機械翻訳の精度が上がり、海外の取引先とのメールや資料を、まず機械翻訳にかける会社が増えています。一方で、そのまま使うには不安が残り、誰がどこまで直せばよいのか迷う場面も多いはずです。
そこで使われているのが、機械翻訳の訳文を人が確認して直す「ポストエディット」です。ただ、ポストエディットにも直す深さの違いがあり、頼み方を決めないと、期待した品質にならないことがあります。
この記事では、ポストエディットとは何かを、業界団体のガイドラインとISO規格をもとに整理します。ライトとフルの違い、人の翻訳との使い分け、発注の流れ、決めておくこと、費用の考え方、向いていないケースまでまとめました。
内容は2026年10月25日に各資料で確認したものです。
ポストエディットとは
ポストエディット(Post-editing、PE)は、機械翻訳の出力を人が確認し、修正する作業です。一般社団法人アジア太平洋機械翻訳協会(AAMT)のガイドラインでは、機械翻訳の出力結果を確認し修正する業務をポストエディットと呼んでいます(出典:AAMT ポストエディット委員会「AAMT ポストエディットガイドライン Ver.1.0」(2025年7月))。
人が一から訳す翻訳とは、出発点が違います。人の翻訳は原文を読んで訳文を作りますが、ポストエディットは機械翻訳の訳文を原文と照らし合わせ、誤りや不自然な部分を直していきます。
国際規格もある
ポストエディットには、国際規格もあります。ISO 18587:2017は、機械翻訳の出力を人が全面的にポストエディットするプロセスと、ポストエディターの能力についての要件を定めた規格です(出典:ISO「ISO 18587:2017 Translation services — Post-editing of machine translation output — Requirements」)。
翻訳サービス全般の規格としては、ISO 17100:2015があります。ISO 17100は、機械翻訳の出力にポストエディットを加える方式は対象外としています(出典:ISO「ISO 17100:2015 Translation services — Requirements for translation services」)。つまり、人の翻訳とポストエディットは、規格の上でも別のサービスとして扱われています。
機械翻訳の進歩が背景にある
ポストエディットが広がった背景には、機械翻訳の精度の向上があります。総務省は2020年3月に「グローバルコミュニケーション計画2025」を公表し、2025年にAIによる同時通訳の実現と社会実装を目指すとしていました(出典:総務省「グローバルコミュニケーション計画2025」の公表(2020年3月31日))。計画では、多言語翻訳技術が日常生活からビジネスへ広がる段階にあると位置づけています(出典:総務省「グローバルコミュニケーション計画2025」)。
令和8年版の情報通信白書では、国の研究機関の多言語翻訳技術が23言語で実用レベルの翻訳精度を実現し、技術移転を通じて40を超える民間サービスが展開されているとしています(出典:総務省「令和8年版 情報通信白書 多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」)。
精度が上がったとはいえ、機械翻訳には誤訳や訳抜けが残ることがあります。どこまで人が直すかを決め、品質に責任を持つ仕組みとして、ポストエディットが使われています。
ライトポストエディットとフルポストエディットの違い
ポストエディットは、直す深さによって大きく2つに分かれます。AAMTのガイドラインでは、ISO 18587:2017にもとづく分類として、フルポストエディットとライトポストエディットを説明しています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。
フルポストエディットは、専門の翻訳者による翻訳と同等の品質を目指すプロセスとされています。一方、ライトポストエディットについて、ガイドラインは次のように説明しています。
翻訳処理のスピードを重視してフルポストエディットに含まれる作業項目の一部を省略したり簡略化したりするポストエディットです。
出典:AAMT ポストエディット委員会「AAMT ポストエディットガイドライン Ver.1.0」
ライトポストエディットでは、訳文の正確さが保たれていれば、表現の統一までは求めない場合もあるとされています。どちらを選ぶかで、仕上がりも、かかる時間も変わります。

| 項目 | ライトポストエディット | フルポストエディット |
|---|---|---|
| 目指す品質 | 意味が正しく伝わる | 専門の翻訳者による翻訳と同等 |
| 重視すること | スピード | 品質 |
| 直す範囲 | 誤訳や訳抜けなど、意味に関わる誤りが中心 | 意味の誤りに加え、用語の統一や表現の自然さまで |
| 向いている文書の例 | 社内で内容を把握するための資料、問い合わせの下訳 | 社外に出す資料、マニュアル、ウェブサイト |
表の「向いている文書の例」は、一般的な目安です。同じ種類の文書でも、読み手や使い方によって必要な品質は変わります。
人の翻訳・ポストエディット・機械翻訳だけの使い分け
翻訳の方法は、機械翻訳だけ、ポストエディット、人の翻訳の3つから選ぶことになります。選ぶときの軸は、誤りがあったときの影響の大きさと、読み手が誰かです。
- 機械翻訳だけ:社内で内容をざっとつかむ。誤りがあっても影響が小さい
- ライトポストエディット:社内で正確に内容を共有したい。意味の誤りは避けたい
- フルポストエディット:社外に出す文書。正確さと読みやすさの両方が必要
- 人の翻訳:広告のコピーや、表現そのものが価値になる文書。機械翻訳の質が低い分野や言語
AAMTのガイドラインは、すべての翻訳やポストエディットに同じ基準を当てはめることはできず、文書の種類や用途ごとに仕様をすり合わせる必要があるとしています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。どの方法がよいかは、文書ごとに決めるものです。

ポストエディットの進め方
AAMTのガイドラインでは、ポストエディットを委託する側と受託する側の進め方として、次のような流れが示されています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。
- 要求仕様の合意:修正の対象とする項目を一覧にした品質仕様書を作り、委託する側と合意する
- サンプル翻訳:受託する側が少量を先にポストエディットし、品質の基準に食い違いがないかを確かめる
- サンプル集の作成:継続する案件では、修正の方針を示す事例集を作る
- 作業の指示:ポストエディターに作業を指示する
- 品質の問題への対応:原文、機械翻訳の出力、修正後の訳文のどこに問題があるかを切り分け、対策を考える
特に大切なのが、最初の「要求仕様の合意」と「サンプル翻訳」です。どこまで直すかを言葉だけで決めると、発注する側と作業する側で認識がずれやすくなります。少量を先に仕上げてもらい、品質を目で確かめてから本番に進むと、手戻りを減らせます。
品質に問題が見つかったときは、原文の書き方、機械翻訳の出力、ポストエディットの作業のどこに原因があるかを切り分けます。ガイドラインでは、根本原因を分析し、緊急の是正措置と恒久的な是正措置をとるとしています。原文の書き方を見直すと、機械翻訳の出力そのものがよくなることもあります。
社内でポストエディットする場合の注意
外国語のできる社員が、機械翻訳の訳文を直す形で社内のポストエディットを行う会社もあります。費用を抑えやすい一方で、本来の業務の合間に行うため、確認の深さが人によってばらつきやすくなります。
社内で行う場合も、どこまで直すかの基準、用語集、確認の手順を決めておくことが大切です。担当者が一人だけだと、その人が休むと止まってしまいます。量が多い時期や、社外に出す重要な文書だけは外部に頼むなど、社内と外部の分担を決めておくと無理なく続けられます。
発注前に決めておくこと
ポストエディットを外部に頼む場合も、社内で行う場合も、事前に決めておくことがあります。AAMTのガイドラインでは、委託する側と受託する側で取り決める事項として、情報セキュリティ、実現可能性、費用負担、品質仕様が挙げられています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。
情報セキュリティ
機械翻訳のサービスに文書を入れると、その内容がサービスの提供者に渡ります。ガイドラインでは、入力したデータを機械翻訳サービスの提供者が再利用するかどうか、機械翻訳を実行する国や地域、データを保持するかどうかと保持期間を確認するよう挙げています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。
個人情報を含む文書を扱う場合は、個人情報保護法との関係にも注意が必要です。個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用について、次のように注意を呼びかけています。
個人情報取扱事業者が生成 AI サービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること。
出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)
同じ注意喚起では、本人の同意なく個人データを入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性があるとしています。入力する場合は、サービスの提供者が個人データを機械学習に使わないことなどを十分に確認するよう求めています(出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日))。機械翻訳に生成AIを使う場合も、同じ考え方で確認しておくと安全です。
実現可能性と品質仕様
機械翻訳のサービスと分野の相性や、対象の言語に対応しているかも確認します。そのうえで、誤訳、訳抜け、用語の統一など、修正の対象とする項目と、どこまで直すかを品質仕様として決めます。ガイドラインでは、MQMやISOのエラーの分類を参考にすると効率的とされています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。
社内で事前に用意しておくと話が早いのは、次のようなものです。
- 文書の用途と読み手(社内向けか、社外向けか)
- 求める品質(ライトか、フルか)と納期
- 社内の用語集や、過去の翻訳の例
- 修正しなくてよい項目(社内向けなら表現の統一は不要、など)
- 機密の程度と、使ってよい機械翻訳サービスの条件
費用の考え方
ポストエディットの費用は、条件によって大きく変わります。一律の相場を当てはめるより、何で費用が決まるかを押さえておくほうが、見積もりを比べやすくなります。
- 機械翻訳の出力の質:誤りが多いほど直す量が増える
- 求める品質:ライトよりフルのほうが作業が多い
- 分野の専門性:法務、医療、技術など専門的な分野ほど確認に手間がかかる
- 言語の組み合わせ:機械翻訳の精度が言語によって違う
- 機械翻訳サービスの料金:どの費用を誰が負担するかを決める
AAMTのガイドラインも、機械翻訳の結果が不正確だとポストエディットの作業が増えるため、修正が少なくて済む機械翻訳サービスを選ぶことが重要だとしています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。見積もりを取るときは、サンプルの文書を渡し、同じ条件で比べると判断しやすくなります。
ポストエディットが向いていないケース
ポストエディットは、どんな文書にも向いているわけではありません。AAMTのガイドラインも、納期、品質、コストの優先順位によっては、ポストエディットの方式が適さない場合があるとしています(出典:AAMT「ポストエディットガイドライン Ver.1.0」)。次のような場合は、人の翻訳や、別の方法を検討してください。
- 広告のキャッチコピーなど、表現そのものが価値になる文書
- 機械翻訳の質が低く、直すより一から訳したほうが早い文書
- 原文があいまいで、まず原文を書き直す必要がある文書
- 機密が高く、機械翻訳のサービスに入れられない文書
反対に、社内で内容をつかめれば十分な文書なら、機械翻訳だけで済ませ、重要な部分だけ人が確認するという選択もあります。すべてを外部に頼む必要はありません。
社内でできる簡単なチェック
外部に頼まず社内で機械翻訳を確認する場合は、少なくとも次の点を確かめると、大きな誤りを防ぎやすくなります。

- 数字、日付、金額、単位が原文と合っているか
- 社名、人名、製品名などの固有名詞が正しいか
- 否定の表現(〜しない、〜を除く)が逆になっていないか
- 文や段落が丸ごと抜けていないか
- 同じ用語が、文書の中で同じ訳になっているか
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機械翻訳を社内で使いながら、重要な文書だけ人の確認を入れたいときに、資料で対応の範囲を確認できます。
こんな課題があれば
- AI翻訳の誤訳や訳抜けが、そのまま社外に出ていないか不安がある
- 契約書や提案書など、大切な書類の訳文を確かめる人が社内にいない
- 英語以外の言語にも対応したい
掲載サービスでできること
- プロの翻訳者がAI翻訳をチェックする:AI翻訳の誤訳や訳抜けを、プロの翻訳者が確認します。必要に応じて翻訳そのものも依頼できます。
- 多言語に対応:英語のほか、中国語や韓国語、東南アジアの言語、欧米の言語にも対応しています。
- 全文翻訳より費用を抑えやすい:AI翻訳を生かしてチェックを中心にするため、すべてを一から翻訳するよりも費用を抑えやすくなります。料金は内容に応じた打ち合わせで決まります。
資料で確かめたいこと
- 必要な言語と、書類の分野に対応しているか
- チェックの範囲(誤訳、訳抜け、用語の統一など)
- 納期と、急ぎのときの対応
- 料金の決まり方と、見積もりの出し方
- 機密保持の取り決め
よくある質問
ポストエディットと、翻訳会社のチェックは何が違いますか?
ポストエディットは、機械翻訳の訳文を出発点に、原文と照らし合わせて直す作業です。人が訳した訳文を別の人が確認する作業とは、出発点が違います。どちらを頼むのかを、発注の時点ではっきりさせておくと行き違いを防げます。
ライトとフル、どちらを選べばよいですか?
文書の用途と読み手で決めます。社内で正確に内容を共有できればよい文書はライト、社外に出す文書や読みやすさも必要な文書はフルが目安です。迷う場合は、少量をサンプルで仕上げてもらい、品質を見て決めると確実です。
機械翻訳に社外秘の文書を入れても大丈夫ですか?
使うサービスの条件によります。入力したデータが再利用されるか、どこで処理されるか、保持されるかを確認してください。個人情報を含む場合は、個人情報保護委員会の注意喚起もあわせて確認し、社内のルールを決めておきましょう。
ポストエディットなら、人の翻訳より必ず安くなりますか?
必ずとは限りません。機械翻訳の出力の質が低い文書や、専門性の高い文書では、直す量が増えて人の翻訳と変わらなくなることもあります。サンプルで見積もりを比べて判断してください。
参考資料
- AAMT ポストエディット委員会「AAMT ポストエディットガイドライン Ver.1.0」(2025年7月24日制定)
- ISO「ISO 18587:2017 Translation services — Post-editing of machine translation output — Requirements」(2017年4月)
- ISO「ISO 17100:2015 Translation services — Requirements for translation services」(2015年5月)
- 総務省「グローバルコミュニケーション計画2025」の公表(2020年3月31日)
- 総務省「グローバルコミュニケーション計画2025 ~多言語翻訳技術の高度化と社会実装の更なる進展へ~」(2020年3月)
- 総務省「令和8年版 情報通信白書 多言語翻訳技術の高度化に関する研究開発」(2026年)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2026年10月25日確認)
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(別添)(令和5年6月2日)
