社員の健康診断は毎年きちんと手配している。けれど、自分の健診は何年も受けていない。そうした経営者は少なくありません。

中小企業では、経営者の体調がそのまま会社の動きに影響します。この記事では、経営者の健康管理が後回しになりやすい理由、経営者が使える健診の制度、日々の取り組みのチェックリスト、もしものときの備え、外部サービスの選び方までを順に解説します。

経営者の健康管理が事業に直結する理由

意思決定の代わりがいない

中小企業では、資金繰り、採用、大口の取引など、重要な判断の多くを経営者が一人で担っています。経営者が急に動けなくなると、判断が止まり、現場が回らなくなるおそれがあります。

社員の数が少ない会社ほど、この影響は大きくなります。経営者の健康は、個人の問題であると同時に、会社のリスク管理の問題でもあります。

取引先や金融機関からの信頼

取引先や金融機関は、経営者個人を見て取引を判断することがあります。経営者が健康に気を配り、不在時の体制も考えていることは、事業を長く続ける意思の表れとして受け止められます。

社員の健康づくりの手本になる

経済産業省は、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」を推進しています(出典:経済産業省「健康経営」)。社員に健診の受診や休養を勧めても、経営者自身が無理を続けていれば説得力は弱くなります。経営者が率先して健康管理に取り組むことは、社内の健康づくりの土台になります。

経営者の健康管理が後回しになりやすい理由

経営者の健康管理が抜けやすいのには、仕組みの面での理由があります。

会社の定期健診の手配から漏れやすい

労働安全衛生法で会社に実施が義務づけられている定期健康診断は、雇用している労働者が対象です。役員である経営者は、この義務の対象に入らない場合があります。そのため、社員の健診は手配しても、経営者の分は自分で予約しない限り受けないままになりがちです。

定期健康診断の義務は、労働安全衛生規則で次のように定められています。

事業者は、常時使用する労働者(第四十五条第一項に規定する労働者を除く。)に対し、一年以内ごとに一回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第44条

条文の対象は「常時使用する労働者」です。経営者自身が対象に当たるかどうか迷うときは、社会保険労務士などの専門家に確認します。いずれの場合も、自分の健診は自分で予定を押さえる前提で考えておくと漏れがありません。

忙しさと相談相手の少なさ

経営者は休みの日も仕事のことを考えがちです。体調の違和感があっても、受診の時間を取らずに先送りしてしまうことがあります。また、悩みや不調を社内で打ち明けにくく、相談できる相手が少ないことも、管理が後回しになる理由です。

社員と経営者の健康管理の違い

項目社員経営者(役員)
定期健康診断会社に実施の義務がある会社の義務の対象外になる場合があり、自分で受診を手配する
ストレスチェック一定規模以上の事業場で実施の義務がある対象外になりやすく、自分で状態を確かめる必要がある
相談先上司、人事、産業医など社内に相談相手がいないことが多い
休みの取りやすさ就業規則で休日が決まっている自分で休みを決めないと、休まないまま働き続けやすい

ストレスチェックは、2015年から労働者数50人以上の事業場で実施が義務づけられています。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10年(2028年)4月1日からは50人未満の事業場にも義務が広がります(出典:厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」)。社員向けの仕組みが整っていく一方で、経営者自身の状態を確かめる機会は、意識して別に用意する必要があります。

この違いを踏まえると、経営者の健康管理は「仕組みがないと続かない」ものだと分かります。予定表に健診や休みを先に入れておくなど、意識に頼らない工夫が大切です。

経営者が使える健診の制度

経営者でも、加入している公的医療保険の健診制度を使えます。主な制度は次のとおりです。内容や自己負担は保険者や年度で変わるため、受診前に加入先の案内を確認してください。

協会けんぽの令和8年度の健診の対象年齢と自己負担・補助額、国民健康保険の特定健診の対象をまとめた表
加入している保険使える主な健診確認したいこと
協会けんぽ(法人の役員など)生活習慣病予防健診。令和8年度からは35歳以上に加えて20歳・25歳・30歳も対象。35歳から74歳を対象にした人間ドック健診への補助(最高25,000円)も始まっている対象年齢、補助の条件、受診できる健診機関
健康保険組合組合ごとの健診や人間ドックの補助組合の案内や規程
国民健康保険(個人事業主など)40歳から74歳を対象にした特定健診。市区町村のがん検診住んでいる市区町村の案内
上記以外の自費の人間ドック医療機関ごとのコース検査項目、費用、結果の説明の有無

協会けんぽの健診の対象年齢と自己負担は、協会けんぽの案内で確認できます(出典:全国健康保険協会(協会けんぽ)「健診について(被保険者)」)。国民健康保険の特定健診は、40歳から74歳を対象に、メタボリックシンドロームに着目して行う健診です(出典:厚生労働省「特定健診・特定保健指導について」)。

健診は受けるだけでなく、結果を見て次の行動につなげることが大切です。再検査や精密検査をすすめられた項目は、先送りせずに受診の予定を入れます。

経営者が日々取り組みたい健康管理

特別なことをする前に、まず基本を仕組みにします。経営者が取り組みやすい項目を挙げます。

経営者が自分の健康管理の状態を確かめるための8項目のチェックリスト

年に1回の健診を予定表に固定する

誕生月や決算後など、毎年同じ時期に健診を受けると決めて、予定表に先に入れます。忙しい時期を避けて決めておくと、先送りが減ります。

相談できる医師を決めておく

体調の小さな変化を気軽に相談できるかかりつけの医師がいると、受診の判断がしやすくなります。健診の結果を毎年同じ医師に見てもらうと、変化にも気づきやすくなります。

休む日を先に決める

経営者は、休みを自分で決めないと休めません。月に何日かは仕事の連絡を見ない日を決め、社内にも伝えておきます。休む日を宣言しておくと、社員が判断できる範囲を広げるきっかけにもなります。

心の負担にも目を向ける

経営者は孤独を感じやすい立場です。眠れない日が続く、気分の落ち込みが長引くといった変化があれば、早めに医療機関や相談窓口に相談します。経営の悩みを話せる仲間や外部の相談相手を持つことも、負担を軽くする助けになります。経営上の悩みは、国が設置する「よろず支援拠点」で無料で相談することもできます(出典:よろず支援拠点全国本部)。

経営者の健康管理チェックリスト

  • この1年以内に健診を受けた
  • 健診で指摘された項目の再検査を済ませた
  • 体調のことを相談できる医師がいる
  • 加入している保険の健診制度を確認した
  • 仕事の連絡を見ない日を月に何日か決めている
  • 睡眠や食事、運動の習慣を振り返る機会がある
  • 自分が不在のときに判断を任せられる人がいる
  • 経営の悩みを話せる相手が社外にいる

当てはまらない項目が多いほど、健康管理を仕組みにする余地があります。まずは一つずつ埋めていくことから始めます。

経営者が見直したい生活の習慣

健診の結果に表れる変化の多くは、日々の暮らし方と関わっています。経営者は会食や移動が多く、生活のリズムが乱れやすい立場です。完璧を目指すより、崩れやすい場面を知り、戻しやすい仕組みをつくることが大切です。

睡眠:寝る時間を仕事の予定より先に決める

夜遅くまでメールを返し、朝早くから動く日が続くと、睡眠の時間は削られていきます。寝る時刻をあらかじめ決め、それ以降は仕事の連絡を見ないと決めておくと、睡眠を守りやすくなります。

厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」は、成人について次のように推奨しています。

適正な睡眠時間には個人差があるが、6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する。

出典:厚生労働省「健康づくりのための睡眠ガイド2023」

同じガイドでは、睡眠の不調や休めた感じの低下がある場合、生活習慣の改善が重要である一方、病気が潜んでいる可能性にも留意するよう示されています。眠れない日が続くときは、早めに医師に相談します。

食事:会食の多い週の調整を決めておく

会食や付き合いを減らせない場合は、ほかの日の食事で調整します。会食の翌日は軽めにする、昼食を抜かないなど、自分なりの決まりを持っておくと乱れが続きにくくなります。

運動:移動の時間を活かす

まとまった運動の時間が取れない場合は、一駅分歩く、階段を使う、打ち合わせの合間に体を動かすなど、日常の動きを増やすことから始めます。続けられる形を選ぶことが何より大切です。

飲酒とたばこ:健診の結果と合わせて見直す

飲酒や喫煙の習慣は、健診の結果とあわせて医師に相談すると、見直す目安を持ちやすくなります。厚生労働省の「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」は、お酒の量(ml)だけでなく、含まれる純アルコール量(g)に着目することが重要だとしています。たとえばビール500ml(5%)の純アルコール量は20gです(出典:厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドラインについて」)。自分だけで判断せず、専門家の意見を聞くことが近道です。

経営者が動けなくなったときへの備え

健康管理に気を配っていても、病気やけがを完全に避けることはできません。体調を崩したときに会社が止まらないよう、平時から備えておくことも経営者の健康管理の一部です。

中小企業庁の「中小企業BCP策定運用指針」は、緊急事態に遭遇したときに中核となる事業を続けたり早く復旧したりするため、平常時に行うべき活動などを決めておく計画として、BCP(事業継続計画)を説明しています(出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針」)。経営者の急な不在も、事業を止めうる出来事の一つとして、同じ考え方で備えておきます。

経営者が動けなくなったときに備える4つの手順を示した図

経営者しかできない仕事を減らす

まず、経営者だけが把握している業務を書き出します。取引先との窓口、支払いの承認、銀行とのやり取り、重要なパスワードの管理などです。手順を文書にし、誰がどこまで判断してよいかを決めておきます。

代わりに判断できる人を育てる

経営判断のすべてを任せることは難しくても、日常の判断を任せられる人がいれば、不在の影響は小さくなります。会議に同席してもらう、判断の理由を共有するなど、日頃から考え方を伝えておくことが大切です。

引き継ぎメモに書いておく項目

急な入院などに備え、次の項目をまとめたメモを作り、信頼できる人と保管場所を共有しておきます。内容は半年に一度ほど見直します。

  • 主な取引先と担当者、連絡の優先順位
  • 毎月の支払いと入金の予定、使っている金融機関
  • 契約中のサービスと、更新や解約の期限
  • 顧問の税理士や社会保険労務士などの連絡先
  • 社員に任せてよい判断と、待ってもらう判断の区別

パスワードなどの重要な情報は、メモに直接書かず、管理の方法と開け方だけを決めておくと安全です。

資金と連絡体制を整える

経営者が不在の間に売上が落ちた場合を想定し、必要な資金の目安を考えておきます。加えて、緊急時に誰が取引先や金融機関に連絡するかを決めておきます。保険で備える方法もあるため、必要に応じて専門家に相談します。

外部サービスの選び方と費用の考え方

自分だけで健康管理を続けるのが難しい場合は、外部のサービスを使う方法もあります。主な種類と特徴を整理します。

種類主な内容向いている人費用の考え方
予防医療の会員サービス専属の医師に健康の相談ができる気軽に相談できる医師がいない経営者会費の形で、年額や月額で決まることが多い
人間ドック医療機関で検査を受けるまず現状を知りたい経営者検査の項目数で変わる。保険者の補助が使える場合がある
オンライン健康相談スマートフォンなどで相談できる移動の時間が取りにくい経営者回数制か定額制かで変わる
運動の指導パーソナルトレーニングなど運動の習慣をつくりたい経営者回数と期間で変わる

料金は提供会社や内容で大きく異なります。そのため、金額だけで比べるのではなく、「何に使えて、何は含まれないのか」を確かめることが大切です。

選ぶときの判断基準

  1. 相談のしやすさ:連絡の方法や、返事が来るまでの時間は自分の働き方に合うか
  2. 範囲の明確さ:相談、検査、医療機関の紹介など、どこまでが含まれるか
  3. 継続のしやすさ:年会費や契約期間は、無理なく続けられる水準か
  4. 対象の広さ:経営者だけでなく、社員も使えるか
  5. 情報の扱い:健康の情報をどう管理するかが説明されているか

健診の結果をもとに、気になることを継続して相談できる相手がほしい場合は、専属の医師に健康の相談ができる予防医療の会員サービスのような選択肢もあります。経営者自身だけでなく、社員の健康管理にも使えるかどうかを確かめておくと、会社としての活用の幅が広がります。

経費として扱うときの注意

国税庁は、会社が負担した費用によって役員や社員が受ける経済的な利益を、原則として給与として扱う考え方を示しています(出典:国税庁「タックスアンサーNo.2508 給与所得となるもの」)。役員だけが使える健康関連のサービスを会社の費用で契約すると、役員への給与とみなされる可能性があります。

一般には、社員も含めて合理的な基準で対象者を決め、会社が提供会社や医療機関に直接支払う形にすると、福利厚生費として扱われやすくなります。扱いは内容によって変わるため、契約の前に税理士に確認してください。

外部サービスがなくてもよいケース

  • かかりつけの医師がいて、毎年の健診結果も相談できている
  • 保険者の健診や補助で、必要な検査を受けられている
  • まだ健診そのものを受けておらず、まず現状を知る段階にある

この場合は、まず公的な健診制度を使い、結果を見てから外部サービスを検討しても遅くありません。サービスは、自分だけでは続けにくい部分を補うものとして選ぶのが現実的です。

会社として取り組む場合の進め方

経営者の健康管理をきっかけに、社員の健康づくりにも広げることができます。たとえば、経営者自身が健診を受けた経験を社内で共有し、社員の受診を促すことから始められます。

取り組みを形にしたい場合は、経済産業省の健康経営優良法人認定制度も参考になります。中小規模法人部門があり、健康経営に取り組む法人を見える化して、求職者や金融機関などから評価されやすくすることを目的としています。健康経営優良法人2026では、中小規模法人部門で23,085法人が認定されています(令和8年3月9日現在)(出典:経済産業省「健康経営優良法人認定制度」)。認定を目指すかどうかにかかわらず、社内の取り組みを整理する手がかりとして使えます。

あわせて読みたい

ツナグバで、経営者の健康管理のサービスを比べる

ツナグバは、法人向けサービスの資料を無料でまとめて請求できるサイトです。気になるサービスを選ぶと、資料を一度に取り寄せられます。

健康管理の分野では、専属の医師に健康の相談ができる予防医療の会員サービスを掲載しています。経営者や社員の健康管理に使えるサービスです。相談できる内容や会員の仕組みを、資料で確かめてみてください。

こんな課題があれば

  • 経営者が忙しく、体調が気になっても病院に行く時間がない
  • 健康診断の結果を受け取っても、どう対応すればよいか分からない
  • 社員の健康について、気軽に相談できる相手がいない

掲載サービスでできること

  • 医師に健康の相談ができる:気になる症状や健康診断の結果について、医師に相談できます。病院に行くべきかを考える手がかりになります。
  • 予防の視点で健康管理を続けられる:体調を崩してからではなく、日ごろから健康を見直すきっかけになります。相談の方法や頻度は製品によって違うため、資料で確認してください。
  • 経営者や社員の福利厚生として使える:会員の範囲を経営者に限るか、社員にも広げるかを選べるものがあります。対象の範囲は製品によって違うため、資料で確認してください。

資料で確かめたいこと

  • 会員1人あたりの費用と、対象にできる人数
  • 相談の方法(電話、オンライン、対面)と受付時間
  • 専門の医療機関への紹介など、相談後の対応
  • 健康情報の取り扱いと管理体制
  • 契約期間と、会員を入れ替えるときの条件

ほかの分野のサービスも見る

よくある質問

経営者も会社の健康診断を受けられますか

会社に義務づけられた定期健康診断は、常時使用する労働者が対象です(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」第44条)。ただ、社員と同じ健診機関で経営者も受診するよう手配することはできます。加入している保険者の健診制度を使う方法もあります。

個人事業主はどの健診を受ければよいですか

国民健康保険に加入している場合、40歳から74歳であれば特定健診の対象になります。市区町村のがん検診もあります。対象や自己負担は住んでいる市区町村の案内で確認してください。

人間ドックの費用は会社の経費にできますか

役員だけを対象にすると、役員への給与とみなされる可能性があります。社員も含めて合理的な基準で対象者を決め、会社が医療機関に直接支払う形であれば、福利厚生費として扱われやすくなります。個別の扱いは税理士に確認してください。

忙しくて時間が取れない場合はどうすればよいですか

健診の日を毎年同じ時期に固定し、予定表に先に入れておくのが効果的な方法の一つです。移動の時間が取りにくい場合は、オンラインで相談できるサービスを補助的に使う方法もあります。

参考資料