社員に生成AIの研修を受けさせたいが、費用の負担が気になる。そこで検討されるのが、厚生労働省の「人材開発支援助成金」を使ったリスキリングです。

ただし、AI研修の扱いは2026年8月3日に変わりました。汎用的なプロンプトの作り方など、職務に直接結びつかない研修は対象外になっています。

この記事では、厚生労働省のリーフレット・パンフレット・変更点の資料をもとに、AI研修で使える助成金のしくみ、改正のポイント、申請の流れ、費用の計算例、使わないほうがよいケースまで整理します。

AI研修に使えるリスキリング助成金の全体像

AI研修で使われることが多いのは、厚生労働省の「人材開発支援助成金」です。厚生労働省は、制度を次のように説明しています。

人材開発支援助成金は、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です

出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」

ポイントは「職務に関連した」「計画に沿って」の2つです。研修を受けさせれば対象になるのではなく、職務との関係と、事前の計画が求められます。この2点が、2026年8月の改正でAI研修の扱いが変わった背景にもつながっています。

人材開発支援助成金には、人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなど7つのコースがあります(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。AI研修で中心になるのは、次の2つです。

  • 事業展開等リスキリング支援コース:新しい事業の展開やDX化・GX化に伴って、新しい知識や技能を身につけさせる訓練が対象。助成率が高い
  • 人材育成支援コース:職務に関連した知識や技能を身につけさせる一般的な訓練が対象

事業展開等リスキリング支援コースは、令和4年度から令和8年度までの期間限定の助成金として創設され、令和8年度末までの時限措置とされています(出典:厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース」パンフレット(令和8年8月3日版))。2026年度が最終年度にあたり、この先の扱いは厚生労働省の発表を確認する必要があります。

人材育成支援コースとの比べ方

事業展開等リスキリング支援コースの要件に合わない場合でも、人材育成支援コースで申請できる場合があります。中小企業の場合の主な違いは次のとおりです。

事業展開等リスキリング支援コースと人材育成支援コースの助成率と上限を比べた表
項目事業展開等リスキリング支援コース人材育成支援コース(人材育成訓練)
経費助成率75%45%(賃金要件などを満たすと+15%)
賃金助成(1人1時間あたり)1,000円800円(賃金要件などを満たすと+200円)
経費助成の上限(10時間以上100時間未満)1人30万円1人15万円
1事業所の年度の上限1億円1,000万円
主な対象事業展開、DX化・GX化などに伴う訓練職務に関連した訓練全般

人材育成支援コースの数字は、厚生労働省のリーフレットで確認できます。正規雇用労働者等の経費助成率は45%で、訓練後に賃金が5%以上上がるなどの要件を満たすと15%加算されます(出典:厚生労働省「人材育成支援コース」リーフレット(令和8年4月8日版))。有期契約労働者などは、助成率が異なります。

助成率だけを見るとリスキリング支援コースが有利です。ただし、研修の目的が新しい事業やDX化と結びつかない場合は、無理に当てはめず、人材育成支援コースを検討するほうが現実的です。

助成金と補助金の違い

助成金は、要件を満たせば原則として受け取れる制度です。審査で採択・不採択が決まる補助金とは性格が異なります。

AIツールそのものの導入費用は、人材開発支援助成金の対象外です。パンフレットにも「AIツール導入費用は対象経費ではありません」と明記されています(出典:厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース」パンフレット)。ツールの導入費は、中小企業庁の「デジタル化・AI導入補助金2026」(旧IT導入補助金)など、別の制度で検討します(出典:中小企業庁「デジタル化・AI導入補助金2026」概要資料)。

事業展開等リスキリング支援コースの助成額・助成率

このコースの目的について、厚生労働省のパンフレットは次のように書いています。

新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、事業主が雇用する労働者に対して新たな分野で必要となる知識及び技能を習得させるための訓練を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成します。

出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」パンフレット(令和8年8月3日版)

「新たな分野で必要となる」という部分が大切です。今の業務の延長ではなく、新しい事業や、デジタル技術を使った業務の効率化などに伴う訓練であることを、計画届で説明できるかが問われます。

令和8年度のリーフレットによると、助成の内容は次のとおりです。

項目中小企業大企業
経費助成率75%60%
賃金助成(1人1時間あたり)1,000円500円
経費助成の上限(10時間以上100時間未満)1人30万円1人20万円
経費助成の上限(100時間以上200時間未満)1人40万円1人25万円
経費助成の上限(200時間以上)1人50万円1人30万円
1事業所あたりの年度の上限1億円1億円

※出典:厚生労働省「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」リーフレット(令和8年4月8日版)。

訓練時間は10時間以上が条件です。短い単発のセミナーは、そもそも対象になりません。

賃金助成は、所定の労働時間内に行った訓練が対象です。時間外や休日に受講させた分は対象になりません。また、リーフレットの注記では、eラーニング、通信制、定額制サービスによる訓練は経費助成のみで、賃金助成は対象外とされています(出典:厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース」リーフレット)。

2026年度からは、中小企業向けに「設備投資加算」も設けられました。要件を満たす場合に、訓練に関連する設備の導入費用の50%が加算されます。限度額は支給対象労働者1人につき15万円、10人以上の場合は人数にかかわらず150万円です(出典:厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース」リーフレット)。

2026年8月の改正で、AI研修の何が変わったか

2026年8月3日以降に提出する計画届から、事業展開等リスキリング支援コースのルールが変わりました。AI研修に関係する主な変更は2つです。

汎用的なAI研修は対象外に

厚生労働省の変更点の資料では、次のような訓練が対象外とされました(出典:厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について」)。

  • 職業、または職務に間接的に必要となる知識・技能を習得させる内容のもの
  • 職業、または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの

対象外の例として示されているのが、「生成AIを利用するために汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ訓練」です。理由は、特定の業務への具体的な適用を伴わない汎用的な内容だからとされています。DXの概念やGXの基本理念といった、概念の理解にとどまる訓練も同様です。

反対に、対象となる例として「生成AIを活用して商品提案書の構成案作成、文章生成、修正方法を学ぶ営業担当者向けの訓練」が示されています。営業担当者の具体的な業務に直結し、そのまま活用できる内容だからです。

つまり、誰に、どの業務で、何をできるようにするかが明確な訓練でなければ、対象になりにくくなりました。研修を職務に結びつけるには、企画の段階で次の3点を決めておくと整理しやすくなります。

  • 対象者:どの部署の、どの職種の社員が受けるか
  • 対象業務:提案書の作成、問い合わせへの回答、データの集計など、AIを使う具体的な業務は何か
  • 到達点:研修後に、その業務で何ができるようになるか

この3点が決まっていれば、計画届に書く訓練の目的や内容も具体的になります。

eラーニングは年度に1回まで

同じ社員が受講できる回数は、原則として1年度に3回までです。このうち、eラーニングによる訓練は、同一の労働者に対して1年度に1回までになりました。この回数には、2026年8月3日以降に提出された計画届に基づく訓練の受講だけが数えられます(出典:厚生労働省「令和8年8月3日からの変更点について」)。

なお、これらの変更には経過措置があります。8月3日より前に計画届を出していた場合などの扱いは、支給要領と管轄の労働局で確認してください。

改正前の情報に注意

インターネット上の解説記事には、改正前の情報のまま「プロンプト研修も対象」としているものがあります。2026年8月3日以降に計画届を出す場合は、最新の支給要領を前提に判断してください。

対象になるAI研修・ならないAI研修

改正後のルールとパンフレットをもとに、AI研修の可否の目安を表にまとめました。最終的な判断は労働局が行います。

AI研修が助成の対象になりうるもの、なりにくいもの、対象外のものを3つに分けた図
研修の内容対象になるかの目安理由
営業担当者が、生成AIで提案書を作成する方法を学ぶ対象になりうる職務に直接結びついている
経理担当者が、生成AIで請求データの確認作業を効率化する方法を学ぶ対象になりうる担当業務と習得内容が明確
全社員向けの「生成AIのプロンプト入門」対象外になりやすい汎用的な内容で、職務との結びつきが弱い
「DXとは何か」を学ぶ概念研修対象外になりやすい概念の理解にとどまる
購入したAIツールの操作方法だけを学ぶ対象外既存のシステムの操作方法の習得は対象外
コンサルタントによる個別の指導対象外パンフレットで対象外とされている
研修と一緒に導入したAIツールの費用対象外AIツール導入費用は対象経費ではない

表の下の3行は、パンフレットの次の記述が根拠です。

単に既存のアプリやシステムを購入してその操作方法を習得する場合や、コンサルタントによる指導は、対象になりません。

出典:厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース」パンフレット(令和8年8月3日版)

パンフレットでは、デジタル機器で文章や数値を入力したり、書式を変えたりする程度の初歩的な操作だけを学ぶ訓練も対象外とされています。ツールを入れたついでに操作説明会を開く、という形では助成を受けられないと考えておきます。

ポイントは、研修の企画段階で「どの部署の、どの業務に、どう使うか」を決めておくことです。研修会社のカリキュラムをそのまま使うのではなく、自社の業務に合わせて内容を調整できるかを確認します。

自社の業務を題材にして、実際に使う仕組みをつくりながら学ぶAIによる業務改善の集中プログラムのような形式は、職務との結びつきを説明しやすい形の一つです。助成の対象になるかは、内容ごとに労働局へ確認してください。

申請の流れとスケジュール

申請は、研修を始める前から準備が必要です。大まかな流れは次のとおりです。

社内の準備、計画届の提出、研修の実施、支給申請の4段階で進む申請の流れの図
  1. 社内の準備:職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を作って社員に周知する
  2. 計画届の提出:訓練開始日の6か月前から1か月前までに、管轄の労働局へ職業訓練実施計画届を提出する
  3. 研修の実施:計画どおりに研修を行い、受講の記録を残す
  4. 支給申請:訓練終了日の翌日から2か月以内に支給申請を行う
  5. 審査・支給:労働局の審査を経て、支給が決まれば振り込まれる

計画届の期限は、パンフレットで「訓練開始日の6か月前から1か月前までの間に計画届を労働局に提出すること」とされています。支給申請も、訓練終了日の翌日から起算して2か月以内に行わないと支給されません(出典:厚生労働省「事業展開等リスキリング支援コース」パンフレット)。

特に注意したいのが、計画届の期限です。研修開始の1か月前を過ぎると、その研修では申請できません。研修会社と日程を決める前に、逆算してスケジュールを組みます。

また、研修の費用は会社が全額を負担し、支給申請日までに支払っている必要があります。助成金は後払いのため、いったんは全額を立て替えることになります。

2026年5月14日には支給要領が改正され、受講料等の価格設定に関する疎明書の提出が求められるようになりました(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。パンフレットでも、内容が同じなのに助成金を申請する場合だけ受講料が著しく高く設定されているときは、差額が経費の算定から外れる場合があるとされています。返金やキャッシュバックで実質の負担が減る場合も、その分は対象外です。

費用の考え方:条件つきの計算例

実際にどのくらいの負担になるかを、次の条件で試算します。数字は仮定で、支給を約束するものではありません。

条件仮定
企業規模中小企業
受講者営業部門の社員10名(雇用保険の被保険者)
研修の形式社外の研修会社による集合研修(所定労働時間内)
訓練時間12時間
受講料1人10万円(合計100万円)

この条件で、すべての要件を満たした場合の計算は次のとおりです。

  • 経費助成:10万円 × 75% × 10名 = 75万円(1人あたりの上限30万円の範囲内)
  • 賃金助成:1,000円 × 12時間 × 10名 = 12万円
  • 助成額の合計:87万円

受講料100万円に対して、経費の実質負担は25万円です。賃金助成は研修中の人件費を補う性格のものなので、受講料の負担と分けて考えると判断を誤りにくくなります。

同じ研修をeラーニングで行った場合は、賃金助成がなくなります。また、研修の内容が汎用的だと判断されれば、助成自体を受けられません。計算例だけで予算を組まず、対象になるかを先に確かめることが大切です。

参考までに、厚生労働省の「令和7年度能力開発基本調査」では、企業がOFF-JTに支出した費用の労働者1人あたり平均額は2.0万円でした(出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」)。1人10万円の研修は平均的な水準よりかなり大きな投資です。助成金の有無にかかわらず、その投資に見合う業務の変化を見込めるかを考えておきます。

申請前のチェックリストと、助成金を使わないほうがよいケース

申請前のチェックリスト

  • 雇用保険の適用事業所で、受講者が被保険者か
  • 研修が10時間以上あるか
  • 研修の内容が、受講者の職務に直接結びついているか
  • 訓練開始日の1か月前までに計画届を出せる日程か
  • 職業能力開発推進者を選任し、事業内職業能力開発計画を周知したか
  • 研修は所定の労働時間内に行うか(賃金助成を受ける場合)
  • 研修費を会社が全額負担し、立て替えられる資金があるか
  • 研修会社は、受講記録や修了の証明を出せるか
  • 研修会社と自社で、申請書類を作る役割分担を決めたか

研修会社を選ぶときの確認ポイント

  • 自社の業務に合わせて、カリキュラムを調整できるか
  • 訓練時間、実施形式、講師の情報を、計画届に書ける形で示せるか
  • 受講の記録や修了の証明を出せるか
  • 受講料の内訳と、価格設定の根拠を説明できるか
  • 「助成金で実質無料」など、返金やキャッシュバックを前提にした提案をしていないか

最後の項目は特に注意が必要です。実質の負担を減らす返金などがある場合、その分は助成の対象になりません。

助成金を使わないほうがよいケース

  • すぐに研修を始めたい場合:計画届は開始の1か月前までが期限です。急ぎの場合は、助成金を待たずに実施したほうが機会を逃さないこともあります。
  • 全社員に基礎を広く学ばせたい場合:汎用的な内容は対象外になりやすく、助成を前提にすると研修の目的がずれます。
  • 事務の手間をかけられない場合:計画届、受講記録、支給申請と書類が多く、担当者の工数がかかります。研修費が少額なら、手間に見合わないこともあります。
  • 助成金ありきで研修を選んでいる場合:研修の目的は業務の改善です。助成率の高さではなく、業務で使えるようになるかで選ぶのが本来の順番です。

社内でできることとして、まず数名で業務への使い方を試し、効果が見えた業務に絞って研修を組む方法もあります。対象業務が絞れていると、研修の内容も職務に結びつけやすくなります。

少額で基礎を学びたい場合は、公的な訓練も選択肢です。高齢・障害・求職者雇用支援機構の生産性向上人材育成支援センターでは、中小企業等向けの生産性向上支援訓練を1人あたり3,300円〜6,600円(IT業務改善のコースは2,200円〜4,400円)で行っているとしています(出典:高齢・障害・求職者雇用支援機構「生産性向上人材育成支援センターのご案内」)。

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ツナグバで、AI研修のサービスを比べる

ツナグバは、BtoBのサービスを無料で比べられる掲載サイトです。気になるサービスの資料を、複数まとめて無料で請求できます。

AI研修や社員教育では、次のようなサービスを掲載しています。

  • 生成AIの活用を学ぶ社員研修:代表的な生成AIツールの使い方を、業務での活用例とあわせて学ぶ研修です。社員のAIスキルを底上げしたい企業に向いています。
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  • 手を動かしながら学ぶ、AIによる業務改善の集中プログラム:自社の業務を題材に、実際に使える仕組みをつくりながら学ぶプログラムです。
  • 多機能なeラーニングサービス:研修動画の配信や受講管理ができ、用意された講座と自社独自の研修の両方に使えます。

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  • 使うときの注意点も学べる:誤った答えが出ることや、情報の扱いなどの注意点を学びます。社内で安全に使うための基礎になります。

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  • 安全な使い方のルールにも触れる:入れてはいけない情報や、答えをそのまま使わず確認する大切さを学びます。社内ルールづくりのきっかけになります。

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よくある質問

プロンプト研修は、リスキリング助成金の対象になりますか?

2026年8月3日以降に計画届を出す場合、汎用的なプロンプトの作り方を学ぶ研修は対象外とされています。営業の提案書作成など、特定の職務に結びつけた内容であれば対象になりうるため、内容を調整したうえで労働局に確認してください。

eラーニングのAI研修は対象になりますか?

要件を満たせば経費助成の対象になりえます。ただし賃金助成はありません。また、同じ社員のeラーニングによる訓練は、1年度に1回までです。

事業展開等リスキリング支援コースは、いつまで使えますか?

厚生労働省の資料では、令和4年度から令和8年度までの期間限定の制度とされています。2027年3月末までが期限で、その後の扱いは今後の発表を確認する必要があります。

研修を始めてから申請できますか?

できません。訓練開始日の6か月前から1か月前までに、計画届を管轄の労働局へ提出する必要があります。

AIツールの導入費用も助成されますか?

人材開発支援助成金では、AIツールの導入費用は対象経費ではありません。ツールの導入には、デジタル化・AI導入補助金2026など別の制度を検討します。

参考資料