在宅勤務を続けているものの、ルールは社内の通知やメールだけ。そんな会社は少なくありません。誰が在宅勤務をできるのか、通信費は誰が負担するのか、勤務中に私用で抜けた時間をどう扱うのか。決めていないことが増えるほど、社員の間で不公平感が生まれます。

この記事では、在宅勤務規程の作り方を、厚生労働省のテレワークモデル就業規則とガイドラインをもとに整理します。

就業規則の変更が必要になる場合、規程に定める項目、労働時間と費用負担の決め方、届出と周知の手順の順に説明します。規程を作る前の確認に使ってください。

在宅勤務規程とは|就業規則との関係

在宅勤務規程は、社員が自宅などで働くときのルールをまとめた社内規程です。テレワーク勤務規程と呼ぶこともあります。就業規則の一部として扱われるため、作り方や手続きは就業規則と同じ考え方で進めます。

就業規則そのものの作成と届出については、厚生労働省が次のように説明しています。

常時10人以上の従業員を使用する使用者は、労働基準法(昭和22年法律第49号)第89条の規定により、就業規則を作成し、所轄の労働基準監督署長に届け出なければならないとされています。

出典:厚生労働省「モデル就業規則について」

常時10人以上の会社が在宅勤務規程を新しく作る場合は、就業規則の変更として労働基準監督署長への届出が必要です。10人未満の会社に届出の義務はありませんが、ルールを書面にしておくと、社員への説明や後のトラブルの防止に役立ちます。

就業規則の変更が必要になる場合

在宅勤務のたびに必ず就業規則を変える必要があるわけではありません。厚生労働省の手引きは、労働時間や労働条件が通常の勤務と同じであれば、今の就業規則のまま在宅勤務を行える場合があるとしています。そのうえで、次のように述べています。

しかし、例えば従業員に通信費用を負担させるなど通常勤務では生じないことがテレワーク勤務に限って生じる場合があり、その場合には、就業規則の変更が必要となります。

出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」

実際には、通信費や光熱費の負担、始業と終業の報告の方法、中抜けの扱いなど、在宅勤務に特有の決めごとはほぼ必ず出てきます。小さな会社でも、在宅勤務を制度として続けるなら、規程を作っておくほうが運用は安定します。

手引きは、テレワークの定めを就業規則の本体に書き込むか、別の規程にするかは会社が決めてよいとしたうえで、分かりやすさの点から別の規程にする方法をすすめています(出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」)。別の規程にする場合は、就業規則の本体に「在宅勤務については別に定める」という委任の条文を入れておきます。

在宅勤務を取り巻く状況|導入企業は5割に

総務省の令和7年通信利用動向調査によると、テレワークを導入している企業の割合は50.1%で、前年の47.3%から増えました(出典:総務省「令和7年通信利用動向調査の結果」)。この調査の企業編は、常用雇用者が100人以上の企業を対象にしています(出典:総務省「令和7年通信利用動向調査(企業編)の概要」)。

テレワークを導入している企業の割合が令和6年の47.3%から令和7年の50.1%に増えたことを示す棒グラフ

法律の面でも、在宅勤務の位置づけは変わりつつあります。令和6年に改正された育児・介護休業法では、3歳未満の子を養育する労働者や、要介護状態の家族を介護する労働者がテレワークを選べるようにする措置が、令和7年4月1日から事業主の努力義務になりました(出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)。

さらに令和7年10月1日からは、3歳から小学校に入る前の子を養育する労働者について、事業主が5つの選択肢から2つ以上の措置を選んで講じる必要があります。選択肢の1つが、月10日以上利用できるテレワーク等です(出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」)。この措置としてテレワークを選ぶ会社は、対象者や利用の日数を規程で明確にしておく必要があります。

在宅勤務規程の作り方|5つの手順

在宅勤務規程は、ひな形を写すだけでは自社の実態に合いません。次の手順で進めると、運用できる規程になります。

在宅勤務規程を作る5つの手順として、目的と対象、現状の洗い出し、案の作成、意見の聴取、届出と周知を示した図

1. 目的と対象を決める

在宅勤務を何のために行うのかを決めます。通勤の負担を減らす、育児や介護と両立しやすくする、災害時にも業務を続ける、といった目的によって、対象者や回数の決め方が変わります。

厚生労働省のガイドラインは、テレワークが難しいと考えられる業種・職種であっても、個別の業務によっては実施できる場合があるとしています(出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。職種で一律に線を引くのではなく、業務の単位で在宅でできるものを洗い出します。

2. 現状の働き方とルールを洗い出す

すでに在宅勤務をしている会社は、実際の運用を確かめます。誰が、週に何日、どのような手続きで在宅勤務をしているか。費用の精算や勤怠の記録はどうしているか。メールや口頭で決めてきたルールを集めると、規程に書くべきことが見えてきます。

3. 規程の案を作る

厚生労働省のテレワークモデル就業規則を土台に、自社の実態に合わせて案を作ります。モデルの条文をそのまま使うのではなく、自社で運用できない項目は書き換えます。

4. 社員の意見を聴く

就業規則を作ったり変えたりするときは、労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者の意見を聴く必要があります。費用の負担や対象者の範囲は、社員の受け止め方が分かれやすい項目です。案の段階で説明の場を設けると、運用が始まってからの不満を減らせます。

5. 届け出て、周知する

常時10人以上の会社は、意見書を添えて労働基準監督署長に届け出ます。就業規則を変える場合も届出が必要です(出典:厚生労働省「モデル就業規則について」)。届け出たあとは、社内の共有フォルダに置くなど、社員がいつでも見られる状態にして周知します。

在宅勤務規程に定める主な項目

厚生労働省のテレワークモデル就業規則は、在宅勤務規程を、総則、許可と利用、労働時間、勤務、給与等の章に分けて定めています(出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」)。主な項目と、決めるときの注意点を整理します。

厚生労働省のテレワークモデル就業規則の章立てと主な条文をまとめた表
項目定める内容の例決めるときの注意点
目的・定義在宅勤務の目的、在宅勤務を行う場所の範囲自宅以外(実家、サテライトオフィス)を認めるか
対象者勤続期間、職種、本人の希望、上司の許可正社員と非正規の社員で不合理な差をつけない
申請・許可申請の期限、許可する人、取り消しの条件手続きが重すぎて使われない状態を避ける
服務規律情報の持ち出し、作業場所、私用の禁止情報セキュリティのルールと合わせる
労働時間始業・終業の時刻、報告の方法、中抜け時間の記録の方法を具体的に決める
費用負担通信費、光熱費、機器、事務用品社員に負担させるなら必ず規程に書く
安全衛生・教育作業環境の確認、健康相談、研修孤立しない連絡の仕組みもあわせて作る

対象者と申請の手続き

対象者は、「入社後一定の期間がたった人」「上司が許可した人」のように決めるのが一般的です。ただし、雇用の形態だけを理由に対象から外すと問題になることがあります。ガイドラインは、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間で、あらゆる待遇について不合理な待遇差を設けてはならないとしています(出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。

服務規律と情報セキュリティ

在宅勤務では、書類やデータを社外に持ち出すことになります。業務に使う機器、家族と共用しないこと、公共の場所での作業の可否などを決めておきます。総務省は、テレワークセキュリティガイドライン第5版と、中小企業の担当者向けのチェックリストを公表しています(出典:総務省「テレワークにおけるセキュリティ確保」)。規程には基本の原則を書き、細かな手順は別のマニュアルにすると、技術の変化に合わせて直しやすくなります。

安全衛生と連絡の体制

自宅で働く社員は、上司や同僚と顔を合わせる機会が減ります。体調の変化や仕事の悩みに気づきにくくなるため、定期的な面談や朝の短い打ち合わせなど、連絡の方法を決めておきます。

作業する机や椅子、照明などの環境は、社員本人に確かめてもらう形が現実的です。確かめる項目を一覧にして渡し、在宅勤務を始める前に回答してもらうと、無理な姿勢での長時間の作業を防ぐきっかけになります。

労働時間と中抜けの決め方

在宅勤務でも、労働時間の考え方は会社で働くときと変わりません。会社は社員の労働時間を把握する必要があります。規程では、始業と終業をどう報告するか(メール、チャット、勤怠の記録など)を具体的に決めます。

迷いやすいのが、勤務の途中で私用のために仕事を離れる「中抜け」です。ガイドラインは、中抜け時間を把握しない場合には、始業及び終業の時刻の間の時間について、休憩時間を除き労働時間として取り扱うとしています(出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。

中抜けを認める場合は、休憩時間として扱って終業の時刻を後ろにずらすのか、時間単位の年次有給休暇として扱うのかを決めておきます。どちらにするかで、社員の報告の方法も変わります。

時間外労働は、会社で働くときと同じく、事前の申請と許可を原則にします。夜間や休日のメールへの対応を求めない、といったルールも規程やマニュアルに書いておくと、長時間労働を防ぎやすくなります。

通信費・光熱費など費用負担の決め方

費用の負担は、在宅勤務規程で最も揉めやすい項目です。ガイドラインは、労使のどちらがどのように負担するか、使用者が負担する場合の限度額、請求の方法などを、あらかじめ労使で十分に話し合うよう求めています(出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」)。同じガイドラインは、社員に負担させる場合の規程について次のように述べています。

特に、労働者に情報通信機器、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合には、当該事項について就業規則に規定しなければならないこととされている

出典:厚生労働省「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」

つまり、「自宅のネット回線の費用は本人負担」とするなら、それを規程に書かなければなりません。書かないまま負担させることはできないと考えておきます。

モデル就業規則は、会社が貸与する機器の通信費や、業務に必要な郵送費・事務用品費は会社負担とし、水道光熱費は本人負担とする例を示しています。そのうえで、水道光熱費や通信費のうち業務に相当する分を、毎月定額の在宅勤務手当として支払う例も載せています(出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」)。

在宅勤務手当と税の扱い

手当の払い方によって、所得税の扱いが変わります。国税庁は、在宅勤務に通常必要な費用を実際にかかった額で精算して支給する金銭は、給与として課税しなくてよいとしています。一方、使わなかった分を返さなくてよい定額の手当は、給与として課税が必要です(出典:国税庁「在宅勤務に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」)。

定額の手当は運用が楽な反面、社員の手取りに対する税や社会保険料の影響があります。実費精算は非課税にできる反面、計算の手間がかかります。どちらを選ぶかは、対象の人数と事務の負担で判断します。

通勤手当の見直し

在宅勤務の日が多い社員に、定期代を支給し続けるかも決めておきます。モデル就業規則には、在宅勤務が週4日以上になる場合は、定額ではなく通勤の実費を支給する例があります(出典:厚生労働省「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」)。変更は社員の不利益になりうるため、意見を聴いたうえで、切り替えの時期を決めます。

規程を作る前のチェックリスト

在宅勤務規程の案ができたら、次の点を確かめます。

  • 在宅勤務の目的と、対象者の条件を書いた
  • 在宅勤務を行う場所の範囲を決めた
  • 申請と許可、取り消しの手続きを決めた
  • 始業・終業の報告と、中抜けの扱いを決めた
  • 社員に負担させる費用を規程に書いた
  • 在宅勤務手当の払い方と税の扱いを確かめた
  • 情報セキュリティのルールと照らし合わせた
  • 2024年4月からの労働条件の明示事項に合わせ、就業場所の変更の範囲を見直した

最後の項目について補足します。2024年4月から、労働条件の明示のルールが改正され、すべての労働者に対する明示事項が追加されました。就業場所と業務の変更の範囲もその1つです(出典:厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」)。在宅勤務を行う可能性がある社員は、雇用契約書や労働条件通知書の就業場所の書き方も確かめておきます。

自社で作るか、外部に相談するか

社員が少なく、在宅勤務の対象や回数が限られている会社なら、モデル就業規則を土台に自社で作ることも十分にできます。ガイドラインと手引きは無料で読め、条文の例もそろっています。

一方、フレックスタイム制や事業場外みなし労働時間制など、労働時間の制度もあわせて変える場合や、費用負担の変更が社員の不利益にあたるかの判断に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家に相談するほうが安全です。

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在宅勤務の制度を整えると、通勤できる範囲にいない人も採用の対象にできます。規程を作る目的に採用の幅を広げることが含まれるなら、規程づくりと並行して、在宅勤務を前提とした募集の方法も考えておくとよいでしょう。

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在宅勤務規程は、就業規則と別に作ってもよいですか?

別に作ってかまいません。厚生労働省の手引きも、分かりやすさの点から別の規程にする方法をすすめています。その場合も就業規則の一部として扱われるため、意見の聴取や届出が必要です。

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参考資料