設備の点検は、紙の点検表に手書きで記入し、事務所で表計算ソフトに打ち直す、という運用が今も多く見られます。
転記の手間に加え、記入漏れや、過去の記録を探すのに時間がかかることに悩んでいる担当者も少なくありません。
点検の記録をデジタル化すれば、こうした手間を減らせる可能性があります。ただし、設備点検の記録には、法律で記録の項目や保存期間が決められているものがあります。
この記事では、設備点検の記録をデジタル化する方法を、法律で求められる記録の整理から始めて解説します。記録の方法ごとの違い、電磁的記録で保存するときの注意点、進め方の手順、デジタル化を急がなくてよいケースもまとめています。
設備点検の記録をデジタル化するとは
設備点検の記録のデジタル化とは、点検の結果を紙ではなく、タブレットやスマートフォン、パソコンなどで入力し、データとして保存・共有することです。
対象になるのは、日常点検、定期点検、巡回点検、法律で決められた法定点検など、点検の種類を問いません。
デジタル化で変わるのは、主に次の3つです。
- 入力:現場で直接入力するため、事務所での転記がなくなる
- 共有:入力した結果を、事務所や管理者がすぐに確認できる
- 活用:過去の記録を検索・集計し、不具合の傾向や修繕の計画に使える
一方で、点検そのものの手順や、点検できる資格者の決まりが変わるわけではありません。デジタル化は、点検の「記録」と「その後の流れ」を変える取り組みです。
設備点検の記録で法律が求めていること
デジタル化の前に、自社の設備にどのような記録の決まりがあるかを確認しておく必要があります。
設備の種類によって、記録する項目や保存期間を決めている法律が異なるためです。

労働安全衛生法の定期自主検査
労働安全衛生法では、ボイラーなどの政令で定める機械等について、事業者が定期に自主検査を行い、その結果を記録することを求めています。
事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚生労働省令の定めるところにより、定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない。
出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第四十五条
条文は「検査を行う」ことと「結果を記録する」ことを並べて求めています。記録は検査の一部と考えておくとよいでしょう。
記録の項目と保存期間は、労働安全衛生規則で機械等ごとに定められています。たとえば動力プレスの定期自主検査は1年以内ごとに1回行い、検査年月日、検査方法、検査箇所、検査の結果、検査を実施した者の氏名、補修等の措置の内容を記録して、3年間保存することとされています(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」)。
デジタルの点検表を作るときは、こうした記録の項目が入力欄として漏れなく入っているかを確認します。
消防用設備等の点検と維持台帳
消防法では、防火対象物の関係者が、消防用設備等を定期に点検し、その結果を消防長または消防署長に報告することが定められています(出典:e-Gov法令検索「消防法」)。
点検の結果は維持台帳に記録し、防火対象物の区分に応じて1年に1回または3年に1回報告することとされています(出典:e-Gov法令検索「消防法施行規則」)。
建築物衛生法の帳簿書類
多くの人が利用する一定規模以上の建物(特定建築物)では、空気環境の調整、給水・排水の管理、清掃、ねずみ等の防除の状況を記載した帳簿書類を備え、5年間保存することが求められています(出典:e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」)。
このように、同じ建物や工場の中でも、設備によって記録の項目と保存期間が異なります。デジタル化の対象を決める前に、設備ごとに「根拠となる法律」「記録する項目」「保存期間」「報告の要否」を一覧にしておくと、後の設計が楽になります。
点検の記録は電磁的記録で保存できるのか
「法律で求められている記録を、紙ではなくデータで残してよいのか」は、デジタル化でよく出てくる疑問です。
民間事業者が法律で求められる書面を電磁的記録で保存できるようにするための共通ルールとして、いわゆるe-文書法があります。
民間事業者等は、保存のうち当該保存に関する他の法令の規定により書面により行わなければならないとされているもの(主務省令で定めるものに限る。)については、当該法令の規定にかかわらず、主務省令で定めるところにより、書面の保存に代えて当該書面に係る電磁的記録の保存を行うことができる。
出典:e-Gov法令検索「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」第三条
ここで押さえたいのは、「主務省令で定めるものに限る」「主務省令で定めるところにより」という部分です。電磁的記録で保存できる書面の範囲や保存の方法は、それぞれの法律を所管する省庁の省令で決められています(出典:e-Gov法令検索「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」)。
そのため、すべての記録が一律に電子保存できるとは限りません。自社の設備の記録が対象になるか、どのような条件で保存すればよいかは、所管の行政機関の案内で確認してください。
電磁的記録で保存する場合も、必要なときに画面に表示したり、書面に出力したりできる状態を保つことが基本になります。保存期間の途中でシステムをやめたときにデータを書き出せるかも、あわせて確認しておきます。
設備点検の記録方法を比べる
点検の記録方法には、大きく分けて4つの段階があります。自社の点検の量や設備の数に合わせて選びます。
| 記録の方法 | 向いている場面 | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 紙の点検表 | 点検の項目が少なく、担当者も少ない | 転記と保管の手間がかかる。過去の記録を探しにくい |
| 表計算ソフト | 事務所で記録をまとめたい | 現場では入力しにくく、結局は紙からの転記になりやすい |
| 点検アプリ | 現場で直接入力し、写真も残したい | 点検票の作り込みが必要。設備の台帳や修繕の記録とは別管理になりやすい |
| 設備・建物の管理システム | 点検、修繕、台帳をまとめて管理したい | 初期の設定と運用ルールづくりに時間がかかる |
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どの方法を選ぶ場合も、法律で求められる記録の項目と保存期間を満たせるかが前提です。
設備点検の記録をデジタル化するメリット
デジタル化のメリットは、手間が減ることだけではありません。点検の質と、記録の使い道も変わります。
転記と集計の手間が減る
現場で入力した結果がそのままデータになるため、紙から表計算ソフトへの打ち直しがなくなります。報告書も記録から集計して作れるようになります。
記入漏れや異常に気づきやすくなる
必須の項目を入力しないと完了できない設定や、基準値から外れた数値に注意を出す設定ができると、記入漏れや異常の見落としを減らせます。
写真と記録をひもづけて残せる
不具合の写真を点検項目と一緒に残せると、後から状態を確認しやすくなります。修繕を依頼するときも、写真を見せながら説明できます。
過去の記録を探せる・比べられる
設備ごとに記録が時系列でたまるため、同じ不具合が繰り返していないか、数値が少しずつ悪くなっていないかを確認できます。修繕や更新の計画を立てる材料になります。
担当者が替わっても引き継ぎやすい
点検の経過や不具合の対応状況がデータで残っていれば、担当者が替わったときも、同じ画面を見れば経過が分かります。特定の人の記憶や手元のファイルに頼らない状態をつくれることも、デジタル化の大きな利点です。
点検の方法そのもののデジタル化も検討が進んでいる
国は、目視や定期点検などを求める規制を、デジタル技術を使えるように見直す取り組みを進めています(出典:デジタル庁「アナログ規制見直しの取組」)。
消防用設備等の点検でも、カメラ等を使った遠隔点検について検討が進められています。
令和8年度は、消防用設備等のうち消火器及び自動火災報知設備を例として、目視に代えることができるカメラ等の評価項目・要求水準等について検討を行う。
出典:消防庁 予防行政のあり方に関する検討会(令和8年度第1回)資料3「消防用設備等の点検業務のデジタル化の取組等に関する検討について」
この資料は令和8年7月2日の検討会のもので、内容は検討の段階です。点検の方法を変えるときは、最新の基準を所管の行政機関や点検の資格者に確認してください(出典:消防庁 資料3「消防用設備等の点検業務のデジタル化の取組等に関する検討について」)。
記録をデジタルで残す仕組みを先に整えておくと、点検の方法が変わったときにも対応しやすくなります。
設備点検の記録をデジタル化する進め方
デジタル化は、ツール選びから始めるより、今の点検の棚卸しから始めるほうが失敗しにくくなります。次の4つの手順で進めます。

- 点検を棚卸しする:設備ごとに、点検の種類、頻度、担当者、根拠となる法律、記録の項目と保存期間を一覧にする
- 点検票をそろえる:同じ種類の設備は、点検の項目、判定の基準、記入の方法を統一する
- 小さく試す:一つの建物や一つの設備の種類に絞って、1〜2か月試す
- ルールを決めて広げる:入力の期限、写真の撮り方、異常時の連絡先、データの保存と書き出しのルールを決めてから広げる
特に2つ目の点検票の標準化を飛ばすと、紙の点検表をそのまま画面に置き換えただけになり、集計や比較に使えないデータがたまりがちです。
1つ目と2つ目は、ツールを入れる前に社内で進められます。この2つができていると、ツールを比べるときに必要な機能もはっきりします。
デジタルの点検票に入れておきたい項目
点検票を画面に置き換えるときは、紙の点検表にあった項目をそのまま写すだけでなく、後で検索や集計に使える形にしておくことが大切です。
一般的に、次のような項目をそろえておくと使いやすくなります。
| 項目 | 入れておく理由 |
|---|---|
| 設備の名称と識別番号 | 同じ種類の設備が複数あっても、記録を取り違えないため |
| 点検の種類と根拠 | 日常点検か法定点検か、どの法律に基づくかを後から確認するため |
| 点検日と実施者 | 法律で記録が求められる項目であることが多いため |
| 点検の項目と判定 | 良・否などの判定を選択式にすると、集計しやすくなるため |
| 測定値と基準値 | 数値の変化を時系列で比べ、異常に気づきやすくするため |
| 写真 | 不具合の状態を、言葉だけでなく画像で残すため |
| 処置の内容と完了日 | 補修などの措置を記録し、対応の漏れを防ぐため |
自由記述の欄は便利ですが、そればかりに頼ると後から集計できません。判定や不具合の種類は、できるだけ選択式にしておくのがおすすめです。
労働安全衛生規則のように、記録すべき事項が条文で決められている場合は、その事項を必須の入力欄にしておくと、記入漏れを防げます(出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」)。
ツールを選ぶときの判断基準
点検アプリや管理システムを比べるときは、次の点を確認します。
- 法律で求められる記録の項目を入力欄として作れるか
- 保存期間のあいだ、記録を検索・表示・出力できるか
- 写真や測定値を点検項目にひもづけて残せるか
- 電波の届きにくい場所(地下の機械室など)でも入力できるか
- 点検の結果から報告書を作れるか。自社や取引先の様式に合わせられるか
- 協力会社やオーナーに、見せる範囲を分けて共有できるか
- やめるときに、データを一般的な形式で書き出せるか
費用は、利用する人数、設備や建物の数、使う機能によって変わることが多く、一律の相場で比べるのは難しいのが実情です。自社の条件をそろえて複数のサービスから見積もりを取り、初期費用、月々の費用、データ移行の費用を分けて比べてください。
クラウドのサービスを使う場合は、情報セキュリティの確認も欠かせません。IPAは中小企業向けに、経営者が実施すべき指針と社内での対策の手順をまとめたガイドラインを公開しており、付録としてクラウドサービスの安全利用の手引きも用意しています(出典:IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」)。
デジタル化を急がなくてよいケース
次のような場合は、ツールの導入より先に、今の運用を整えることを優先したほうがよいことがあります。
- 点検する設備が少なく、紙の点検表で記入漏れや保管の問題が起きていない
- 点検の項目や様式が担当者ごとにばらばらで、まだそろえられていない
- 取引先や行政への報告で、紙の様式が求められていて、すぐには変えられない
- 現場の担当者が端末での入力に慣れておらず、教える時間が取れない
こうした場合は、まず点検票の様式をそろえる、保管の場所とファイル名のルールを決める、といった社内でできる整理から始めます。点検の量が増えたときにツールを検討すれば、移行もしやすくなります。
デジタル化の前に確認したいチェックリスト

- 設備ごとに、根拠となる法律と記録の項目を一覧にした
- 記録の保存期間(例:建築物衛生法の帳簿書類は5年、動力プレスの定期自主検査の記録は3年)を確認した
- 電磁的記録で保存してよいか、保存の条件を確認した
- 同じ種類の設備の点検票をそろえた
- 試す範囲と期間、効果の確かめ方を決めた
- 異常があったときの連絡の流れを決めた
- アカウントの権限と、退職者のアカウントを止める手順を決めた
- やめるときにデータを書き出せるかを確認した
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点検の記録をどこまで扱えるか、料金はどう決まるかは、資料で確認できます。
今の点検の棚卸しをしたうえで、自社に合うかを資料で確かめてから検討してください。
こんな課題があれば
- 点検や修繕の記録が紙や表計算ファイルに分かれ、必要なときに探せない
- 入居者からの問い合わせ対応の経緯が、担当者にしか分からない
- 複数の建物を管理していて、点検の予定や期限の漏れが心配になっている
掲載サービスでできること
- 建物ごとの情報をまとめて管理できる:点検の記録、修繕の履歴、設備の情報などを建物ごとに一か所にまとめられます。担当が変わっても、過去の経緯を確認できます。
- 点検や修繕の予定を共有できる:点検の予定や修繕の進み具合を、関係者で同じ画面から確認できます。予定の通知などの機能は製品によって違うため、資料で確認してください。
- 入居者対応の記録を残せる:問い合わせの内容と対応の状況を記録できます。誰がどこまで対応したかが分かるので、引き継ぎがしやすくなります。
資料で確かめたいこと
- 管理している建物の種類や数に合った料金体系か
- いまの紙や表計算ファイルのデータを移せるか
- 現場の担当者がスマートフォンやタブレットで使えるか
- 会計や入居者管理など、ほかのシステムと連携できるか
- 導入時の設定やデータ移行を手伝ってもらえるか
よくある質問
点検の記録をデジタル化するとき、紙の原本は捨ててもよいですか?
法律で書面での保存が求められている記録を電磁的記録に切り替える場合は、所管の省令で定める方法に従う必要があります(出典:e-Gov法令検索「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」)。
対象や条件を所管の行政機関に確認するまでは、紙の原本も保存期間のあいだ残しておくと安心です。
スマートフォンとタブレットのどちらで入力するのがよいですか?
点検の項目が多い場合や図面を見ながら入力する場合はタブレット、巡回しながら短く入力する場合はスマートフォンが使いやすい傾向があります。
実際の現場で両方を試し、手袋をしたままで入力できるか、片手で持てるかなども確認してください。
電波が届かない場所の点検はどうすればよいですか?
通信できない場所でも入力でき、電波の届く場所でまとめて送信できるツールがあります。地下の機械室などを点検する場合は、この機能があるかを確認してください。
点検の記録をデジタル化すると、点検の時間も短くなりますか?
点検そのものの手順は変わらないため、点検の時間が大きく短くなるとは限りません。
減りやすいのは、転記、集計、報告書づくり、過去の記録を探す時間です。導入前に、こうした作業にかかっている時間を測っておくと、効果を確かめやすくなります。
参考資料
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生規則」
- e-Gov法令検索「消防法」
- e-Gov法令検索「消防法施行規則」
- e-Gov法令検索「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行規則」
- e-Gov法令検索「民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」(平成16年法律第149号)
- 消防庁 予防行政のあり方に関する検討会(令和8年度第1回)資料3「消防用設備等の点検業務のデジタル化の取組等に関する検討について」(2026年7月2日)
- デジタル庁「アナログ規制見直しの取組」
- IPA「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」(第4.0版、2026年3月27日公開)
