外国人の従業員が増え、日本語の作業マニュアルや就業規則をそのまま渡しても伝わらない。そんな悩みを抱える職場が増えています。

とはいえ、すべての文書を翻訳会社に頼むと費用がかさみます。AI翻訳で済ませてよいのか、どこからプロに頼むべきかの判断も難しいところです。

この記事では、外国人従業員向けのマニュアルを翻訳するときの進め方を、国の指針やガイドラインをもとに整理します。翻訳の前に日本語を整える方法、翻訳の方法の使い分け、優先して訳す文書、費用の考え方、翻訳を外に頼まなくてよいケースまでまとめました。

外国人従業員向けマニュアルの翻訳が必要になる理由

日本で働く外国人は増え続けています。外国人を雇う事業所の数も増え、マニュアルの多言語化は一部の大企業だけの課題ではなくなりました。

2025年10月末時点の国籍別の外国人労働者数の上位3か国(ベトナム、中国、フィリピン)を示した棒グラフ

厚生労働省の集計では、2025年10月末時点の外国人労働者数は2,571,037人で、前年より268,450人増え、届出が義務化されてから過去最多となりました(出典:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」)。外国人労働者を雇う事業所も371,215所で、こちらも過去最多です(出典:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」)。

国籍で見ると、ベトナムが605,906人、中国が431,949人、フィリピンが260,869人の順に多くなっています(出典:厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」)。英語だけを用意しても、伝わらない従業員が多い職場もあるということです。

国も、外国人を雇う会社に対して、文書の多言語化を求めています。厚生労働省の「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」は、人事管理について次のように定めています。

社内規程その他文書の多言語化等、職場における円滑なコミュニケーションの前提となる環境の整備に努めること。

出典:厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」

「努めること」とされているため、すべての文書の翻訳が義務というわけではありません。ただし、規程や手順が伝わっていないと、ミスや事故、労使の行き違いにつながります。翻訳は、職場で一緒に働くための土台づくりと考えるとよいでしょう。

同じ指針は、労働条件を示すときにも、モデル労働条件通知書やモデル就業規則を活用したり、母国語などで説明したりして、外国人労働者が理解できる方法で明示するよう努めることとしています(出典:厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」)。

翻訳の前に|まず日本語の原稿を整える

翻訳の品質は、元の日本語の分かりやすさで大きく変わります。主語がない文や、一文に複数の指示が入った文は、人が訳してもAIが訳しても誤りが出やすくなります。翻訳の前に、日本語の原稿を整えることが近道です。

翻訳の前に日本語の原稿を整えるための7つの確認点をまとめたチェックリスト

参考になるのが、出入国在留管理庁と文化庁が2020年8月にまとめた「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」です。ガイドラインは、やさしい日本語を次のように説明しています。

やさしい日本語は、難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮したわかりやすい日本語のことです。

出典:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」

ガイドラインは、文章を書き換える手順を3つの段階で示しています。まず日本人にも分かりやすい文章に整理し、次に外国人にも分かりやすい言葉に直し、最後に伝わるかどうかを確かめる、という流れです(出典:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」)。

この考え方は、翻訳の前の原稿づくりにもそのまま使えます。マニュアルを整えるときは、次の点を確かめます。

  • 一文に言いたいことは一つだけにする
  • 「〜しないわけではない」のような二重否定を使わない
  • 受け身や使役の言い方をなるべく使わず、誰が何をするかを書く
  • 「おそらく」「〜のようです」のようなあいまいな言い方を避ける
  • 文末を「です」「ます」でそろえる
  • 社内でしか通じない略語や言い回しを、一般的な言葉に直す
  • 手順は番号つきの箇条書きにし、写真や図を添える

上の5つは、やさしい日本語ガイドラインが挙げている書き換えのルールにもとづいています(出典:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」)。残りの2つは、マニュアルを訳すときに特に効くものとして加えています。

日本語が整うと、AI翻訳の結果も安定します。プロに頼む場合も、確認の手間が減るため、やり取りが少なくて済みます。

翻訳の方法は3つ|やさしい日本語・AI翻訳・プロ翻訳の使い分け

外国人従業員に伝える方法は、大きく分けて3つあります。どれか一つに決めるのではなく、文書の重要度と読む人の日本語の力で使い分けます。

やさしい日本語、AI翻訳、AI翻訳とプロのチェック・プロ翻訳の3つの方法を、費用、早さ、正確さ、向いている文書で比べた表
比べる点やさしい日本語AI翻訳AI翻訳+プロのチェック/プロ翻訳
費用社内の作業時間のみ低いかかる(範囲と言語で変わる)
早さ書き換えに時間がかかるすぐ訳せる日数がかかる
正確さ読む人の日本語の力による誤訳や訳抜けが起こりうる人が確かめるため高めやすい
多言語への対応一つの原稿で済む多くの言語に訳せる言語ごとに翻訳者が必要
向いている文書日々の連絡、掲示、簡単な手順社内の参考資料、下訳就業規則、労働条件、安全の手順

やさしい日本語で書く

日本語の日常会話ができる従業員が多い職場では、翻訳せずにやさしい日本語で書く方法があります。一つの原稿で多くの国籍の人に伝えられるのが利点です。ただし、来日して間もない人や、日本語の学習がまだ浅い人には伝わりにくいことがあります。

AI翻訳を使う

AIを使った機械翻訳は、精度も対応する言語の数も上がってきました。総務省は、情報通信研究機構(NICT)の多言語翻訳技術について、翻訳の精度の向上や対応言語の拡大が進み、行政の手続きや医療、交通、観光などの分野で使われていると説明しています(出典:総務省「『グローバルコミュニケーション計画2025』の公表」)。厚生労働省も、ホームページの一部を英語・中国語・韓国語に機械翻訳する仕組みを用意しています(出典:厚生労働省「外国人雇用対策」)。

一方で、AI翻訳には誤訳や訳抜けが起こりえます。日本語が読めない担当者には、訳文が正しいかを確かめる方法がありません。社内の参考資料なら使いやすい一方、規則や安全に関わる文書を訳しっぱなしにするのは避けたほうが安全です。

AI翻訳をプロが確かめる/プロが翻訳する

就業規則や安全の手順のように、誤りが許されない文書は、人の目で確かめます。AI翻訳の結果をプロの翻訳者が確かめる方法なら、すべてを一から訳すよりも費用を抑えやすくなります。専門用語が多い文書や、法的な意味が大切な文書は、最初からプロに訳してもらう判断もあります。

優先して翻訳したい文書

すべての文書を一度に訳す必要はありません。誤解されたときの影響が大きい文書から順に進めます。

1. 安全に関わる手順と注意書き

最も優先したいのは、けがや事故を防ぐための手順です。機械の操作、薬品の扱い、非常時の避難など、伝わらないと命に関わる内容から訳します。指針は、安全衛生の教育について次のように定めています。

母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、当該外国人労働者がその内容を理解できる方法により行うこと。

出典:厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」

ここでは翻訳だけでなく、写真や動画などの視聴覚教材も挙げられています。文字を訳すことにこだわらず、見て分かる形にすることも大切です。

2. 就業規則と労働条件

賃金、労働時間、休日、休暇、懲戒といったルールは、誤解されるとトラブルになりやすい内容です。指針は、労働基準法などの定めにより、法令の内容、就業規則、労使協定などを周知することを求めています(出典:厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」)。就業規則などの周知は、労働基準法の第106条に定められています(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。

翻訳版を配るときは、日本語版と翻訳版のどちらを正式なものとするかを決め、文書の中に書いておきます。規則を改めたときに翻訳版を直す手順も決めておくと、古い訳が残り続けるのを防げます。

3. 毎日の作業マニュアル

作業の手順書は、量が多く、改訂も頻繁です。すべてをプロに頼むと費用が膨らむため、やさしい日本語と写真を中心にし、必要に応じてAI翻訳を添える形が現実的です。

4. 生活や手続きの案内

社会保険や住まい、ごみの出し方など、職場の外の暮らしに関わる案内も、定着には欠かせません。国や自治体が多言語の資料を用意していることも多いため、自社で一から作る前に探してみるとよいでしょう。

マニュアル翻訳の進め方|5つのステップ

翻訳は、訳して配れば終わりではありません。準備から改訂までを一つの流れとして考えます。

外国人従業員向けマニュアル翻訳の進め方を、読む人と言語の確認から説明と改訂までの5つのステップで示した図
  1. 読む人と言語を確かめる:従業員の国籍、母語、日本語の力を一覧にし、どの言語で何を用意するかを決めます。
  2. 文書に優先順位をつける:安全、規則、作業、生活の順に、訳す文書と方法を決めます。
  3. 日本語の原稿を整える:一文を短くし、略語や社内の言い回しを直します。用語集を作っておくと、訳語がそろいます。
  4. 訳して、確かめる:AI翻訳や翻訳者で訳したあと、母語話者やプロの翻訳者に確かめてもらいます。
  5. 説明して、改訂する:配るときに口頭でも説明し、分かりにくかった点を集めて次の改訂に生かします。

ステップ4の確認を社内でまかなえない場合は、外部の力を借ります。AI翻訳で作った訳文の誤訳や訳抜けを確かめてほしい場合は、ツナグバ掲載のAI翻訳のチェック・プロ翻訳のサービスも比較の候補になります。

用語集は、翻訳の品質を保つための大切な道具です。「班長」「段取り」「手直し」など、職場でよく使う言葉に決まった訳語をつけておくと、文書ごとに訳がばらばらになるのを防げます。

費用の考え方と依頼先の選び方

翻訳を外に頼むときの費用は、一律ではありません。同じ文書でも、次の条件によって大きく変わります。金額は見積もりで確かめるのが確実で、ここでは費用が決まる要素を整理します。

  • 文字数:原稿の量が多いほど費用が増えます。翻訳の前に重複や不要な部分を削ると、費用を抑えられます。
  • 言語:翻訳者が少ない言語ほど、費用が高くなりやすい傾向があります。
  • 専門性:法律や安全、専門の技術に関わる文書は、専門の知識が必要になります。
  • 確認の工程:AI翻訳の確認だけか、一から訳すのか、さらに別の人が見直すのかで変わります。
  • 納期と形式:急ぎの対応や、図や表の多い資料の組み直しが必要な場合は、費用が増えることがあります。

見積もりを比べるときは、金額だけでなく、どこまでの作業が含まれているかを確かめます。依頼先を選ぶときは、次の点を見ます。

  • 必要な言語に対応しているか
  • 人事の規程や安全の手順など、似た文書を扱った経験があるか
  • AI翻訳の結果の確認だけでも頼めるか
  • 用語集を作ってもらえるか、こちらの用語集に合わせてもらえるか
  • 改訂のときに、変わった部分だけを訳してもらえるか
  • 社内の情報を扱うため、秘密を守る取り決めを結べるか

AI翻訳のサービスに社内の文書を入れる場合は、入力した内容がどのように扱われるかも確かめておきます。従業員の個人情報や取引先の情報を含む文書は、入れてよいかを社内で決めてから使います。

翻訳だけでは足りないこと|伝わったかを確かめる

正しく訳したマニュアルでも、読まれなければ意味がありません。配った後に、内容が伝わったかを確かめる仕組みが必要です。

厚生労働省は、外国人従業員とともに働く日本人従業員向けに、話しかけ方と話の聞き方の工夫をチェックリストの形で示した「外国人従業員とのコミュニケーションのコツ(コミュコツ)」を2024年2月にまとめています(出典:厚生労働省「外国人従業員とのコミュニケーションのコツ(コミュコツ)」)。マニュアルを渡すときの説明の仕方を考える際に役立ちます。

また、厚生労働省の「事業者向け受入れ・定着マニュアル」は、募集、受入れ、就労中の段階ごとに、外国人材の定着に向けた対応や好事例をまとめています(出典:厚生労働省「事業者向け受入れ・定着マニュアル ~外国人と一緒にはたらくために~」)。異文化理解の研修資料や受入れ準備のチェックシートも同じページに載っています。

伝わったかを確かめるには、次のような方法があります。

  • 読んだ後に、手順を自分の言葉で説明してもらう
  • 実際にやってみせてもらい、その場で直す
  • 分かりにくかった言葉を集めて、用語集や原稿を直す
  • 同じ母語の先輩に、訳文が自然かを見てもらう

やさしい日本語ガイドラインも、書き換えの最後の段階として、日本語教師や外国人に伝わるかを確かめてもらうことを挙げています(出典:出入国在留管理庁・文化庁「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」)。翻訳でも同じで、読む人に確かめてもらう工程が品質を支えます。

翻訳を外に頼まなくてよいケース

外部への依頼が必要ない場合もあります。次のような場合は、まず社内でできることから始めます。

  • 外国人従業員の多くが日本語の日常会話をこなし、やさしい日本語で十分に伝わる
  • 訳したい文書が、社内の連絡や掲示など短いものに限られる
  • 同じ母語で日本語もできる従業員がいて、確認を任せられる
  • 国や自治体、業界団体が用意した多言語の資料で足りる

ただし、母語話者の従業員に確認を任せる場合は、本来の仕事とは別の負担になります。業務として時間をとり、評価にも反映させるなど、頼りきりにならない配慮が必要です。就業規則や安全の手順など、誤りが許されない文書は、社内の確認だけで済ませてよいかを慎重に判断します。

よくある質問

就業規則を外国語に訳すことは義務ですか?

国の指針では、社内規程などの多言語化は「努めること」とされており、すべての翻訳が義務とはされていません。ただし、就業規則などの周知は法律で求められています。外国人労働者が理解できる方法で伝える工夫が必要です。

AI翻訳だけで済ませてもよいですか?

社内の参考資料や日々の連絡なら、AI翻訳で足りることもあります。安全の手順や就業規則のように誤りが許されない文書は、母語話者やプロの翻訳者に確かめてもらうのが安全です。

何語に訳せばよいか分かりません。

まず、従業員の母語と日本語の力を一覧にします。人数の多い言語から用意し、少ない言語はやさしい日本語や写真で補う方法もあります。英語が母語でない従業員に英語版を渡しても、伝わらない場合があります。

翻訳したマニュアルは、どのくらいの頻度で見直せばよいですか?

日本語版を改訂したときに、翻訳版もあわせて直すのが基本です。改訂の履歴を残し、変わった部分だけを訳し直す手順にしておくと、手間と費用を抑えられます。

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