「教える人によって新人の育ち方が違う」「忙しくて教える時間が取れない」「せっかく育てても辞めてしまう」。

社員教育の悩みは、多くの場合、教える人の頑張りに頼っていることから生まれます。

社員教育を仕組み化するとは、誰が教えても一定の水準まで育つように、教える内容・順番・方法・確かめ方を決めておくことです。

この記事では、最新の公的調査で社員教育の現状を確認したうえで、仕組み化の手順を6つのステップで整理し、eラーニングや社内講師の使い方、費用と助成金の考え方、向いていないケースまでをまとめます。

社員教育の現状:多くの事業所が育成に課題を抱えている

厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」(2026年7月公表)によると、正社員に対してOFF-JT(職場を離れて行う研修など)を実施した事業所は70.9%、計画的なOJT(職場で仕事を通じて行う教育)を実施した事業所は60.6%でした(出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」)。

正社員にOFF-JTを実施した事業所の割合を企業規模別に示し、30〜49人で53.0%、1,000人以上で85.4%と規模が小さいほど低いことを示す棒グラフ

一方で、能力開発や人材育成に何らかの問題があるとした事業所は80.1%にのぼります。

人材育成の問題点(複数回答)割合
指導する人材が不足している59.5%
人材を育成しても辞めてしまう51.6%
人材育成を行う時間がない45.5%

出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」

また、正社員にOFF-JTを実施した事業所の割合は企業規模によって差があり、30〜49人で53.0%、50〜99人で65.5%、100〜299人で79.6%、300〜999人で85.2%、1,000人以上で85.4%でした(出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」)。

規模の小さい会社ほど、教える人と時間が限られる中で教育を回す工夫が求められていることが分かります。

育成の計画づくりも、まだ多くの会社で進んでいません。同じ調査では、事業内職業能力開発計画を「いずれの事業所においても作成していない」企業が79.8%、職業能力開発推進者を「いずれの事業所においても選任していない」企業が82.2%でした(出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」)。

社員教育を仕組み化するとは

仕組み化された社員教育とは、次の4つが決まっている状態です。

社員教育の仕組み化で決めておく4つのこととして、何を教えるか、どの順番で教えるか、どう教えるか、どう確かめるかを示した図
決めておくこと内容決まっていないと起きやすいこと
何を教えるか役割ごとに必要な知識・スキル・行動教える人によって内容がばらつく
どの順番で教えるか入社からの期間ごとの到達目標新人が何から覚えればよいか分からない
どう教えるかOJT、研修、動画、マニュアルの使い分け教える人の負担が大きくなる
どう確かめるか理解度の確認、振り返りの面談できるようになったかが分からない

仕組み化の目的は、教える人の負担を減らし、教わる人が迷わず成長できるようにすることです。

人が教えることをなくすのではなく、人が教えるべきことに時間を使えるようにする取り組みといえます。

計画的な育成は、法律でも事業主の努力義務とされています。職業能力開発促進法は、次のように定めています。

事業主は、その雇用する労働者に係る職業能力の開発及び向上が段階的かつ体系的に行われることを促進するため、第九条から第十条の四までに定める措置に関する計画を作成するように努めなければならない。

出典:e-Gov法令検索「職業能力開発促進法」

同じ法律は、計画の作成や社員への相談・指導を担う「職業能力開発推進者」を選ぶよう努めることも定めています(出典:e-Gov法令検索「職業能力開発促進法」)。この記事で紹介する6つのステップは、こうした計画を自社に合う形で作る手順でもあります。

仕組み化しないと起きやすいこと

教育が特定の人に頼っていると、次のような問題が起きやすくなります。

  • 教える人が忙しい時期や、異動・退職したときに、教育が止まる
  • 教える人によって内容や厳しさが違い、新人の成長に差が出る
  • 同じ質問に何度も答えることになり、教える人の負担が増える
  • 新人が「放置されている」と感じ、早期離職につながる
  • 業務の手順が人の頭の中にしかなく、改善や引き継ぎが難しい

早期の離職は、多くの会社に共通する課題です。厚生労働省の調査では、2022年3月に大学を卒業して就職した人の33.8%、高校を卒業して就職した人の37.9%が、就職後3年以内に離職しています(出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)を公表します」)。

入社後の数か月で「何をどこまでできればよいか」が見えないことは、離職の一因になりえます。教育の仕組み化は、定着の取り組みでもあります。

社員教育を仕組み化する6つのステップ

ここからは、中小企業でも取り組みやすい手順を順に説明します。

社員教育を仕組み化する6つのステップを、棚卸しから振り返りと改善まで順に示した表

ステップ1:役割ごとに必要なことを棚卸しする

まず、職種や役割ごとに、仕事で必要な知識・スキル・行動を書き出します。

できる社員に「新人のころ何でつまずいたか」「今は何を意識しているか」を聞くと、教えるべきことが見えてきます。

すべてを書き出す必要はありません。まずは入社から3か月で必要なことに絞ると進めやすくなります。

書き出しの下書きには、厚生労働省の「職業能力評価基準」を使う方法もあります。業種別、職種・職務別に、仕事に必要な知識・技術・技能と、成果につながる職務行動例が整理されています(出典:厚生労働省「職業能力評価基準導入マニュアル」)。

ステップ2:到達目標と順番を決める

棚卸しした内容を、「入社1週間」「1か月」「3か月」「半年」などの期間ごとに並べます。

期間ごとに「何ができればよいか」を具体的な行動で書いておくと、教える人も教わる人も進み具合を確かめやすくなります。

期間到達目標の例
入社1週間会社の方針と就業ルールを理解し、使うツールにログインして基本操作ができる
入社1か月先輩の同行のもとで、基本の業務を手順どおりに進められる
入社3か月定型の業務を一人で進め、困ったときに適切に相談できる
入社半年自分の担当業務を一人で完結し、改善の提案ができる

ステップ3:教え方を使い分ける

次に、内容ごとに最適な教え方を決めます。

すべてを人が直接教える必要はなく、繰り返し使える内容は教材にしておくと、教える人の負担が減ります。

教え方向いている内容注意点
OJT(仕事を通じた指導)現場での判断、顧客対応、実際の業務の進め方教える人によって差が出やすいため、教える項目を決めておく
集合研修・外部研修考え方、ビジネスの基礎、管理職の役割受けて終わりにならないよう、現場で使う場面を用意する
eラーニング・動画ルール、手順、ツールの操作など、何度も同じことを教える内容視聴して終わりにならないよう、確認テストや実践とつなげる
マニュアル・手順書業務の手順、よくある質問更新されなくなると使われなくなるため、更新の担当を決める

ステップ4:教材とマニュアルを整える

繰り返し教える内容は、動画や手順書にしておきます。

新人が実際に手順を覚えながら手順書を作り、先輩が確認する方法は、教材づくりと学びを同時に進められる方法です。

研修動画の配信や受講の管理には、eラーニングの仕組みを使う方法もあります。

用意された講座と自社独自の研修の両方を配信できるeラーニングサービスのように、既製の講座と社内の教材をまとめて管理できるものもあります。

ステップ5:教える人を育て、役割を分ける

教育を仕組みにしても、教える人がいなければ回りません。

教える役割を1人に集中させず、内容ごとに担当を分けることが大切です。

  • 業務の手順を教える担当
  • 困りごとを聞く相談役(メンター)
  • 社内のツールやデジタル機器の使い方を教える担当

特に、社内のデジタル化を進める場面では、ツールの使い方を社内で教えられる人がいると、外部に頼らずに定着させやすくなります。

教える人にも「教え方」を学ぶ機会を用意すると、教育の質がそろいやすくなります。

厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」でも、現場のリーダーの役割が重視されています。

現場の課題を把握し、労使の結節点となっている現場のリーダーが、個々の労働者の学び・学び直しの方向性・目標の擦り合わせや、キャリア形成のサポートなどの役割を担うことは、ここまでの取組を成功させる鍵となります。

出典:厚生労働省「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」特設サイト

教える人を「善意の協力者」ではなく、育成の役割を担う人として位置づけることが、仕組み化の要になります。

ステップ6:確かめ、振り返り、改善する

教育の効果は、到達目標に照らして確かめます。

1か月・3か月などの節目に面談を行い、できるようになったこと、まだ難しいことを本人と教える人で確認します。

新人がつまずいた点は、教材や順番を見直す材料になります。

半年や1年ごとに、教育の内容そのものを見直すことも忘れないようにしましょう。

社内で教える人を育てるポイント

仕組み化を続けるうえで、社内で教える人の存在は欠かせません。

教えることが得意な人に任せきりにするのではなく、教える人を計画的に育てることが大切です。

教える内容と時間を業務として扱う

教える仕事が「本来の業務の合間にやること」になっていると、忙しい時期に真っ先に後回しになります。

教える時間を予定に入れ、評価の項目にも含めると、教える人の負担が正当に扱われます。

研修の受講を業務として位置づける場合は、受講の時間の扱いもあわせて決めておきます。常時10人以上の労働者を使用する使用者が職業訓練に関する定めをする場合は、その内容を就業規則に記載する必要があります(出典:e-Gov法令検索「労働基準法」)。

教え方の型をそろえる

「やって見せる、説明する、やらせてみる、振り返る」のように、教え方の基本の流れを決めておくと、教える人による差が小さくなります。

教える人同士で、うまくいった教え方やつまずきやすい点を共有する場を設けるのも有効です。

デジタルツールの教え手を社内に置く

新しいツールを導入しても、使い方を聞ける人が社内にいないと、使われないまま終わることがあります。

部署ごとにツールの使い方を教えられる人を置くと、質問がその場で解決し、社内のデジタル化が進みやすくなります。

外部の研修で教え手を育て、その人が社内で教える形にすると、外部に頼り続けずに済むという利点もあります。

仕組み化のチェックリスト

自社の社員教育の状況を、次の項目で確かめてみてください。

  • 職種や役割ごとに、教える内容が書き出されている
  • 入社からの期間ごとに、到達目標が決まっている
  • 繰り返し教える内容が、動画や手順書になっている
  • 教える担当が決まっており、1人に集中していない
  • 教える人が、教え方を学ぶ機会がある
  • 節目ごとに振り返りの面談を行っている
  • 教材や手順書を更新する担当と時期が決まっている
  • 教育の効果を確かめる指標(到達目標の達成、早期離職者数など)がある

よくある失敗と防ぎ方

よくある失敗起きやすい原因防ぎ方
マニュアルを作ったが使われない現場の実態と合っていない、更新されない現場の社員と一緒に作り、更新の担当を決める
eラーニングを入れたが受講されない受講する時間と目的が決まっていない業務時間内の受講時間を決め、到達目標とつなげる
研修を受けても現場が変わらない研修と現場の業務がつながっていない研修後に実践する場面と、振り返りの面談を用意する
教える人が疲弊する教育の役割が一部の人に集中している内容ごとに担当を分け、教える時間を業務として確保する

仕組み化は、一度に完成させる必要はありません。

最も困っている職種や、最も早期離職が多い時期から始め、少しずつ広げていくことが現実的です。

費用の考え方と助成金の確認点

社員教育の仕組み化にかかる費用は、自社で教材を作るか、外部のサービスを使うかによって変わります。

費用の種類

費用の種類内容費用の形の例
社内の時間教材づくり、教える時間、振り返りの面談直接の支出はないが、業務の時間が減る
eラーニング講座の配信、受講の管理利用者数に応じた月額、または年額が多い
外部研修新人研修、管理職研修、専門スキルの研修1回ごと、または受講者数に応じた料金
社内講師の育成社内で教える人を育てる研修対象人数や期間に応じた料金

なお、厚生労働省の調査では、OFF-JTに費用を支出した企業における労働者1人当たりの平均額は2.0万円(令和6年度の1年間)でした。自己啓発支援に支出した費用の1人当たり平均額は0.4万円です(出典:厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査 調査結果の概要」)。

これは企業規模や業種を問わない平均値のため、自社の予算を考える際の参考程度にとどめてください。

費用を比べるときは、利用する人数、期間、自社独自の教材を載せられるかなどの条件をそろえて見積もりを並べるのが目安です。

助成金の確認点

社員教育には、厚生労働省の人材開発支援助成金が使える場合があります。

人材開発支援助成金には、人材育成支援コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなど複数のコースがあり、人への投資促進コースでは定額制訓練(サブスクリプション型)などを実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部などが助成の対象とされています(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。

ただし、訓練の計画を事前に提出する必要があるなど、細かな要件があります。

たとえば人材育成支援コースは、雇用する被保険者に職務に関連した知識・技能を身につけさせる訓練などを行った場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部を助成するものとされています(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。

また、相談役(メンター)の仕組みを新たに整える場合は、人材確保等支援助成金の「職場活性化制度」の対象になることがあります。離職率の低下目標などの要件があるため、あわせて確認してください(出典:厚生労働省「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」)。

対象になる訓練や助成の割合は年度によって変わるため、利用を考える場合は、研修を始める前に最新の案内と労働局の窓口で確認してください。

向いていないケース・自社でできること

次のような場合は、外部のサービスを急いで入れる必要はないかもしれません。

  • 採用が年1人程度で、経営者や先輩が付きっきりで教えられる
  • 教える内容がまだ固まっておらず、教材にしてもすぐに変わる
  • 受講する時間を業務の中で確保できない

このような場合は、まず自社でできることから始めます。

入社3か月の到達目標を書き出す、よくある質問をまとめる、教える担当を2人以上に分ける、1か月目の振り返り面談を予定に入れる、といった取り組みは費用をかけずに始められます。

教える内容と順番が固まってきた段階で、繰り返し教える部分をeラーニングにする、社内で教える人を育てる研修を使う、といった形で外部の力を足すと、無駄が少なくなります。

あわせて読みたい

ツナグバで、社員教育のサービスを比べる

ツナグバは、法人向けサービスを無料で探し、複数のサービスの資料をまとめて請求できるサイトです。

人材育成・研修の分野では、社員教育の仕組み化に関わる次のようなサービスを掲載しています。

  • 研修動画の配信や受講管理ができるeラーニングサービス。用意された講座と、自社独自の研修の両方に使えます
  • 社内でデジタルツールの使い方を教えられる人材(デジタル講師)を育成する研修サービス

社員教育を仕組み化したい企業や、社内のデジタル化を自走させたい企業に向いたサービスです。

対応している内容や費用の条件は、資料で確認してから比べることをおすすめします。

多機能なeラーニングサービス

こんな課題に向いています。

  • 新人研修を毎回担当者が対面で行っていて、時間を取られている
  • 誰がどの研修を受けたか、管理できていない
  • 拠点や勤務時間が違う社員に、同じ研修を受けてもらうのが難しい

主な特徴は次のとおりです。

  • 研修動画を配信できる:研修の動画を配信し、社員が自分の都合のよい時間に受講できます。同じ内容を繰り返し説明する手間を減らせます。
  • 受講の状況を管理できる:誰がどの講座を受けたか、どこまで進んだかを確認できます。受講の促しや記録の管理に使えます。
  • 用意された講座と自社の研修を両方使える:ビジネスの基本などの講座が用意されていて、自社で作った研修も載せられます。講座の内容や数は製品によって違うため、資料で確認してください。

資料で確かめたいことの例です。

  • 利用人数ごとの料金と、講座の追加費用
  • 自社の研修動画や資料を載せられるか、その方法
  • スマートフォンで受講できるか

このサービスの詳細を見る

社内でデジタル講師を育てる研修

こんな課題に向いています。

  • 新しいツールを入れても、使い方が社内に広まらず定着しない
  • デジタルに詳しい社員に質問が集中し、本来の仕事が進まない
  • 外部の研修を受けても、自社の業務にどう生かすかが分からない

主な特徴は次のとおりです。

  • 社内で教える人を育てる研修:デジタルツールの使い方を、社内の同僚に教えられる人を育てる研修です。外部に頼り続けずに、社内で教え合う体制をつくる助けになります。
  • 教え方も学べる:ツールの使い方に加えて、相手に合わせた教え方も学ぶ内容が一般的です。研修の内容や時間は事業者によって違うため、資料で確認してください。
  • 自社の業務に合わせて進められる:自社で使っているツールや業務に合わせて内容を調整できる場合があります。調整できる範囲は、事前に確認してください。

資料で確かめたいことの例です。

  • 研修の対象ツールが、自社で使っているものと合っているか
  • 研修の形式(対面、オンライン)と、受講にかかる時間
  • 1人あたりの費用と、受講人数による違い

このサービスの詳細を見る

ほかの分野のサービスも見る

よくある質問

社員教育の仕組み化は何から始めればよいですか?

まずは、最も困っている職種について、入社3か月で必要なことを書き出すところから始めるのがおすすめです。

範囲を絞って始め、うまくいった形を他の職種に広げていくと、負担を抑えながら進められます。

OJTだけでは足りませんか?

OJTは現場の判断や実際の業務を学ぶうえで欠かせない方法です。

ただし、教える人によって差が出やすいため、教える項目を決めたうえで、繰り返し教える内容は動画や手順書で補うと、OJTの質がそろいやすくなります。

eラーニングを入れれば教育は仕組み化できますか?

eラーニングは教育を仕組み化する手段の一つですが、それだけで完成するわけではありません。

何を、どの順番で、どこまでできればよいかを決め、受講の時間と振り返りの場をあわせて用意することが大切です。

教える人が足りない場合はどうすればよいですか?

教える役割を内容ごとに分け、繰り返し教える部分を教材にすることで、1人あたりの負担を減らせます。

社内で教えられる人を育てる研修を使う方法もあります。

教育の効果はどう確かめればよいですか?

期間ごとの到達目標を達成できたか、早期離職者数が減ったか、教える人の負担が減ったかなどで確かめます。

節目の面談で本人と教える人の両方の声を聞くと、数字だけでは分からない改善点も見えてきます。

参考資料