「上の部屋の音がうるさい」「お湯が出ない」「共用部にゴミが置かれている」。賃貸住宅の管理会社には、毎日のように入居者からの連絡が届きます。

クレーム対応は、担当者の経験に頼りがちな業務です。対応が遅れたり、担当者によって説明が違ったりすると、入居者の不満は大きくなり、オーナーとの信頼関係にも影響します。

この記事では、管理会社が入居者のクレームに対応する手順を、種類別の初動、記録とオーナーへの報告、カスタマーハラスメントへの備えまで整理します。賃貸住宅管理業法、民法、国土交通省や厚生労働省の公表資料をもとにしています。

個別の事案で法的な判断が必要なときは、弁護士などの専門家に相談してください。

管理会社が入居者クレームに対応する理由

入居者のクレームに、なぜ管理会社が対応するのか。まず、法律と契約の上での位置づけを確かめておきます。

賃貸住宅管理業法での位置づけ

賃貸住宅管理業法は、賃貸住宅管理業を、賃貸人から委託を受けて、賃貸住宅の維持保全や家賃などの金銭の管理を行う事業と定めています(出典:e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」第2条)。この事業を営むには国土交通大臣の登録が必要で、管理戸数が200戸未満の事業者は任意の登録とされています(出典:国土交通省「賃貸住宅管理業法制度概要ハンドブック」)。

入居者からの苦情への対応は、それだけでは法律上の「管理業務」にはあたりません。国土交通省の解釈・運用の考え方は、入居者からの苦情対応のみを行い、維持や修繕を行っていない場合は、賃貸住宅の維持保全には該当しないとしています(出典:国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」)。

一方で、同じ資料は、管理業務とあわせて入居者からの苦情や問い合わせへの対応を行う場合は、その内容を管理受託契約の重要事項説明で可能な限り具体的に記載し、説明することを求めています。どこまで対応するかを、契約の段階でオーナーと決めておくことが前提になります。

苦情は記録し、オーナーに報告する

賃貸住宅管理業法第20条は、賃貸住宅管理業者に、管理業務の実施状況などを定期的に委託者(オーナー)へ報告することを義務づけています(出典:e-Gov法令検索「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」第20条)。報告する事項には、入居者からの苦情の発生状況と対応状況が含まれます。国土交通省は、その内容を次のように示しています。

苦情の発生した日時、苦情を申し出た者の属性、苦情内容、苦情への対応状況等について、把握可能な限り記録し、報告する必要がある。

出典:国土交通省「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律の解釈・運用の考え方」

同じ資料は、単純な問い合わせについては記録と報告の義務はないものの、苦情を伴う問い合わせは記録し、対処状況も含めて報告する必要があるとしています。クレーム対応は「その場で解決すれば終わり」ではなく、記録と報告までが業務だということです。

入居者クレームの主な種類と初動

入居者のクレームには、いくつかの典型があります。種類ごとに、最初に確かめることが違います。

騒音、設備の故障、水漏れ、共用部とゴミ、ペット、退去時の原状回復という入居者クレームの主な種類と対応の要点を示した図
種類最初に確かめること気をつける点
騒音発生している時間帯、音の種類、続いている期間発生源を決めつけない。まずは掲示や全戸への文書で注意を促す
設備の故障故障している設備、症状、いつからか電話での確認で直るものと、業者の手配が要るものを分ける
水漏れ漏れている場所、量、上下階への影響被害の拡大を止めることを最優先にする
共用部・ゴミ場所、内容、続いているか特定の入居者を名指しせず、ルールを示して伝える
ペット鳴き声やにおいの状況、契約の条件契約書で飼育の可否や条件を確かめてから話す
退去時の原状回復請求の内容、入居時の状態の記録国のガイドラインと契約書に沿って説明する

設備の故障:修繕の義務はオーナーにある

設備の故障は、クレームの中でも件数が多い種類です。民法第606条は、修繕の義務について次のように定めています。

賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負います。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りではありません(出典:e-Gov法令検索「民法」第606条)。

さらに民法第607条の2は、賃借人が修繕が必要であることを通知したのに、賃貸人が相当の期間内に修繕をしないときや、急迫の事情があるときは、賃借人が自ら修繕できると定めています(出典:e-Gov法令検索「民法」第607条の2)。また第611条は、賃借物の一部が使えなくなった場合に、賃借人の責めによらないときは、使えない部分の割合に応じて賃料が減額されると定めています(出典:e-Gov法令検索「民法」第611条)。

つまり、設備の故障への対応が遅れると、入居者の不満だけでなく、オーナーの負担が増えるおそれがあります。修繕の手配をどこまで管理会社の判断で進めてよいか、金額の上限をオーナーと決めておくと、初動を早められます。

騒音:事実の確認と、全体への注意から

騒音は、発生源の特定が難しいクレームです。苦情を受けた部屋の隣が発生源とは限りません。いきなり特定の部屋を訪ねて注意すると、別のトラブルを生むことがあります。

まずは、音の種類や時間帯、続いている期間を聞き取ります。次に、掲示板や全戸への文書で、生活音への配慮を全体に呼びかけます。それでも続く場合に、発生源と思われる部屋に、事実を伝えて配慮を求める、という順番が一般的です。

退去時の原状回復:ガイドラインに沿って説明する

退去時の費用の負担は、入居者との意見が分かれやすい点です。国民生活センターによると、賃貸住宅の原状回復トラブルの相談件数は、2023年度が13,273件、2024年度が13,312件、2025年度が14,711件でした(2026年5月31日現在)(出典:国民生活センター「賃貸住宅の原状回復トラブル」)。

国民生活センターに寄せられた賃貸住宅の原状回復トラブルの相談件数を2023年度から2025年度まで示した棒グラフ

国土交通省は、原状回復の費用負担の一般的な考え方を「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」にまとめています(出典:国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について)。入居時に部屋の状態を写真で残し、退去時にはガイドラインと契約書に沿って負担の区分を説明すると、話し合いが進めやすくなります。

クレーム対応の手順:4つのステップ

クレーム対応は、担当者が変わっても同じ流れで進められるように、手順を決めておくことが大切です。

受け付ける、事実を確かめる、対応して連絡する、記録してオーナーに報告するというクレーム対応の4つの手順を示した図

ステップ1 受け付ける

受付では、日時、部屋番号、氏名と連絡先、内容、いつから起きているかを聞き取ります。電話、メール、問い合わせフォームなど、窓口が複数あっても、同じ項目で記録できるようにします。

この段階で、緊急度を切り分けます。漏水、停電、給湯やエレベーターの停止など、生活や安全に直結するものは、すぐに手配に移ります。

ステップ2 事実を確かめる

現地の確認や写真の提供を依頼し、何が起きているかを確かめます。あわせて、契約書で責任の区分(オーナー負担か、入居者の負担か)と、管理受託契約で管理会社が対応できる範囲を確かめます。

ステップ3 対応して連絡する

業者を手配し、入居者に対応の見通しを伝えます。このとき、決まっていないことを約束しないことが大切です。「明日には直ります」と言って直らなければ、二度目のクレームになります。「業者の確認が明日の午前です。結果が分かりしだい連絡します」のように、決まったことだけを伝えます。

ステップ4 記録して、オーナーに報告する

対応の結果を記録に残します。賃貸住宅管理業法の定期報告では、苦情の発生状況と対応状況をオーナーに報告します。同じ種類のクレームが続く場合は、設備の更新や掲示の見直しなど、再発を防ぐ提案もあわせて行います。

記録が担当者ごとの手帳やメールに散らばっていると、報告のたびに集め直す手間がかかります。管理する戸数が多い場合は、建物管理をデジタル化するクラウドサービスのように、入居者対応や点検・修繕の記録をまとめて管理できる仕組みを使う方法もあります。

夜間・休日の連絡をどう受けるか

漏水や停電は、営業時間外にも起こります。夜間や休日の連絡先を入居者に知らせ、誰が受けて、どこまで手配するかを決めておきます。外部の受付窓口を使う場合も、受付の項目と緊急度の基準を共有し、翌営業日に記録を引き継ぐ流れを決めておくと、対応の抜けを防げます。

緊急でない内容は、翌営業日に対応することを受付の時点で伝えます。対応の時期が分かれば、入居者の不安は小さくなります。

記録とオーナー報告の考え方

記録は、オーナーへの報告のためだけのものではありません。対応の品質をそろえ、同じクレームを減らすための材料にもなります。

記録しておきたい項目

国土交通省の解釈・運用の考え方に示された項目を基本に、次の項目を記録しておくと、報告にも分析にも使いやすくなります。

  • 受付の日時と窓口(電話、メール、フォームなど)
  • 申し出た人の属性(入居者、近隣の住民、その他)
  • 部屋番号と建物
  • クレームの種類と内容
  • 対応の経過(確認、手配、連絡の日時)
  • 対応の結果と、かかった費用
  • 再発を防ぐための提案

個人情報の扱い

記録には入居者の氏名や連絡先が含まれます。個人情報保護法第23条は、個人データの漏えいなどを防ぐための安全管理措置を求めています(出典:e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第23条)。騒音の苦情を受けたときに、申し出た入居者の名前を相手に伝えないことは、トラブルを広げないためにも大切です。

カスタマーハラスメントへの備え

クレームの中には、要求の内容や伝え方が、社会通念上許される範囲を超えるものもあります。長時間の電話、大声での威圧、担当者個人への攻撃などです。

厚生労働省によると、令和8年10月1日から、カスタマーハラスメント対策が全ての事業主の義務となりました(出典:厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために」)。労働施策総合推進法は、事業主が防ぐべき言動を次のように定めています。

顧客、取引の相手方、施設の利用者その他の当該事業主の行う事業に関係を有する者(中略)の言動であつて、その雇用する労働者が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたもの

出典:e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」第33条

正当なクレームとカスタマーハラスメントは、分けて考える必要があります。入居者の申し出の多くは、困りごとを伝える正当なものです。そのうえで、担当者が一人で抱え込まないように、相談の窓口、対応を交代する基準、記録の残し方を社内で決めておきます。厚生労働省は、カスタマーハラスメント防止指針や対策企業マニュアルを公表しています。

クレームを減らすための予防策

クレーム対応の負担を減らすには、起きてから対応するだけでなく、起きにくくする工夫も欠かせません。

入居時の説明と記録

入居の時点で、ゴミの出し方、共用部の使い方、ペットや楽器の条件、設備の使い方を説明し、書面でも渡します。入居時の部屋の状態を、入居者と一緒に写真で残しておくと、退去時の原状回復の話し合いで役立ちます。

よくある問い合わせを案内にまとめる

設備の問い合わせには、ブレーカーが落ちている、給湯器の電源が切れている、リモコンの電池が切れているといった、入居者が自分で確かめられるものも含まれます。よくある問い合わせと確かめ方を、入居のしおりやホームページにまとめておくと、電話で解決できる件数が増え、業者を呼ぶ費用も抑えやすくなります。

設備の点検と更新の計画

古い設備は故障が増えます。点検の記録から故障の多い設備を洗い出し、更新の時期と費用をオーナーに提案します。故障が起きてから交換するより、計画的に更新するほうが、入居者の不便も、急な出費も小さくできます。

掲示と巡回で、ルールを見える形にする

共用部のゴミや自転車の置き方は、掲示と定期的な巡回で改善することが多い問題です。特定の入居者を責める書き方は避け、ルールと理由を短く示します。巡回の結果も記録しておくと、オーナーへの報告に使えます。

判断の基準とチェックリスト

クレーム対応の体制を見直すときは、次の項目を確かめます。

  • 受付の項目が、どの窓口でもそろっている
  • 緊急度の切り分けの基準が決まっている
  • 修繕の手配を管理会社の判断で進められる金額の上限を、オーナーと決めている
  • 管理受託契約で、苦情対応の範囲を説明している
  • 対応の経過と結果を記録している
  • 定期報告で、苦情の発生状況と対応状況を報告している
  • カスタマーハラスメントのときの相談先と交代の基準がある
  • 同じ種類のクレームが続いたときに、再発防止を提案している

費用の考え方

クレーム対応にかかる費用は、担当者の人件費、夜間や休日の受付の体制、業者の緊急出動などです。夜間の受付を外部のコールセンターに任せる、記録の仕組みを導入するといった方法には、それぞれ費用がかかります。

比べるときは、月の費用だけでなく、記録を集め直す時間、報告書を作る時間、二度目のクレームの件数がどれだけ減るかまで含めて考えてください。

新しい仕組みを入れなくてよいケース

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よくある質問

入居者からのクレームは、オーナーに毎回報告すべきですか?

賃貸住宅管理業法では、定期報告の中で苦情の発生状況と対応状況を報告します。緊急の修繕や費用がかかる対応は、定期報告を待たずにその都度オーナーに相談するのが一般的です。報告の方法と頻度は、管理受託契約で決めておきます。

騒音の苦情を受けたら、すぐに相手の部屋に注意してよいですか?

発生源がはっきりしないうちに特定の部屋に注意すると、トラブルが広がることがあります。まずは聞き取りと、掲示や全戸への文書による注意から始めるのが一般的です。申し出た入居者の名前は、相手に伝えないようにします。

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民法では、賃貸人に修繕の義務があり、相当の期間内に修繕しないときは、賃借人が自ら修繕できる場合があります。使えない部分があれば、賃料が減額されることもあります(出典:e-Gov法令検索「民法」第606条・第607条の2・第611条)。初動を早めるために、手配の判断基準をオーナーと決めておきます。

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