オフィスの電気が止まると、パソコンや照明だけでなく、インターネット、電話、入退室の仕組みまで使えなくなることがあります。普段は意識しない分、いざ停電すると何から手をつければよいか迷いがちです。

停電対策というと発電機や蓄電池を思い浮かべますが、すべての設備を動かし続けるのは現実的ではありません。大切なのは、止まると困る業務を決め、そこから必要な備えを逆算することです。

この記事では、会社・オフィスの停電対策を、過去の大規模停電の例、BCP(事業継続計画)の考え方、具体的な対策、停電時と復旧時の行動に分けて整理します。最後に、社内で確認できるチェックリストも用意しました。

内容は2026年10月25日に、内閣府、中小企業庁、資源エネルギー庁、経済産業省などの公開資料で確認したものです。

オフィスの停電で、何が止まるのか

停電の影響は、電気で動くものすべてに及びます。オフィスで起こりやすいのは、次のような影響です。

  • パソコンやサーバーが止まり、作業中のデータが失われる
  • ルーターや回線の機器が止まり、インターネットやクラウドのサービスが使えなくなる
  • 電話の機器が止まり、外線や内線が使えなくなる
  • 照明、空調、エレベーター、入退室の仕組みが止まる
  • ビルによっては、給水ポンプが止まって水が使えなくなる

見落としやすいのが通信です。社内のパソコンをノートパソコンに替えていても、ルーターや回線の機器に電気が来なければ、インターネットにはつながりません。クラウドのサービスを使っていても、オフィスからは使えない状態になります。

過去には、エリア全域の停電も起きている

停電は、落雷や設備の故障による短いものから、災害による長期のものまでさまざまです。2018年の北海道胆振東部地震では、資源エネルギー庁のエネルギー白書で次のように記録されています。

3時7分の地震発生にともない、3時25分には北海道エリアにおいて日本で初めてとなるエリア全域におよぶ大規模停電(ブラックアウト)が発生し、北海道全域において約295万戸の電力供給が停止しました。

出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2019 第1部 第3章 第1節 2018年に発生した主な災害の概要」

同じ2018年には台風による大規模な停電も起きています。台風第21号では、ピーク時に全国で約240万戸、関西電力管内で約170万戸が停電し、復旧までに2週間以上かかりました。台風第24号でも、全国で最大約180万戸が停電しています(出典:資源エネルギー庁「エネルギー白書2019 2018年に発生した主な災害の概要」)。

2018年の北海道胆振東部地震、台風第21号、台風第24号による停電の規模を戸数で比べた棒グラフ

数時間で戻る停電もあれば、数日以上続く停電もあります。停電対策を考えるときは、「どのくらいの時間止まったら、何が困るのか」を時間の長さごとに考えておくと整理しやすくなります。

停電の長さごとに、困ることと備えを整理する

停電の長さによって、困ることも有効な備えも変わります。目安として、次のように分けて考えておくと便利です。

停電の長さ起こりやすいこと主な備え
一瞬〜数秒パソコンやサーバーが落ち、作業中のデータが失われるUPS(無停電電源装置)、データの自動保存
数分〜数時間通信や電話が止まり、取引先と連絡がとれない通信機器の電源確保、回線のバックアップ、携帯電話での連絡手段
半日〜数日空調や照明が使えず、オフィスで働けないテレワークへの切り替え、拠点の代替、備蓄、ポータブル電源や発電機

この表の時間の区切りは、考えるための目安です。実際にどこまで備えるかは、業務の内容と、止まったときの損失の大きさで決めます。

BCPの中で停電対策を考える

停電対策は、単独で考えるより、BCP(事業継続計画)の一部として考えるほうが抜け漏れが少なくなります。中小企業庁は、BCPを次のように説明しています。

BCP(事業継続計画)とは、企業が自然災害、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法

出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 1.1 BCP(事業継続計画)とは」

中小企業庁は、緊急事態は突然起こるため、有効な手を打てなければ、経営基盤の弱い中小企業は廃業に追い込まれるおそれがあるとしています(出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 1.1 BCP(事業継続計画)とは」)。停電は、地震や台風などの災害に伴って起きることが多く、BCPで想定する事態の中でも起こりやすいものの一つです。

中小企業庁は、緊急時に倒産や事業の縮小を余儀なくされないためには、平常時から備えておき、事業の継続や早期の復旧を図ることが重要だとしています(出典:中小企業庁「中小企業BCP策定運用指針 1.1 BCP(事業継続計画)とは」)。停電対策も、電気が止まってから考えるのでは間に合いません。

内閣府の事業継続ガイドラインは、2023年3月の改定で、テレワークの活用や、オンラインで意思決定を行える仕組みの整備、情報セキュリティの強化などへの言及を増やしています(出典:内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月))。オフィスが停電しても、社員が別の場所で仕事を続けられれば、影響を小さくできます。

同じガイドラインでは、被災時に救護や避難の場所になる可能性が高い施設を持つ企業について、自家発電や自家水源、代替燃料などを平常時から確保しておくことが望ましいとしています(出典:内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月))。

また、ガイドラインでは、事前に取り組む対策の一つとして、電力などの設備やライフラインの確保にも触れています(出典:内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月))。一般のオフィスでは、自家発電を持つより、止まったときに業務をどう続けるかを決めておくことが現実的な第一歩です。

停電対策の進め方

停電対策は、設備を買うところから始めると、費用がかさむわりに肝心なところが抜けがちです。次の順で進めると、必要な備えが絞り込めます。

停電対策の進め方を、止まると困る業務の洗い出し、必要な機器と許容時間の決定、対策の組み合わせ、訓練と点検の4段階で示した図
  1. 止まると困る業務を洗い出す(受注、出荷、問い合わせ対応、給与支払いなど)
  2. その業務に必要な機器と、止まってよい時間を決める
  3. 機器ごとに、電源・データ・通信・場所の対策を組み合わせる
  4. 手順を文書にし、年に1回は訓練と点検をする

たとえば「問い合わせ対応を止めたくない」なら、必要なのは電話とインターネットです。オフィスの電話機とルーターを動かし続けるか、携帯電話やテレワークに切り替えるかを決めれば、用意すべきものが見えてきます。

具体的な停電対策

ここからは、オフィスでよく使われる対策を、目的ごとに紹介します。すべてを用意する必要はありません。進め方で決めた優先順位にそって選んでください。

UPS(無停電電源装置)で、データとシステムを守る

UPSは、停電したときに内蔵のバッテリーから電気を送り、機器を動かし続ける装置です。多くの場合、長時間動かすためのものではなく、データを保存して安全に機器を止めるまでの時間を稼ぐために使います。

サーバー、ネットワーク機器、デスクトップパソコンなど、急に電源が切れると困る機器につなぎます。バッテリーには寿命があるため、交換の時期を管理しておくことが欠かせません。

データはクラウドとバックアップで守る

停電でパソコンが止まっても、データがクラウドや別の場所に保存されていれば、復旧後や別の場所で作業を続けられます。ファイルの自動保存や、定期的なバックアップの設定を確認しておきましょう。

通信の手段を複数持つ

停電でオフィスの回線が使えなくなったときのために、携帯電話の回線やモバイルルーターなど、別の手段を用意しておくと安心です。取引先や社員との連絡手段を、電話、メール、チャットなど複数決めておくことも大切です。

停電だけでなく、回線の障害でもインターネットは止まります。メインの回線が止まったときに予備の回線へ自動で切り替えるインターネット回線のバックアップのようなサービスもあります。ただし、停電時に使うには、ルーターなどの通信機器にも電気が必要です。UPSなどの電源の備えと組み合わせて考えてください。

テレワークや別の拠点に切り替える

停電が長引きそうなときは、オフィスで設備を動かし続けるより、社員が自宅や別の拠点で仕事を続けるほうが早いこともあります。内閣府の事業継続ガイドラインも、2023年3月の改定でテレワークの活用への言及を増やしています(出典:内閣府「事業継続ガイドライン」(令和5年3月))。

切り替えるためには、ノートパソコンの持ち帰りのルール、社外から社内のシステムに入る方法、連絡の取り方を、平常時に決めておく必要があります。一度も試していない手順は、いざというときに動きません。年に1回程度、実際に切り替えてみると課題が見つかります。

ポータブル電源や発電機は、安全な使い方を前提に

長時間の停電に備えて、ポータブル電源や発電機を用意する会社もあります。ただし、発電機の使い方を誤ると重大な事故につながります。経済産業省、消費者庁、NITE(製品評価技術基盤機構)は、停電時の発電機による一酸化炭素中毒について、次のように注意を呼びかけています。

発電機運転中の排ガスには一酸化炭素が含まれており、屋内で使用すると一酸化炭素中毒になるおそれがあります。

出典:NITE「停電時の発電機によるCO中毒や、復旧後の通電火災に注意!」(2023年8月29日)

2024年8月にも、経済産業省が消費者庁とNITEと同時に、携帯発電機やポータブル電源の事故と、停電復旧後の通電火災について注意喚起を行っています。発電機は屋内で絶対に使わず、自動車の中やテントの中も避け、排ガスが入り込まない風通しのよい屋外で使うよう呼びかけています(出典:経済産業省「災害時にも活躍する携帯発電機やポータブル電源の事故と停電復旧後の通電火災に注意!」(2024年8月27日))。

NITEの資料でも、自動車の中やテントの中は屋内と同じかそれ以上に危険だとされています(出典:NITE「停電時の発電機によるCO中毒や、復旧後の通電火災に注意!」(2023年8月29日))。

オフィスビルでは、発電機を安全に置ける屋外の場所がないことも多くあります。その場合は、無理に発電機を用意するより、ポータブル電源で最低限の機器を動かすか、別の場所での業務に切り替えるほうが現実的です。

照明・備蓄と、ビルの設備を確認する

懐中電灯やランタン、携帯ラジオ、モバイルバッテリーは、停電時にまず必要になるものです。机の引き出しや決まった場所に置き、電池の残量を定期的に確かめます。

首相官邸は、ライフラインが止まった場合に備えて、飲料水は1人1日3リットルを目安に3日分、食料も3日分を用意し、大規模災害時には1週間分の備蓄が望ましいとしています(出典:首相官邸「災害が起きる前にできること」)。社員がオフィスにとどまる場合を考えて、人数分を見積もっておきましょう。

テナントとして入居している場合は、ビルの非常用電源が何に使われるのか、エレベーターや給水が停電時にどうなるのかを、ビルの管理会社に確認しておくと安心です。

停電対策の費用の考え方

停電対策の費用は、備える範囲によって大きく変わります。UPSやポータブル電源は機器の台数と容量、回線のバックアップは回線の種類と契約の内容、備蓄は人数と日数で決まります。一律の相場はないため、見積もりは自社の条件で取るのが確実です。

かけるべき費用の目安は、止まったときの損失から考えます。たとえば「受注が1時間止まると、いくらの売上を逃すか」「何時間までなら取り戻せるか」を見積もり、その損失より小さい費用で防げる対策から優先します。

もう一つ忘れやすいのが、維持の費用です。UPSのバッテリー交換、備蓄品の入れ替え、回線の月額料金など、毎年かかる費用も含めて比べると、続けられる対策を選べます。

停電したとき、復旧したときの行動

停電したときと、電気が戻ったときの行動を決めておくと、二次的な事故を防げます。NITEは、停電時と復旧後について次のような点を挙げています(出典:NITE「停電時の発電機によるCO中毒や、復旧後の通電火災に注意!」(2023年8月29日))。

  • 停電したら、時間があれば分電盤のブレーカーを切る
  • 電気ストーブなどの電熱器具は、電源プラグをコンセントから抜いておく
  • 復旧後は、製品の外観に異常がないかを確かめる
  • ブレーカーを入れたら、機器を1台ずつコンセントにつないで様子を見る
  • 異音や異臭があれば使用をやめ、メーカーや販売店に相談する

オフィスでは、停電時に誰がブレーカーを確認するか、誰がサーバーを止めるか、誰が社員の安否と業務の状況をまとめるかを、あらかじめ決めておきます。担当者が不在のときの代わりも決めておくと、実際の停電で慌てずに済みます。

停電対策のチェックリスト

最後に、社内で確認しておきたい項目をまとめます。できていない項目から、優先順位の高い順に手をつけてください。

会社の停電対策で確認したい8項目をまとめたチェックリスト
  • 停電で止まると困る業務と、止まってよい時間を決めている
  • サーバー、ネットワーク機器にUPSをつなぎ、バッテリーの交換時期を管理している
  • データをクラウドや別の場所にバックアップしている
  • インターネットや電話が止まったときの連絡手段を複数決めている
  • テレワークに切り替える手順と、必要な機器を用意している
  • 懐中電灯、ラジオ、モバイルバッテリー、水や食料を人数分備えている
  • 停電時と復旧時の担当者と手順を決め、訓練している
  • ビルの管理会社に、停電時の設備の動きを確認している

大がかりな設備がいらないケース

社員が少なく、業務の多くをノートパソコンとクラウドのサービスで行っている会社では、大がかりな設備を入れなくても、テレワークへの切り替えと連絡手段の確保で十分なことがあります。

一方で、店舗や工場、受注や出荷が止まると損失が大きい会社では、電源と通信の備えに投資する価値があります。どこまで備えるかは、止まったときの損失と、備えにかかる費用を比べて決めましょう。

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よくある質問

小さなオフィスでも、停電対策は必要ですか?

必要な程度は会社によって違います。社員が少なく、ノートパソコンとクラウドで仕事をしている会社なら、連絡手段の確保とテレワークへの切り替え手順を決めておくだけでも効果があります。止まると困る業務から逆算して、必要な分だけ備えてください。

UPSがあれば、停電中も仕事を続けられますか?

多くのUPSは、データを保存して機器を安全に止めるまでの時間を稼ぐためのものです。長時間の停電の間も仕事を続けたい場合は、テレワークや別の拠点への切り替えなど、ほかの対策と組み合わせて考えます。

発電機をオフィスの中で使ってもよいですか?

使ってはいけません。発電機の排ガスには一酸化炭素が含まれ、屋内で使うと一酸化炭素中毒になるおそれがあります。経済産業省などは、屋内や自動車の中、テントの中で使わず、風通しのよい屋外で使うよう呼びかけています。

停電から復旧したとき、すぐに機器の電源を入れてよいですか?

復旧後は、製品の外観に異常がないかを確かめ、ブレーカーを入れてから、機器を1台ずつつないで様子を見るよう呼びかけられています。異音や異臭があれば、使用をやめて相談してください。

参考資料