を入れる前に、入れてよい情報かどうかを確かめます。生成AIを使うサービスについて、個人情報保護委員会は次のように注意を促しています。
個人情報取扱事業者が、あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)
同じ注意喚起は、こうした入力をする場合には、サービスを提供する事業者が個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確かめるよう求めています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」)。翻訳したい書類に顧客の氏名や取引の情報が含まれる場合は、利用するサービスの規約と、社内のルールを確かめてから使います。
社内で確認するか、外部に頼むかの判断の基準
品質チェックをすべて外部に頼む必要はありません。社内向けの資料など、誤りがあっても影響が小さい書類は、社内での確認で足りることが多くあります。判断の軸は、誤りが起きたときの影響と、社内に対象言語を読める人がいるかどうかです。

次のような場合は、外部の翻訳者による確認を検討します。
- 契約書、規約、見積書など、誤訳が取引条件に関わる書類
- 取扱説明書や警告表示など、安全に関わる書類
- Webサイトや製品カタログなど、多くの人の目に触れる書類
- 社内に、その言語を読める人がいない
- 英語以外の言語で、確認できる人が見つからない
外部に頼む場合、ISO 17100は、翻訳サービス提供者が自社のサービスが規格に適合していることを示す手段にもなるとされています(出典:ISO「ISO 17100:2015」)。依頼先を比べるときは、規格への対応の有無だけでなく、確認の工程と担当者の体制を具体的に聞くと違いが分かります。
AI翻訳の訳文をプロの翻訳者が確認するサービスの例として、AI翻訳のチェックとプロによる翻訳のサービスがあります。訳文の作成はAI翻訳に任せ、誤訳や訳抜けの確認を専門家に頼む分け方です。
外部に頼まなくてよいケース
次のような場合は、社内での確認を基本にしてよいでしょう。
- 社内で内容をつかむためだけの資料で、社外に出さない
- 取引先とのやり取りが日常の連絡で、相手に確かめながら進められる
- 社内に対象言語を業務で使っている人がいて、確認の時間を取れる
ただし、社内で確認する場合も、観点と手順は決めておきます。確認する人の負担が大きいと、確認そのものが形だけになりやすいためです。
費用の考え方
翻訳のチェックや翻訳の費用は、条件によって大きく変わるため、一律の相場で考えるのは難しい分野です。見積もりを取る前に、次の条件をそろえておくと比べやすくなります。
- 分量:文字数や単語数、ページ数
- 言語の組み合わせ:英語か、それ以外の言語か
- 分野:契約、技術、医療など専門性の高さ
- 作業の範囲:訳文のチェックだけか、翻訳から頼むか
- 納期:急ぎの対応が必要か
- 原稿の形式:表や図の中の文字、Webページ、設計データなど
AI翻訳の訳文を活用してチェックを中心に頼む方法は、一から翻訳を頼むより費用を抑えやすい一方で、訳文の質が低いと直しが増えます。費用だけでなく、どこまでを社内で行い、どこからを頼むかを先に決めておくことが大切です。見積もりは、同じ原稿と同じ条件で複数の依頼先に出してもらうと、内訳の違いが見えます。
チェックを頼む前に社内でそろえること
外部に確認を頼む場合も、社内の準備が品質と費用に関わります。依頼の前に、次のものをそろえておきます。
- 原稿の最終版:確認の途中で原稿が変わらないようにする
- 用途と読み手:社外向けか、公開するか、誰が読むか
- 用語集:決まった訳語、訳さない言葉、社名や製品名
- 過去の訳文:表記や訳語をそろえたい既存の資料
- 確認してほしい範囲:本文だけか、表や画像の中の文字も含むか
準備ができていると、依頼先からの質問が減り、確認の結果も自社の基準に沿ったものになります。
あわせて読みたい
ツナグバで、翻訳チェックのサービスを比べる
ツナグバは、法人向けサービスを無料で探し、複数のサービスの資料をまとめて請求できるサイトです。
翻訳の分野では、AI翻訳の訳文をプロの翻訳者が確かめるサービスを掲載しています。海外取引のある企業が対象です。社内で確認しきれない書類だけを頼むなど、社内の確認と組み合わせて使う方法も考えられます。
確認したい書類の種類や言語、分量をまとめたうえで、資料で詳細を確認してください。
こんな課題があれば
- AI翻訳の誤訳や訳抜けが、そのまま社外に出ていないか不安がある
- 契約書や提案書など、大切な書類の訳文を確かめる人が社内にいない
- 英語以外の言語にも対応したい
掲載サービスでできること
- プロの翻訳者がAI翻訳をチェックする:AI翻訳の誤訳や訳抜けを、プロの翻訳者が確認します。必要に応じて翻訳そのものも依頼できます。
- 多言語に対応:英語のほか、中国語や韓国語、東南アジアの言語、欧米の言語にも対応しています。
- 全文翻訳より費用を抑えやすい:AI翻訳を生かしてチェックを中心にするため、すべてを一から翻訳するよりも費用を抑えやすくなります。料金は内容に応じた打ち合わせで決まります。
資料で確かめたいこと
- 必要な言語と、書類の分野に対応しているか
- チェックの範囲(誤訳、訳抜け、用語の統一など)
- 納期と、急ぎのときの対応
- 料金の決まり方と、見積もりの出し方
- 機密保持の取り決め
よくある質問
翻訳の品質チェックは、何人で行えばよいですか?
重要な書類では、翻訳した人とは別の人が確認する形が基本です。訳した本人は自分の訳文の誤りに気づきにくいためです。社内向けの資料など影響が小さいものは、一人で観点を決めて確認する形でもよいでしょう。
訳文の言語を読める人が社内にいません。どう確認すればよいですか?
逆翻訳で大きな意味のずれを探すことはできますが、それだけで品質は判断できません。社外に出す書類や誤りの影響が大きい書類は、その言語を読める外部の翻訳者に確認を頼むことを検討してください。
AI翻訳の訳文は、どこまで信頼できますか?
分野や言語によって精度は違い、文脈に頼る表現や自社独自の用語で誤りが出ることがあります。そのまま社外に出す前に、原文との突き合わせで数字、条件、固有名詞を確かめることをおすすめします。
用語集は、どのくらい用意すればよいですか?
最初から完全なものを作る必要はありません。社名、製品名、よく使う専門用語から始め、確認で見つかった訳語のゆれを足していく形が続けやすい方法です。
参考資料
- ISO「ISO 17100:2015 Translation services — Requirements for translation services」
- ISO「ISO 18587:2017 Translation services — Post-editing of machine translation output — Requirements」
- 一般社団法人日本翻訳連盟「翻訳品質(スタイルガイド)」
- 一般社団法人日本翻訳連盟「スタイルガイド」(JTF日本語標準スタイルガイド(翻訳用))
- 文化庁「公用文作成の考え方(文化審議会建議)」(令和4年1月7日)
- 総務省「「グローバルコミュニケーション計画2025」の公表」(令和2年3月31日)
- 総務省「グローバルコミュニケーション計画2025」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)
